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本編

皇家主催の仮面舞踏会の意義と皇帝の滾る想い

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私にしか感じ取る事が出来ない芳しい香り。つがう相手から漂うのは、甘美で秘めやかな淫欲の香り。

だから、すぐにわかった。

彼女がそうだと……私の唯一のいとしい伴侶つがいだと。

此処ここのがせば手に入らない。

すぐさまその手を伸ばし、彼女を掴めば間違えようがない。

(おまえだ……いとしい私の伴侶つがい……)

私を溺れさせる程の甘く芳わしい香りが五感を刺激し、たぎり出す私の肉楔くさびが彼女の青い蕾を打ち破り、そのはらへと存分に子種を注ぎたいと訴える。

彼女を孕ませたい……そして私の子を宿す為に、ゆっくりと膨れ上がる彼女のはらでたい。

その本能的な想いは高まるばかり。




* * * * * * * * * * 


広大なルーカニア帝国を統べる時の皇帝アレクシス。

輝くような明るい黄金の髪を無造作に流し、鋭い眼差しは限りなく深いあお。老若男女問わず、溜息を零させる程の美貌と恵まれた体躯は圧巻。

いまだ皇后を迎えていない皇帝アレクシスには、当然ながら側妃もいないのが現状。そこには一部の高位貴族しか知らない皇家の秘匿が存在する。

遥か遠い祖先から特別な力を受け継ぐ皇家。おそらくは高貴な血統を絶やさない為なのかも知れない。

己れのつがう唯一の相手を匂いで嗅ぎ分ける。

つがう相手からのみ、その身体からだから漂う芳しい香りを感じ取る皇家の直系。限りなく甘美で快美な欲情をたぎらせる香り。

皇家が半年の一度の仮面舞踏会を主催するのも、全ては永遠に寄り添う伴侶つがいを見つける為。

皇家が主催となれば、皆がこぞって集まる。加えて、いまだ皇后を迎えていない美貌の皇帝とくれば、皇家の伴侶の条件を知らない多くの貴族とその令嬢達が、その座を狙って参加するのは必然。

毎年、帝国中の未婚の令嬢達が集まり、あわよくば皇帝アレクシスの寵愛を得ようと仮装する皇帝を探し出そうと必死な様子は、舞踏会に紛れる皇帝アレクシスには、或る意味では滑稽とも。

ただ、今だに一人も皇帝アレクシスの寵を受けた者はいない。そして皇后となる伴侶つがいが見つかるまで、仮面舞踏会は開催される事になる。

素顔を隠す仮面を被り、身姿も偽れば、皇帝アレクシスも舞踏会に堂々と紛れ、無礼講に参加する令嬢達の中からつがいを探し出す事が出来る。

今年も主催された仮面舞踏会。

煌びやなシャンデリアが輝く皇城の豪華絢爛の大広間。

多くの貴族令嬢達が集まる中。

(どうせ、今年もいないだろう……)

そう気怠げに酒盃を煽る皇帝アレクシス。

「陛下、お酒は程々になされた方が……」

耳元で囁くように声を掛ける近衛騎士エヴァン。

皇帝アレクシスの側近にして良き友とも。

「ヴァン、良いか? 今ここではアレクと呼べ。陛下とは絶対に呼ぶなと言ってあったはずだが……それに口調も改まるな、余計な詮索を呼ぶ。あくまでも数多あまたいる貴族の令息の一人で通せ」

こちらも囁くように返す皇帝アレクシス。思わず一睨みする。

「仰せのままに……」

やはり主従関係は抜けない近衛騎士エヴァン。長年培った習性は、そう簡単には抜けないもの。

仕方がない……と溜息を付く皇帝アレクシスは「たまには飲め……」と近衛騎士エヴァンへと酒盃を渡す。

「ですが、アレク様……さすがに酒盃までは頂けません。私はあくまでもアレク様をお護りする使命があります」

「おまえはやはりと云うか、さすがと云うか……だが、たまには良いだろう? 仮面舞踏会は無礼講だが酒も飲まず、舞踏をするわけでもない……ましてや女をでるわけでもない。ヴァン、余計に目立つ。紛れる為には……」

突如、皇帝アレクシスの言葉が止まる。

「アレク様、如何いかがなさいました?」

近衛騎士エヴァンが、皇帝アレクシスの目線の先を辿れば、仮面舞踏会が開始されてから、もはや幾分か経つにもかかわらず、今頃になってひっそりと大広間へと現れる一人の令嬢の姿。

一瞬、入城する事を躊躇う姿が、このような場に不慣れな様子を伺わせる。

艶やかな黒曜の髪を髪飾り一つでまとめ上げ、少し古びた装いながらも上品な淡い琥珀色の衣装。ただ、艶やかな仮面舞踏会には、およそ不似合いな清楚な出立ちとも。

素顔を覆う仮面は、特に意匠も凝らされていない漆黒の仮面。そのせいで急遽用意された事が伺える。

「……アレク様、あのご令嬢が何か?」

再度尋ねる近衛騎士エヴァン。

「ヴァン……見つけた。彼女こそ私の……」

そう告げる皇帝アレクシスは、近衛騎士エヴァンへと酒盃を渡すなり告げる。

「……ヴァン、私の彼女つがいを皇城内の私が住まう〈帝宮ていぐう〉の奥庭へと連れ出す……もはや誰も近付けさせないように後は頼む」

そして颯爽と令嬢の元へと近付く皇帝アレクシス。胸の鼓動は早鐘を打ち、歓喜に湧く皇帝アレクシスは、逸る気持ちを抑えられない。

(今すぐにでもつがいたい……!)

そうした確固たる想いが抑えられない。

令嬢へと近付けば近付く程、甘く芳しい香りが皇帝アレクシスの鼻腔を刺激し、欲情を煽る。

(嗚呼っ、間違い! が私の伴侶つがい! ようやく、ようやくこの手にいだく事が出来る……!)

まさに最良の日。

思わず叫びたい程の衝動に駆られ、今すぐにでも目合まぐわいたいとの渇望がひしめく。

(だが、焦りは禁物だ。ようやく見つけたいとしい私の伴侶つがい。逃さない為に、まずは……)

皇帝アレクシスは、令嬢の警戒心を解く意味でも舞踏へと連れ出す事を決める。

たかぶる想いを胸に、令嬢の後ろ姿を一心に見つめる皇帝アレクシスの荒ぶる欲情は一段と高まり出し、とどまることを知らない。

そして皇帝アレクシスが一曲だけ舞踏を申し込めば、素直に応じる令嬢に余計にいとおしさが募る。

(愛らしい私の伴侶つがい、ずっとを待ち望んでいた)

皇帝アレクシスが差し出されたその手に口付けを落とせば、赤くなる令嬢の手の甲。初心な令嬢の恥ずかしげな様子は、無垢である事の証し。

(いとしい伴侶つがいは、いまだ誰にも穢されていない……)

その事に安堵する。

故意に密接して踊れば、令嬢から漂う甘く芳しい香りが一気に強まる。

(……だめだ。酔わされそうになる。なんと云う甘美的な香りだ)

一曲だけとはいえ、皇帝アレクシスの本音は、もはや舞踏どころではない。

(今すぐにでもいとしいおまえ全てが欲しい……!)

密着する令嬢の首筋へと顔を埋める皇帝アレクシスは、そのまま令嬢の耳元へと「秘事ひめごと」への誘いを甘く囁く。

あくまでも己れの尊大な本性は隠し、令嬢を怖がらせないように、丁寧に穏やかな口調で接する皇帝アレクシス。

恥ずかしげにしながらも素直に頷く令嬢。

「可愛い人、貴女あなたが欲しい……」

告げると同時に、皇帝アレクシスの下腹部は熱を持ち、固くたかぶりを見せる。その熱が令嬢の身体からだへも伝わるのか、仮面の上からでも令嬢が顔を赤らめているのが伺える。


この先に待つのは、まさに甘美で美しい蜜なる夜。


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