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本編
浮き立つ伯爵夫人母娘の勘違い
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伯爵夫人当主ヘンリーが、異国の地で非業の死を遂げた為に落ちぶれた名門伯爵家。
落ちぶれても名門は名門。
だからこそ、嘗ての栄華を望むもの。
これまで欲するままに、贅の限りを尽くしていた伯爵夫人エミリアと愛娘フラヴィア。長年培った見栄と虚栄心は、そうそう消えない。
その為に邪魔な義娘セレーナを辺境の財産家の田舎貴族へと身売り同然に嫁がせ、自分達はその持参金と支援金で体裁を保つ伯爵夫人エミリア母娘に待つのは、幸か不幸か。
言わずもがな。それは目に見えている。
皇帝アレクシスの大切な伴侶セレーナを貶めた者に、平穏などあり得ない。
その先に待つのは、やはり……。
* * * * * * * * * *
皇家からの迎えの馬車へと乗り込む伯爵夫人エミリアと愛娘フラヴィアがいる。
急遽この日の為に、義娘セレーナの婚姻の支度金に手を付け、惜しみなく金貨を注ぎ込んでは買い漁った豪華な衣装。無駄に艶やかな衣装と豪華な装飾品の数々に身を包む伯爵夫人エミリア母娘。その様な装いは必要とされてはいないのに、哀れと言うよりは愚か。
実は悪辣な伯爵夫人エミリアは、義娘セレーナへと贈られた婚姻の支度金や豪華な装飾品を「少しぐらいなら……」と辺境から絶えず贈られてくる度に密かに抜き取り、自分の懐へと着服している。
全ては自身の私利私欲を満たす行為とも。
そうした強欲な正妻エミリアだからこそ、今は亡き夫君の伯爵家当主ヘンリーも嫌気がさし、余計に美しい妾アラナに執着しては傾倒していったとも。
どちらにしても碌な夫婦ではないことは確か。
名門伯爵家と呼ばれるのは、優れた先代伯爵以前の話し。威光は嘗てのもの。
端的に言えば、嫡子は商才には恵まれるも人格は破綻。おかげで「蝶よ花よ……」と育てられた驕り高ぶるその娘も性格は難あり。
要は、自分本位な伯爵夫人エミリアと愛娘フラヴィアがいる。
* * * * * * * * * *
僅か前。
伯爵邸の目の前に停まる皇家からの迎えの馬車に、あからさまに顔を浮き立たせ、喜び合う伯爵夫人エミリアと愛娘フラヴィア。
迎えの馬車の様子に、そこで「気付くべき事」にも気付かない程に浮かれていた様子。
皇家からの迎えの馬車にしては簡素で、しかもあるべきはずの〈皇家の紋章〉すら刻印されていない黒塗りの馬車は、二頭立てどころか一頭立てと質素。
皇帝アレクシスも乗車する皇家の馬車ともなれば、名馬が引く四頭立ての豪華な馬車と車内も広く、最高の乗り心地を誇る。
皇后となる令嬢を迎える皇家からの迎えの馬車が、駄馬が引く一頭立てであるはずもなく、しかも小ぶりで乗り心地も最良とは言えない。
それでも気付かない伯爵夫人エミリア母娘の頭の中には、「皇后」と云う言葉が占めているせいで、全く疑いもしない。
「嗚呼っ、お母様! もうすぐ偉大な皇帝陛下にお会いできるのね! あの見目麗しい皇帝陛下の妃に迎えられるなんて、まさに夢みたい……!」
そう、まさに夢のまた夢。
そうとも思わない伯爵夫人エミリア母娘は、互いに喜び合うばかり。
「美しいフラヴィアなら素晴らしい皇后となるわ。あの卑しい義娘セレーナとは大違い。貴女は名門伯爵家の令嬢にして、皆様からは美しい“陽の姫”と讃えられているのよ。皇帝陛下が美しいフラヴィアを見初めるのは当然のこと。貴女は今日より貴族令嬢の頂点に立つのよ。嗚呼っ! これほどに素晴らしい事はないわ! そして私は美しい皇后の美しい母として崇められるのよ!」
伯爵夫人エミリアは愛娘フラヴィアを惜しみなく褒め讃えながらも自画自賛するあたり、やはり強欲で烏滸がましい。
今となっては、伯爵令嬢フラヴィアが「美しい陽の姫」と讃えられているのは何処か腑に落ちない。
それもそのはず。
当人の伯爵令嬢フラヴィアは知ってか知らずかー、「美しい陽の姫」と謳われていたのは、実際は揶揄とも嘲笑とも。
「美しさしかない!」
所謂、知性の欠片もない伯爵令嬢フラヴィアを皮肉ってのこと。貴族達は真逆の意味で、実しやかに囁き合っていたに過ぎない。
「|勘違いも甚だしい」
まさに伯爵夫人エミリア母娘にこそ送られるべき言葉。
* * * * * * * * * *
喜びに浮き立つ伯爵夫人エミリア母娘を乗せる皇家からの馬車は、皇城へと向かうどころか違う道を突き進む。
一頭立ての馬車の窓は、全面を黒い垂れ幕で覆われているせいで、その事に気付く様子もないエミリア母娘は、やけに長い道のりにすら訝しがらない。
それも全ては「皇后」と云う輝かしい未来が待つおかげ。
果てして、向かうその先に待つのは……。
落ちぶれても名門は名門。
だからこそ、嘗ての栄華を望むもの。
これまで欲するままに、贅の限りを尽くしていた伯爵夫人エミリアと愛娘フラヴィア。長年培った見栄と虚栄心は、そうそう消えない。
その為に邪魔な義娘セレーナを辺境の財産家の田舎貴族へと身売り同然に嫁がせ、自分達はその持参金と支援金で体裁を保つ伯爵夫人エミリア母娘に待つのは、幸か不幸か。
言わずもがな。それは目に見えている。
皇帝アレクシスの大切な伴侶セレーナを貶めた者に、平穏などあり得ない。
その先に待つのは、やはり……。
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皇家からの迎えの馬車へと乗り込む伯爵夫人エミリアと愛娘フラヴィアがいる。
急遽この日の為に、義娘セレーナの婚姻の支度金に手を付け、惜しみなく金貨を注ぎ込んでは買い漁った豪華な衣装。無駄に艶やかな衣装と豪華な装飾品の数々に身を包む伯爵夫人エミリア母娘。その様な装いは必要とされてはいないのに、哀れと言うよりは愚か。
実は悪辣な伯爵夫人エミリアは、義娘セレーナへと贈られた婚姻の支度金や豪華な装飾品を「少しぐらいなら……」と辺境から絶えず贈られてくる度に密かに抜き取り、自分の懐へと着服している。
全ては自身の私利私欲を満たす行為とも。
そうした強欲な正妻エミリアだからこそ、今は亡き夫君の伯爵家当主ヘンリーも嫌気がさし、余計に美しい妾アラナに執着しては傾倒していったとも。
どちらにしても碌な夫婦ではないことは確か。
名門伯爵家と呼ばれるのは、優れた先代伯爵以前の話し。威光は嘗てのもの。
端的に言えば、嫡子は商才には恵まれるも人格は破綻。おかげで「蝶よ花よ……」と育てられた驕り高ぶるその娘も性格は難あり。
要は、自分本位な伯爵夫人エミリアと愛娘フラヴィアがいる。
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僅か前。
伯爵邸の目の前に停まる皇家からの迎えの馬車に、あからさまに顔を浮き立たせ、喜び合う伯爵夫人エミリアと愛娘フラヴィア。
迎えの馬車の様子に、そこで「気付くべき事」にも気付かない程に浮かれていた様子。
皇家からの迎えの馬車にしては簡素で、しかもあるべきはずの〈皇家の紋章〉すら刻印されていない黒塗りの馬車は、二頭立てどころか一頭立てと質素。
皇帝アレクシスも乗車する皇家の馬車ともなれば、名馬が引く四頭立ての豪華な馬車と車内も広く、最高の乗り心地を誇る。
皇后となる令嬢を迎える皇家からの迎えの馬車が、駄馬が引く一頭立てであるはずもなく、しかも小ぶりで乗り心地も最良とは言えない。
それでも気付かない伯爵夫人エミリア母娘の頭の中には、「皇后」と云う言葉が占めているせいで、全く疑いもしない。
「嗚呼っ、お母様! もうすぐ偉大な皇帝陛下にお会いできるのね! あの見目麗しい皇帝陛下の妃に迎えられるなんて、まさに夢みたい……!」
そう、まさに夢のまた夢。
そうとも思わない伯爵夫人エミリア母娘は、互いに喜び合うばかり。
「美しいフラヴィアなら素晴らしい皇后となるわ。あの卑しい義娘セレーナとは大違い。貴女は名門伯爵家の令嬢にして、皆様からは美しい“陽の姫”と讃えられているのよ。皇帝陛下が美しいフラヴィアを見初めるのは当然のこと。貴女は今日より貴族令嬢の頂点に立つのよ。嗚呼っ! これほどに素晴らしい事はないわ! そして私は美しい皇后の美しい母として崇められるのよ!」
伯爵夫人エミリアは愛娘フラヴィアを惜しみなく褒め讃えながらも自画自賛するあたり、やはり強欲で烏滸がましい。
今となっては、伯爵令嬢フラヴィアが「美しい陽の姫」と讃えられているのは何処か腑に落ちない。
それもそのはず。
当人の伯爵令嬢フラヴィアは知ってか知らずかー、「美しい陽の姫」と謳われていたのは、実際は揶揄とも嘲笑とも。
「美しさしかない!」
所謂、知性の欠片もない伯爵令嬢フラヴィアを皮肉ってのこと。貴族達は真逆の意味で、実しやかに囁き合っていたに過ぎない。
「|勘違いも甚だしい」
まさに伯爵夫人エミリア母娘にこそ送られるべき言葉。
* * * * * * * * * *
喜びに浮き立つ伯爵夫人エミリア母娘を乗せる皇家からの馬車は、皇城へと向かうどころか違う道を突き進む。
一頭立ての馬車の窓は、全面を黒い垂れ幕で覆われているせいで、その事に気付く様子もないエミリア母娘は、やけに長い道のりにすら訝しがらない。
それも全ては「皇后」と云う輝かしい未来が待つおかげ。
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