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非情な郷長の目論見と孕む花姫
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「姫様、姫様ー! 如何致しました……ああっ、お可哀想にー……」
花姫の背を摩り、心より労わるのは、いつもとは違う側仕え。
「……貴女は、確かー……」
花姫アリーシアは、以前に見た事のある懐かしいその顔に、柔らかな微笑みを浮かべるも、すぐさま腹のそこから来る吐き気に言葉を詰まらせる。
尚も背を優しく摩る側仕えは、花姫アリーシアへと薬酒の入った小さな器を差し出す。
「姫様ー、どうかこれをお飲み下さいー」
「やめて……! お願い、もういらないわ……もう嫌なのー……」
手で払い退けようにも力が入らない花姫アリーシアを助け起こす側仕えは、はっきりと言葉を返す。
「ーご安心下さい、姫様。これは安全なもの……この薬酒は、今の姫様のお身体には、むしろ必要な薬酒。尊きお身体に負担はありません。ーだから、お願いでございます……どうか姫様、私を信頼し、この薬酒を呑んで下さいー」
「……どうして……郷長の娘である貴女が、なぜー……!」
「ー娘だからです。娘だからこそ、母である郷長の姫様への酷な仕打ちは、目に余るものがあります。非情な郷長は、薬酒により姫様のお身体の自由を奪い、徐々に弱らせては、そのお心根の全てを挫くおつもりです。そしてその後は、次代を孕む産み胎として姫様を生かすのみ。最早、姫様の感情は必要ないとの郷長の判断です。それにー……」
さすがに、その続きを告げる事が憚られた郷長の娘は、口を噤む。
(これ以上の郷長の酷な事実をお伝えすれば、姫様のお身体を壊しかねいー)
側仕えは憂慮する。
無慈悲な郷長は、一人目の雄で花姫が孕なければ、次代の花姫を孕むまで、次々と何人でも新たな雄と番わせる事を目論んでいる。
尊き身分の花姫アリーシアを敬う一方で、花の郷から勝手に抜け出し、果てはその身に外界の穢れた雄を受け入れ、純潔の証しもさる事ながら、額に浮かぶ花弁の紋様さえもいとも容易く散らした花姫アリーシアに、表立ってはしないまでも、密かに厳罰を課す郷長がいる。
禁忌を犯した花姫に容赦はしない。
静かな怒りを湛えながらも「ぐっ」とそれを堪える側仕えは、表情を取り繕うと更に告げる。
「姫様、覚えておられますか? 姫様は私の婚姻を祝福し、私の腹に手を添えては“恵みの加護”を授けて下さいました」
花姫アリーシアを抱きかかえては、嬉し気に話す側仕え。
「ええ、ええ、もちろん覚えているわー」
此処に連れて来られた花姫アリーシアからのようやく笑みが見られる。
「貴女はとても美しい花嫁でー、番う相手と手を取り合い、共に寄り添う姿が……とても……とても幸せそうでー……その姿が、私にはとても眩しくてー……」
ゆっくりと話す花姫アリーシアの美しい緑翠の瞳からは、先程の笑みはまやかしとばかりに、自然と涙が零れ落ちる。
最早、逢えない愛しい竜帝が思い出されてなのか、幸せな婚姻を迎えた目の前の側仕えへの羨望なのかー、花姫アリーシアからは、とめどなく涙が溢れては頬を濡らす。
言葉には尽くせない己れの感情の昂ぶりが、うまく抑えられない花姫アリーシア。
そして、やはりー。
腹の底から湧くような吐き気が、再び花姫アリーシアを襲う。
「ああっ、やはり間違いありません。今の姫様なら感情の昂ぶりは致し方のない事実……だからこそ、この安産薬である薬酒をお召し上がり下さい」
「安産……薬ー?」
「ええ、ええ、姫様、もちろんでございます。姫様はその胎に、確かに御子を宿してございます」
側仕えが告げる衝撃の事実に、花姫アリーシアから零れる涙は、歓びの涙へと変わる。
花姫の背を摩り、心より労わるのは、いつもとは違う側仕え。
「……貴女は、確かー……」
花姫アリーシアは、以前に見た事のある懐かしいその顔に、柔らかな微笑みを浮かべるも、すぐさま腹のそこから来る吐き気に言葉を詰まらせる。
尚も背を優しく摩る側仕えは、花姫アリーシアへと薬酒の入った小さな器を差し出す。
「姫様ー、どうかこれをお飲み下さいー」
「やめて……! お願い、もういらないわ……もう嫌なのー……」
手で払い退けようにも力が入らない花姫アリーシアを助け起こす側仕えは、はっきりと言葉を返す。
「ーご安心下さい、姫様。これは安全なもの……この薬酒は、今の姫様のお身体には、むしろ必要な薬酒。尊きお身体に負担はありません。ーだから、お願いでございます……どうか姫様、私を信頼し、この薬酒を呑んで下さいー」
「……どうして……郷長の娘である貴女が、なぜー……!」
「ー娘だからです。娘だからこそ、母である郷長の姫様への酷な仕打ちは、目に余るものがあります。非情な郷長は、薬酒により姫様のお身体の自由を奪い、徐々に弱らせては、そのお心根の全てを挫くおつもりです。そしてその後は、次代を孕む産み胎として姫様を生かすのみ。最早、姫様の感情は必要ないとの郷長の判断です。それにー……」
さすがに、その続きを告げる事が憚られた郷長の娘は、口を噤む。
(これ以上の郷長の酷な事実をお伝えすれば、姫様のお身体を壊しかねいー)
側仕えは憂慮する。
無慈悲な郷長は、一人目の雄で花姫が孕なければ、次代の花姫を孕むまで、次々と何人でも新たな雄と番わせる事を目論んでいる。
尊き身分の花姫アリーシアを敬う一方で、花の郷から勝手に抜け出し、果てはその身に外界の穢れた雄を受け入れ、純潔の証しもさる事ながら、額に浮かぶ花弁の紋様さえもいとも容易く散らした花姫アリーシアに、表立ってはしないまでも、密かに厳罰を課す郷長がいる。
禁忌を犯した花姫に容赦はしない。
静かな怒りを湛えながらも「ぐっ」とそれを堪える側仕えは、表情を取り繕うと更に告げる。
「姫様、覚えておられますか? 姫様は私の婚姻を祝福し、私の腹に手を添えては“恵みの加護”を授けて下さいました」
花姫アリーシアを抱きかかえては、嬉し気に話す側仕え。
「ええ、ええ、もちろん覚えているわー」
此処に連れて来られた花姫アリーシアからのようやく笑みが見られる。
「貴女はとても美しい花嫁でー、番う相手と手を取り合い、共に寄り添う姿が……とても……とても幸せそうでー……その姿が、私にはとても眩しくてー……」
ゆっくりと話す花姫アリーシアの美しい緑翠の瞳からは、先程の笑みはまやかしとばかりに、自然と涙が零れ落ちる。
最早、逢えない愛しい竜帝が思い出されてなのか、幸せな婚姻を迎えた目の前の側仕えへの羨望なのかー、花姫アリーシアからは、とめどなく涙が溢れては頬を濡らす。
言葉には尽くせない己れの感情の昂ぶりが、うまく抑えられない花姫アリーシア。
そして、やはりー。
腹の底から湧くような吐き気が、再び花姫アリーシアを襲う。
「ああっ、やはり間違いありません。今の姫様なら感情の昂ぶりは致し方のない事実……だからこそ、この安産薬である薬酒をお召し上がり下さい」
「安産……薬ー?」
「ええ、ええ、姫様、もちろんでございます。姫様はその胎に、確かに御子を宿してございます」
側仕えが告げる衝撃の事実に、花姫アリーシアから零れる涙は、歓びの涙へと変わる。
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