【R-18】一夜の奇跡は仮面舞踏会から

ゆきむらさり

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本編

皇帝の措置と断罪のその後・伯爵夫人の場合

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※一部、不快な表現や残酷な描写などがあります。苦手な方はご注意下さい。




* * * * * * * * * *


皇帝アレクシスが治めるルーカニア帝国。

壮麗な皇城がそびえ建つ皇都は賑わいを見せる。

それと云うのも、ルーカニア帝国の偉大な皇帝アレクシスとブレイディ王国王女セレーナとの「婚儀」が執り行われ、久しぶりの帝国の慶事。

皇家からは、全ての帝国民に祝いの酒が振る舞われ、咎人に至っても恩赦が与えられるなど、偉大な皇帝アレクシスの寛容さが広く知らしめられる。

ルーカニア帝国中が歓びに溢れては、その祝いの宴は一週間程も続くと云う熱狂振り。

しかも、他国のブレイディ王国からも美しい国王夫妻が祝いに駆け付け、それが皇后セレーナの父母とくれば、あまりにも豪華な顔触れに、賑わいはいっそう高まりを見せる。

最早もはや、両国の友好も揺るぎない。

皆が偉大な皇帝アレクシスと美しい皇后セレーナを誉め湛えては、街中も喜色に彩られては華やぐ。しかし、華やかな慶事の一方では、その恩恵にあやかれない者がいるのも確か。




* * * * * * * * * * 


過去には名門と云われた「と或る伯爵家」が爵位を廃され、お取り潰しという憂き目を見る。今では伯爵家の豪華な屋敷自体も取り壊され、何も残らない。

一方、帝国の市井では、まことしやかに「或る噂」が流れる。

それと云うのも、今は亡き伯爵家当主であった者が、他国の美しい王妃に懸想し、国王夫妻が遊行の際には、愚かにも王妃の誘拐までも目論むと云う大罪を犯す。

王族ともする王妃に手を出せば、それは「国王に叛意あり」とみなされ、即ち大逆罪。

当然ながら当主以下の一族も連座され、大逆罪に問われる。

これは皇帝アレクシスにより意図的に、多少の事実を織り交ぜながら「もはや事実であるかの様に」故意に流された噂とも。

全ては情愛する「皇后セレーナの忌まわしい過去」と、今やブレイディ王国王妃として立后する「アラナ妃の凄惨な過去」の両方を払拭する為に講じられた皇帝アレクシスの措置。

名門伯爵家が、急な家督の取り潰しの憂き目を見れば、事情を知らない者達は、その内情を余計に探ろうとする。

敢えて真相を織り交ぜた噂を流した方がたみも納得し、色々と噂をするのも一時いっときで済む。


のちに、その事については誰も詮索せんさくする事もなく、過ぎた事に対しては興味すらいだかず、やがてたみの意識からは薄れてゆく。

おかげで、今やルーカニア帝国の皇后セレーナは、ブレイディ王国の正統な元王女としての身分を得、それが浸透しては定着している。

皇帝アレクシスの御子おこも宿し、皇后セレーナの至福はまだ始まったばかり。




* * * * * * * * * *


幸福があれば不幸があり、明があれば暗が存在する。


皇都から離れた鬱蒼と樹々きぎが生い茂る森の中。

およそ誰も近寄らない森の奥にいるのは、腹を空かせた獰猛どうもうけものぐらい。

そして、やたらとけものが群がる大木を見れば、太い枝には「何か」がぶら下がり、幾度もけものが喰らいついては、やがて引きり落とし、余計にそれを喰い荒らす。

辺りには血生臭さが漂い、不快な死臭さえも立ち込める。

獰猛どうもうけものが去った後には、そこに残されているのは人の骨とおぼしき物。

いて言えば、かつては伯爵夫人であった者の骨とも。




* * * * * * * * * *


遡ること。あの時。


非情な皇帝アレクシスと国王レナルドより、容赦なく断罪された伯爵夫人エミリア。

口枷を咬ませられるせいで、沈黙を余儀なくされる伯爵夫人エミリアは、弁明も釈明も必要とされていない。

即時、断罪される。

数々の咎により、重度の火傷やけどを負った状態のまま太い縄で首をくくられ、そのまま大木へと吊るされた伯爵夫人エミリアは、その場へと捨て置かれる。

伯爵夫人エミリアの足元には、爪先つまさきが掠める程度の位置に木箱が置かれ、運良く縄が切れるような事があれば、助かるようにはなっている。

全ては伯爵夫人エミリアの運次第。それも気休めとも。

「ううぅ! ううっ、うぐっ……!!」

(……ぐっ、ぐるじ……い! 息がっ、息がー……!!)

太い縄が容赦なく首を締め上げ、もがき苦しむ伯爵夫人エミリア。

半分焼けただれ顔は苦悶と恐怖で歪み、その身体中からだじゅうを血に塗れさせ、強引に飲まされた薬酒が、今頃になって更なる効果をもたらす。

拷問を課される罪人の為に用いられる秘薬、

「悪夢を見せる……」

薄っすらと笑みを浮かべては、そう告げた皇帝アレクシス。

おかげで自分の身体中からだじゅうには数多あまた蛆虫うじむしい、体内からも湧く蛆虫うじむしにより蝕まれ、恐ろしい悪夢を見る伯爵夫人エミリア。

必死に踠き暴れるせいで、足場さえ蹴り倒せば、やがて呼吸を止めるのも時間の問題。

薄れゆく意識の中。

(……何故なぜ何故なぜ……私がこの様な目に遭うの!! 悪いのはあのアラナ! 憎いのはあのセレーナ……!)

壮絶な最期を迎えながらも、やはりエミリアの嫉妬の炎は、そう簡単に消えるものではないらしい。

冥土の土産話しに聞かされたのは、皇后となった義娘むすめセレーナの懐妊。

(……美しい私のフラヴィアを出し抜いて、いつの間に皇帝陛下と……あの淫売がっ!!)

うらつらみの伯爵夫人エミリアにも、刻一刻と最期のときが訪れる。

伯爵夫人エミリアが流す血の匂いを嗅ぎつけた獰猛どうもうけもの達が、その足やその腹を喰いちぎり、やがて臓物さえも喰い荒らす。


くして、完全に生命いのちの灯火が消えた伯爵夫人エミリア。

ものの見事に、絶命し果てる。

もはや恨みを吐く事もない。


そして、その娘ともするフラヴィアは……。



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