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目覚める花姫の戸惑い

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「……ここはー……」

つぶやくように、小さくこぼれる言葉。

大人がゆうに二、三人は休むことが出来る程の豪華ごうかな寝台の上に、寝かされていた花姫アリーシア。

そこに横たわる花姫アリーシアは、ようやく目覚めざめときむかえる。

実は、幾日いくにち懇々こんこんと眠り続けていた花姫アリーシア。

さながら眠り姫のように、竜帝の用意した美しい鳥籠とりかごの中で、眠り続ける花姫アリーシアは、まるで美しい人形のように、動くことなく横たわる。

そうー、幾日いくにちも眠りにかされていた花姫アリーシア。

その間に、例え起こったとしても、眠る花姫アリーシアには、およそ知るはずのない無慈悲むじひな事実。

に連れて来られて早々そうそうに、うしなわれた生気せいきやしなう為と、花姫アリーシアがかかえるの為に、竜帝により深く深く眠らされ、養生ようじょうさせられていた花姫アリーシア。

深く眠りにく花姫アリーシアは知らないが、その間に幾度いくどとなく竜帝と目合まぐわっている。

最早もはや力尽ちからつきる寸前すんぜんであったはかなげな花姫アリーシア。

竜帝より秘密裏ひみつりに、その身にさずけられていた〈竜玉りゅうぎょく〉。その恩恵おんけいまもられていたおかげで、花姫アリーシアはいのちを散らすことなく、今日こんにちまで生きながらえていたと云える。

花姫アリーシアの弱った身体からだ回復かいふくさせるには、直接その身体からだに、竜帝の持つ生気せいきを分けあたえ続ける方が効率こうりつが良い。

更にはの為に、花姫アリーシアのはらには、竜帝の多大ただいな魔力を早急にそそがなければならないさいたる理由が存在そんざいする。

竜帝の血脈けつみゃく体液たいえきの全てには、多大ただいな魔力が含まれる。

竜帝がいとしいつがいいだき、そのはら存分ぞんぶん子種こだねそそぐのは、全ては花姫アリーシアの為。

それゆえに、ようやく弱った身体からだ回復かいふくさせ、覚醒かくせいいたった花姫アリーシア。

おもまぶたを開け、あたりを見回みまわす。

寝台の天蓋てんがいから掛かる薄いしゃまくからけて見える風景ふうけいは、全く見知みしらぬ世界。

隠れさとに住まう花のたみは、を知らない。

見慣みなれない景色けしき見知みしらぬ部屋。ひとりぼっちの自分。

その刹那せつなー、言いようのない不安やさみしさが、花姫アリーシアに押し寄せる。

思わず涙がこぼれる。

(ーここには……誰も、いないー……)

不安にさいなまれる花姫アリーシア。

ーしかし、まるでその花姫アリーシアを勇気付ゆうきづけるかのように、不意ふいにー、かぐしい花々の香りが鼻腔びこうをくすぐる。

「あぁ……!」

目覚めざめたばかりの先程さきほどまでは気付かなかったが、よく見れば、この寝所のいたる所に、数多かずおおくの美しい花々が、色とりどりにけられている。

心が、わずかばかりに上を向く花姫アリーシア。

その一方では、生まれ育ったさとへは二度とは帰れない事へのせつない想いがあふれ出す。

花姫アリーシアの心が、自然と締め付けられる。

みずかのぞんだ事とは云え、郷愁きょうしゅうられるのもいなめない。それも、また正直しょうじきな想い。

自然を愛し、不思議な力でみどりゆたかにみのらせ、その恩恵おんけいを受けてかくれ住む花のたみ

「……私は、もうあの場所へはー……さとへと戻ることは許されない……けれどー……」

やはり、一抹いちまつさみしさはつのる。

最大さいだい禁忌きんきおかした花姫に帰るさとはない。その地をむ事はゆるされない。

(……もう二度とー……)

どのみち、竜帝のつがいたる花姫アリーシアには、竜帝の側を離れる事は、まんに一つもゆるされない。

竜帝の腕の中だけが、花姫アリーシアに与えられた安息あんそくの地。

今の花姫アリーシアは、最高位さいこういの花姫のあかしであるひたい花弁はなびら紋様もんようは消えせてしまっている。それでも、花姫が持つこのあざやかなくれないの髪色までは消せない。

花姫として存在そんざいしていた自分のたしかなあかし。その事実が、花姫アリーシアを少しばかり勇気付ゆうきづける。

花姫アリーシアは、回復した身体からだ上半身じょうはんしんだけを起こし、改めてあたりをよく見回みまわす。

この寝所の全てが、美しい黄金おうごん真紅しんくの色で統一とういつされている。かなりの豪華ごうかさを物語ものがたる。

その黄金色おうごんいろから、花姫アリーシアの脳裡のうりには、黄金おうごんまとう美しい竜帝の姿が思い出される。

(……そう、おそらくここはー……)

何となくではあるがー、此処ここが竜帝の住まうしろである事は、さっするにあまりある花姫アリーシア。

普段ふだん、花姫が暮らす花のみやの奥ゆかしい居室きょしつより、広く豪華ごうかさまをしている。

あざやかにけられた美しい花々が、花姫アリーシアをさそうように、ゆたかにかおってくる。

ゆたかな緑や花々は、花姫アリーシアがもっとも好むもの。思わず手を伸ばす。

「……少しだけ……少しだけなら手に取って見てもいいかしらー……」

この豪華ごうかな寝所にけられた美しい花々を見ようと、寝台に横たわるみずからの足を動かそうにも、どうにも足に力が入らない。

「……どうしてー」

不確ふたしかなゆめなどではなく、現実に自身じしんの足が動かない。

その事実に、花姫アリーシアは戸惑とまどいをかくせない。

そしてー、すぐに無慈悲むじひ現実げんじつを知る。



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