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花の王国ブルーム 篇

裁かれる王女の嘆きと非情な王太子

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※断罪回となります。




* * * * * * * * * *


ブルーム王家の居城きょじょうとされる〈黄金宮殿〉内の最北。地中深くに造られた裏寂うらさびしい〈罪人牢ざいにんろう〉。

表情色かおいろ一つ変えない王太子スティーヴィーが立ち会う中、咎人とがびとモニカはさばかれ、最後は王太子スティーヴィーが放った紅蓮ぐれん業火ごうかにより一瞬にして灰化され、呆気あっけなくもこの世から消える。

ブルーム王国では、大罪を犯した咎人とがびと埋葬まいそうゆるされず、存在全てを消し去られる為、モニカは存在しない者とされる。


続いてさばかれるのは、〈貴人牢きじんろう〉に投獄されている王女フィオレンサ。ーただただ、哀れなが身をなげくばかりの王女フィオレンサに慚悔ざんかいの念はない。

どのみち、生粋きっすいの王族であろうとも“つがい”を害した者に慈悲じひはない。




* * * * * * * * * *


折しも、此処ここは〈貴人牢きじんろう〉。

重い鉄格子の向こう側には、足枷あしかせめられた王女フィオレンサの姿がある。

貴人牢きじんろう〉はただの石牢いしろうとは違い、簡素でありながらも寝台などの家具がそろえられ、さばきの前には豪華な食事まで用意される。

ーただし、足枷あしかせが外される事はない所為せいで自由はない。

今も簡素な椅子いすに座る王女フィオレンサの目の前には、豪華な食事が並ぶも一口もしょくした形跡けいせきはない。

この世での最後の食事となるからこそ、用意される豪華な食事。ーしかし常人じょうじんなら、その後のさばきを思えば、のどを通らないのは当然とも。

「……しょくさないのかー……」

鉄格子をはさみ声を掛ける王太子スティーヴィー。

「お兄様……!!」

無情にも牢獄へと囚われていながらも王女フィオレンサの声には喜色きしょくが混じる。

恋情れんじょういだく兄王太子スティーヴィーの姿に、王女フィオレンサの表情かおは輝く。何かを期待している様子が、ありありとその表情には表れている。

(愛するお兄様……ようやく此処ここから出して下さるのね! この様な薄暗い場所は嫌いー……それに王族の私が牢獄などあり得ないものー……早く〈王女宮おうじょぐう〉の豪華な寝台で眠りたい……)

愚かな考えを持つ王女フィオレンサ。

急いで椅子から立ち上がる王女フィオレンサは、愛する兄王太子スティーヴィーの元へと駆け寄ろうとする。

ーしかし、床につなぎ留められた足枷あしかせが、王女フィオレンサに自由を与えず、兄王太子スティーヴィーとの逢瀬おうせはばむ。

「お兄様、助けて! 足枷あしかせが邪魔をするのー……ああっ、凄く痛いわ……お願い、早く此処ここから出してー……!」

王女フィオレンサの一方的な物言ものいいに「救いようがないなー……」と深く吐息といきを付く王太子スティーヴィー。

「おまえは何を言っている? 咎人とがびとであるおまえが此処ここから出れるはずがない。王族の一人であるなら“つがい“の大切さは学んでいるはずだー……どうやら、あの大罪人たいざいにんひどく毒されたようだな。おのれの行いを悔い改めるどころかー……その犯した過ちの重大さにも気付かない」

「お兄様……お願い、お願いですー……その様な冷たい言い方をなさらないでー……私はお兄様の唯一人ただひとり妹なのよ! 私を愛してくれているのでしょう?」

「私にはー……もはや妹などはいない。愛しているなどとは間違っても言うな。今……目の前にいるのは、私が何よりもいとおしむ“つがい”に手に掛けた大罪人たいざいにんがいるだけだ。私のことを兄と呼ぶ事は許されない。不敬としれー……」

「お兄様っーーー!!」

驚愕きょうがくする王女フィオレンサ。

王太子スティーヴィーへと懇願こんがんする様に手を伸ばすも、やはり足枷あしかせが邪魔をし、一歩も近付く事は出来ない。

「国王陛下からもさばきのめいが下った。王女の称号しょうごう剥奪はくだつの上、極刑きょっけいに課され斬首ざんしゅされる」

「嘘よ! お父様がその様な事をおっしゃるはずがないわ! 私はお父様の実の娘なのよ! の国の王女なのよ! 嘘よっーーー!!」

「二度も言わせるなー……もはや、が王家に王女はいない。元々にその様な者は生まれてすらいない。咎人とがびとの分際で、おそれ多くも国王陛下を呼ばわりすることは決して許されない」

いやよ……いやっ、いやっ! 私は王女なのよ! 生まれながらの王女の私が斬首ざんしゅされるなんてー……お優しいお父様がその様な事をおっしゃるはずがないわ! お兄様……お願いです! 私はお兄様の妹姫なのよ? どうかー……どうか此処ここから出してー……お願い、お願いです! 此処ここから出してー……わぁっーーーーー!!」

き叫ぶ王女フィオレンサ。




* * * * * * * * * *


王女フィオレンサは知らないが、国王アントニオは優しい父としての顔とは別に、一国を治める非情ひじょうな君主の顔を持つ。

優しさだけでは国は治められない。

王とは孤高ここうで冷酷ささえまとうもの。そして、その血は王太子スティーヴィーにも確実に受け継がれている。

おだやかな日々の中、当然の如く贅沢ぜいたく享受きょうじゅし、綺麗きれいなものだけを見て、皆に持てはやされては安穏あんのんと生きる王女フィオレンサには、わかるはずもない「王たる者のまことの顔」。


今この時は、王太子スティーヴィーがまさにそうとも。

「残念だがー……“つがい”を害した者に慈悲じひはない。誰にもおまえを助ける事は出来ない。せめてもの手向たむけだ。一瞬でこの世から去る事が出来る毒酒をおまえに与える。斬首ざんしゅされるかー……みずから罪をあがなう為に終わらせるか? 好きに選べー……」

そう告げれば、もはやの場から立ち去ろうとする王太子スティーヴィー。やはり表情色かおいろ一つ変えない非情ひじょうさをまとう。

「おっ、兄様? お兄様……いやよ……いやっ! 私を見捨てないでー……嫌っ! お兄様……愛しているの! お願いです! 行かないでーーーーー!!」

王女フィオレンサが必死ですがるも、王太子スティーヴィーは既にきびすを返し、去って行く。後ろを振り返る事はない。

後には慟哭どうこくする王女フィオレンサと、毒酒ごくしゅ小瓶こびんが砕け散る音が無情むじょうにも響く。

その後、すぐに斬首刑ざんしゅけいしょされた王女フィオレンサ。口枷くちかせめられた王女フィオレンサの断末魔だんまつまは誰の耳にも届かない。


今や名も無きただの咎人とがびとが一人、あわれにもその花を散らす。

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