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本編

断罪のその後〈終〉・田舎貴族の行き過ぎた想いと奴隷人形の役割

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辺境の田舎いなか貴族エドガーの屋敷の離れには、今や使われていない別邸べっていが建つ。

その別宅の地下に、隠された「地下牢」がある事を知ったのは、急逝きゅうせいした父の後を継ぎ、下位かい貴族ともする準男爵位じゅんだんしゃくいを受け継いでからのこと。

(父上は何の為に地下牢などー……)

当時はいぶかしんだ事も今ではそれとなく理解し、然程さほど気にも留めない。必要だから存在しているまでのこと。

“支配する側の貴族“と“される側の庶民しょみん”とでは、天と地ほどの差がある。

富を享受きょうじゅし、権力を有する者には、“慈悲じひ深い者”もいれば、“そうでない者”も当然存在し、つ、得てして残酷とも。




* * * * * * * * * *


以前。

愛する妻カーラをおとしめた一人の侍女を牢獄へと入れ、ひど鞭打むちうちの罰を与えた紳士エドガー。

き叫び、ゆるしを乞う侍女がいるも少しも心が痛まない。

幼い時より大切に見守る続けた愛妻カーラをおとしめ、心さえも壊した侍女の慈悲じひに耳を傾けるどころか、ゆるせるはずもない。

ーしかし、その反面では、鞭打むちうちで血を流す若いむすめのその柔肌やわはだを前に、「浅ましい……」とは思いながらも、あらぬ欲情をいだ畜生ちくしょうな紳士エドガーがいる事もいなめない。

しくも、まさにその時におのれのおすしての激しい欲情となぶる事をえつとする異常なへきを知る。

柔和にゅうわであるはずのおのれが、まさかの後者だと知れば、案外「納得ー」とばかりに容易よういに認める紳士エドガーもいる。

今では病んでしまった愛妻カーラをいだく事が出来ない一方で、その情欲じょうよくの炎と葛藤かっとうは増すばかり。

内心では尽きない情欲じょうよくに悩む紳士エドガーがいるも、愛妻カーラの負担となるような事をしたくはないのも、それもまた切実な本心。

その想いを決して表には出さず、人の寝静まる夜更けには、私室でおのれをなぐさめ、自慰じいにて欲情の白濁液はくだくえきを吐き出す紳士エドガーの姿がー……。


やるせ無い日々の中、それでも紳士エドガーには愛妻カーラへの深い情愛じょうあいは変わらない。

そして気付く。

愛妻カーラがが子のようにいつくしむ小さな人形をいだいている時だけは、心が安定している。

何気なにげこぼれた言葉。

「私のカーラは、本当にが子がいとおしいんだねー……それほどに子供が好きかい?」

ふふっ……と、花がほころぶように笑う愛妻カーラ。

やはり「いとおしいー」と思う夫君ふくんエドガー。愛妻カーラへの揺るぎない想いが尽きる事はない。

「ええっ、大好き……! エドガー様との子だから可愛くてー……ふふっ、エドガー様……私に子を授けてくれてありがとう……! カーラは本当に幸せね!」

いといしそうに人形をいだく愛妻カーラは、やはり「が子」がいれば安定している。会話も出来る。

(カーラ……それはが子ではなく、ただの人形なんだよー……君がそれほどに、私との子を望んでくれていたとはー……)

涙がこぼれる。

(ーならば、が子を君に授けてみせる、必ず……!)

そう固く誓う夫君ふくんエドガーは、どのような事をしても「が子」を愛妻カーラに授ける為に、密かに行動に出る。





* * * * * * * * * *


最愛の妻カーラの為なら、どこまでも非情ひじょうになれる夫君ふくんエドガーがいる。

その執念が実り、やがて捜しあてる。

愛妻カーラと同じ「金糸の巻き髪」に「緑翠りょくすいの瞳」をあわせ持つ没落ぼつらく寸前の伯爵令嬢フラヴィア。

困窮こんきゅうする伯爵家への援助とひきかえに、すぐさま婚姻の申し入れをすれば、快諾かいだくする強欲な伯爵夫人エミリア。

ーただ、紳士エドガーには、愛妻カーラ以外を妻へと迎える気は全くなく、伯爵令嬢フラヴィアは「が子」を産ませる為のに過ぎない。

愛することもない。

「花嫁として迎えるー」と云う言葉も建前たてまえ

実際は「が子」さえ手に入れば、あとはおのれの欲情を吐き出す為の“奴隷人形どれいにんぎょう”として扱うのみ。

最早もはや、紳士とは言い難いエドガーは、「情愛じょうあいを捧げる相手」と「欲情を満たす相手」を使い分ける事に躊躇ためらいはない。

既に、ゆがんでいるとも。


紳士エドガーのかけがえのない愛妻カーラには、ひたすら愛だけを与え、迎え入れる娘フラヴィアには、快楽と淫欲いんよくだけを求める。

今や皇帝アレクシスの逆鱗げきりんに触れ、咎人とがびととなった娘フラヴィアなら尚更に都合が良い。もはや“存在しない者”として扱う事が出来る。

最愛の妻カーラの為であれば、畜生ちくしょうにでもなれる紳士エドガー。

紆余曲折うよきょくせつはあるものの辺境の領地へと娘フラヴィアを迎え入れてしまえば、あとは別邸べっていの地下牢へと囲い、逃げられないように枷をめ、淫欲いんよくへと慣らし、日々むちと調教でとせば、奴隷人形どれいにんぎょうジェイドが出来上がる。

「……やはり、私はゆがんでいる」

自嘲じちょうする紳士エドガー。


一方、元は伯爵令嬢フラヴィアはー……と云えば、意外にもその手の才がある様子。

奴隷人形どれいにんぎょうジェイドとして一度ひとたび淫欲いんよくへとちれば、よろこんで肉杭にくくいくわえ、快媚かいびに酔いしれながらもよくあえぎ、よくく。

奴隷人形どれいにんぎょうジェイドの無垢むくな花を容易たやすく奪った後は、愛妻カーラへの蓄積ちくせきする欲情を満たす為に存分に犯し、奴隷人形どれいにんぎょうとしてだけ飼う。

往年おうねんとはいえ、やはり紳士エドガーもおすとしての欲情たぎる本能は尽きない。

奴隷人形どれいにんぎょうジェイドを好きに犯しながらも、はらませる為にそのはらへと幾度も子種をき続ければ、すぐさま子をはらむ。

「……ようやくだ。ようやくいとしい君に“が子”を授けてあげられる……」

畜生ちくしょうな行為に走りながらも感慨かんがいはひとしお。


奴隷人形どれいにんぎょうジェイドは、のちに茶色の髪と緑翠りょくすいの瞳の男の赤子を見事に産み落とす。




* * * * * * * * * *


そののち

奴隷人形どれいにんぎょうジェイドにより産み落とされたすこやかな男の赤子。

愛妻カーラのいだく人形とすり替えれば、心が満たされる愛妻カーラがいる。

「エドガー様、見て……! この子は本当に可愛いわ! エドガー様に似て、きっと素晴らしい後継あとつぎになるの……ふふっ、嬉しいー……」

美しい笑みを浮かべては、が子をいつくしむ愛妻カーラ。その喜びにあふれたさまに、夫君エドガーにも込み上げるものがー……。

いとしいカーラ……君が笑ってくれるならそれで良いー……本当にそれで良いんだ……」

そうつぶや夫君ふくんエドガーは、愛妻カーラとが子の二人を胸へと抱き寄せる。

仲睦なかむつまじい親子三人の姿が、田舎いなか貴族エドガーの屋敷をよろこびに包む。


ーしかし、その一方では。




* * * * * * * * * *


明があれば暗があるように、光がさせば影ができる。

まさに、それを物語るのがー……。

田舎いなか貴族エドガーの本邸から離れた別邸べっていの地下牢には、紳士エドガーの秘匿ひとくとする“欲情の吐け口”となる者が存在するも、あくまでも存在しないものとしてる。





















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