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デート編

1.お手をどうぞ、俺の王子様

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「は? 休み?」
 素っ頓狂な声を出してしまい、手で口をぱたんと塞ぐ。休みだと言っている割には嬉しそうではなく、むしろ憮然としているレウを見上げる。軍部の執務室で仕事をしていたら来て、急にそう言われたこちらは理解もできていないというのに。
「そうだ。泊まりに行くから準備しとけよ」
「分かった! じゃあレウに買ってもらった服着てくな」
 にこにこと笑って言うと、レウがその場にしゃがみこんだ。まさか先日ハイデの騎士に打ち付けられたのが回ってきたのかと、慌てて駆け寄る。背に手を当てて大丈夫かと声を掛けると、急に口を塞がれた。
 こんな所でなにをと、もうキスをされない為に手で口を覆いながら睨む。
「アンタ、まさか男が服を買い渡すのがどういう意味か分かってねえのか」
「ありがとう……?」
「なんでそうなる」
 なんでと言われてもと言いよどみ、「俺が私服を持ってなかったからだろ」と首を傾げる。
「アンタってほんっとーに、鈍いよな」
 少しは分かってくれよと言われ、エディスはなにをと考えたが結局分からずにめくられたシャツを掴んで引っ張り下ろした。

「エドに簡単な変身魔法を教えてもらったんだ!」
 どうだ? と淡いピンク色に変えた目でレウの顔を覗きこむ。くるりと背中を向け、薄いベージュ色に染め、アーマーに編み込んでまとめ上げてもらった髪を見せる。
 レウから貰った絹の白いシャツは開いた胸元がレースアップになっていて、そこから鎖骨やうぶ毛すら生えていない真っ白なうなじが出ていた。
 中央でも汗ばむ程度の暑さになってきて、この涼しげなシャツをエディスは気に入っている。南では海のシーズンに入ったのだからと、リスティーが丹念に日焼けしないようにと粉を塗りつけてくれた。
「綺麗に編み込むよな~、これアーマーにやってもらっ」
 ぢゅう、と音がした気がして背をピンと伸ばす。吸いつかれたうなじを手で押さえて振り返ると、しまったという顔をしたレウがいた。「お前な」と半眼になったエディスに、「すまん、つい」と言ってくる。
「ついって、お前その癖どうにかしろよ!?」
「今のは悪いと思ってるから謝ったんだろうが」
 コイツでも悪いと思うことあるのか……という顔で見つめると、手が伸びてきて首の後ろを撫でられた。
「……綺麗で」
 吸いつきたくなる、と言ってまた唇で触れられる。見つめていた緑の目のとろけ具合や、声に含まれた甘さが過分すぎてーー「また顔が赤くなってる」
 ふ、と笑ったレウに肌が白いから分かりやすいんだなと頬を親指の腹で撫でられ、エディスは見るなと腕で隠そうとする。
「やだね、勿体ない」
 見せろと手を掴んでくるレウにやだと言い返すも、ゆっくり下ろされていく。愉快そうに笑ったレウに口づけられたエディスは、もうどうにでもしてくれと目を閉じた。

「それで、どこに連れていってくれるんだ」
 好きなだけ観察させ、今日は色を変えているからバレないだろうと首や鎖骨に鬱血痕を残すのも許して、舌が痺れそうな程に吸わせるとようやくレウは落ち着いた。
 落ち着いたと言っても未だソファーで向かい合って座っている状態で、本当に出かけるつもりがあるのだろうかと疑問を感じるくらいなのだが。
「中央魔法美術館で開催している紋章画展の視察」
「視察ぅ!?」
 仕事じゃねえかと叫ぶと、レウは「デートだ」と否定する。
「エドワード様が頼んでくださったんだ。視察なら貸し切りになるし、学芸員の解説も付くからって」
「あ、あぁーーそういうこと」
「まさかアンタが変身魔法を使うとは思ってなかったからな」
 それもお忍びだと言えばいいことだと、床に下ろされた。立ち上がったレウに手を差し出されたエディスが首を傾げて見ていたが、やがてエスコートをするつもりなのだと気が付いて手をのせる。
「行きましょうか」
 手の甲に口づけを落とされ、エディスはぎゃっと叫んで振り解こうとした。無論、しっかり握られていた為にできなかったが。
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