上 下
33 / 35
後日譚

皇女は仮面舞踏会で奇跡を手にする・前

しおりを挟む
今宵こよい皇家こうけ主催の仮面舞踏会かめんぶとうかい

皇帝アレクシスが、元々は「おのれの伴侶つがい探し」の為に半年ごとに始めたいきもよおし。それが、その後も続いている。

皇帝アレクシスが「唯一無二ゆいいつむに伴侶つがい」との“奇跡の出逢い”を果たした仮面舞踏会かめんぶとうかい

今やブレイディ王国の王女セレーナと皇帝アレクシスの出逢いは、まるでお伽話とぎばなしのように、貴族達の間には伝わっている。

おかげで皇家こうけ主催の仮面舞踏会かめんぶとうかいは、紳士淑女しんししゅじょの出逢いと逢瀬おうせの場となり、今も続く。

その反面、成人を迎えていない者や身元の確かではない者の来場は許されてはいない。




* * * * * * * * * *


今年は特に盛況を見せている仮面舞踏会かめんぶとうかい

しくも此度こたび仮面舞踏会かめんぶとうかいは、皇后セレーナ主催とあり、優美ゆうびで洗練されたもよおしとなっている。

豪華な大広間は、品よく白い薔薇ばらや百合の花々で統一され、まるで夜を思わせるように、窓には黒を基調とした垂れ幕が掛けられ、そこには黄金の星々が散りばめられている。

いつもとは違う大広間の神秘的なよそおいに、来場した貴族達からは「素晴らしい……!」と感嘆かんたん吐息といき彼方此方あちらこちらかられる。

更には、皇后セレーナが参加する貴族達に命をくだす。

参加者が皇家こうけの色ともする黄金色は避けるのは当然ながら「此度こたび舞踏会ぶとうかいの衣装には、“青“や“銀色”を使う事は控えるようにー」とのまとを得ない通達。

その理由わけのちに知れる。




* * * * * * * * * * 


此度こたび仮面舞踏会かめんぶとうかい

皇后セレーナが主催するに至ったのは、成人を迎えた「皇家こうけの宝」と云われる双子星の皇太子ルークと皇女おうじょエレナが、父帝ふていアレクシスから参加を許されている為とも。

そして皇城こうじょう煌々こうこうたる豪華な大広間では、あでやかなよそおいに身を包み、きらびかな仮面で素顔を隠しては、夢のような一夜を求めて続々とつどう貴族達。


優美な調しらべが流れる中、歌や舞踏ぶとうたのしみ、美酒びしゅや美食を味わう。そして密かにたわむれる。

有意義な時の中、突如として優美な調しらべが止み、次第に静けさがおそう。

この場へとつどう貴族達がざわつき、その視線は正面の大階段へと自然と注がれ始める。

まさに、その最中さなかの事。

大広間へと続く大階段へと優雅ゆうが仕草しぐさで降りてきたのは、輝くばかりの青銀せいぎんの衣装を身にまとい、軽く結い上げたつややかな黒曜こくようの髪には、「純潔じゅんけつを表す白い百合の生花せいか」がさり、皇家こうけの色ともする黄金の装飾品で着飾る煌々こうこうしい淑女しゅくじょの姿。

その手を引くのは、青銀せいぎんの髪をなびかせる貴公子。帯刀たいとうする青銀せいぎんつるぎには、とる公爵家の紋章が彫られている。

二人共に“黄金の仮面“と“青銀せいぎんの仮面”で素顔を隠すも、その人物が「誰か?」などは、誰の目から見ても明らか。

そしてー……その淑女しゅくじょが「誰であるのかー」などは一目瞭然いちもくりょうぜん

もはや云わずがな。

皇家こうけの宝」とうたわれる皇女おうじょエレナと皇帝アレクシスの近衛騎士このえきしエヴァンに他ならない。

そして、大階段の中央への踊り場へと着けば、皇女おうじょエレナの足が止まる。自然と近衛騎士このえきしエヴァンの足も。




* * * * * * * * * *


二人のその様子を見守るのは、皇家こうけ専用の隠し窓からのぞく皇帝アレクシスと皇后セレーナ夫妻。

「アレク様……いとしいが子エレナの想いが叶うと良いのですがー……私達に出来るのは、その場をもうける事ぐらいー……」

「ふふっ、心配ないー……セレーナ。エヴァンは、ああ見えてもエレナの事を好いているのは確かー……本人は気付いていないが、エレナの事となると必要以上に感情があらわになるー……だからエレナの想いを受け入れるはずだよ、いとしいセレーナ……」

かたわらの愛する皇后セレーナの腰をいだく皇帝アレクシス。そのほほへと口付けを落とす。

「私達のように素晴らしい伴侶つがいとなるよ、まぁ、見ててごらん」

確信を持って明言する。

皇帝アレクシス夫妻は、そっといとしいが子エレナとその伴侶つがいとなる近衛騎士このえきしエヴァンの二人を身守る。


そしてついにその時。

まさかの皇女おうじょエレナの方が深く腰を折り、見事な拝礼はいれいをして見せる。

自身のつややかな黒曜こくようの髪にした「一輪の白百合しらゆり」を手に取れば、目の前の近衛騎士このえきしエヴァンへと差し出し、更には素顔をおおう仮面すら取り去る。

途端に、あらわになる皇女おうじょエレナ。

「ヴァレリア公爵家が嫡子ちゃくしエヴァン様ー……どうか、ルーカニア帝国が皇女おうじょエレナを貴方あなた様の伴侶はんりょへとお迎え頂けませんでしょうか? 私の愛と純潔を貴方あなた様だけにお捧げします。貴方あなた様こそが、私の“唯一無二の伴侶つがい”なのです」

恋情れんじょういだ近衛騎士このえきしエヴァンへと「一輪の白百合しらゆり」を差し出した皇女おうじょエレナ。

見惚みほれるほどに美しい笑みをたたえては、近衛騎士このえきしエヴァンを一心いっしんに見つめる。




* * * * * * * * * * 


このルーカニア帝国では、淑女しゅくじょの間でまことしやかに伝わる稀有けうな「婚姻こんいんの申し入れ」が存在する。

しくも、淑女しゅくじょの方から「純潔じゅんけつを表す一輪の白百合しらゆり」と同時に、想う相手へと恋情れんじょうを捧げ、その相手がその想いを受け取れば、二人は「永久とこしえ至福しふくに包まれる」と伝えられている。


皇家こうけ主催の仮面舞踏会かめんぶとうかいの場を利用して、皇后セレーナはいとしい娘エレナへの後押しとして「婚姻申し入れ」の機会を授ける。








しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

【R18】人気AV嬢だった私は乙ゲーのヒロインに転生したので、攻略キャラを全員美味しくいただくことにしました♪

奏音 美都
恋愛
「レイラちゃん、おつかれさまぁ。今日もよかったよ」 「おつかれさまでーす。シャワー浴びますね」 AV女優の私は、仕事を終えてシャワーを浴びてたんだけど、石鹸に滑って転んで頭を打って失神し……なぜか、乙女ゲームの世界に転生してた。 そこで、可愛くて美味しそうなDKたちに出会うんだけど、この乙ゲーって全対象年齢なのよね。 でも、誘惑に抗えるわけないでしょっ! 全員美味しくいただいちゃいまーす。

お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!

奏音 美都
恋愛
 まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。 「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」  国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?  国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。 「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」  え……私、貴方の妹になるんですけど?  どこから突っ込んでいいのか分かんない。

地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~

あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……

【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる

奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。 両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。 それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。 夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

処理中です...