128 / 174
番外編:追憶の銀雪
2.俺が指名手配犯
しおりを挟む
「あ、おい。レイヴェン」
名前を呼んで駆け寄っていくと、長い黒髪の男が振り向いた。けれど急いでいるのか「なんですか」と片眉を顰められる。心なしか口の端まで引き攣っている気がした。
「これから王宮に向かわなければいけなくて。手短にお願いします」
分かったと応じ、体を寄せてから声を潜めた。
「見つかったのか、王子」
同期の護衛部の中でも、王族マニアで第一王女が彼女のコイツなら詳しいだろうと問う。なのにレイヴェンは目を伏せ、呆れたように微笑みを口にのせた。
「いえ、帰ってこられてませんよ」
そんなはずがない、この国で銀を冠する者は王族しかいないのだから。海を渡ってきたにしたら流暢に話しすぎる。
「俺たち同期だろ、誤魔化さなくても」
「私は誤魔化してはいませんよ」
人の言葉に被せるくらいには動揺しているくせにと言ってしまいたくなる。
「レウが見たのはルイース隊の軍師准尉ではありませんか。彼、銀髪に青い目なので」
十三歳なんですけどと言われ、そのくらいの年だったと肯定して驚いた。
「王子と同じ年だよな」
「ええ。ですが、分からないのです」
俺が見たのは幼少のみぎりに誘拐された王子で間違いない。ただ、それを証明する術がないのだ。
「あの、その話ここでは……」
「あーそうだよな、人に聞かれたら」
「いえ、そうではなくて。あなた、エディス軍師准尉に接触したでしょう」
は? という声が出て、(しまった情報を聞き出さないといけないのに)と思って抑えつける。接触なんかしてねえよと言い返しそうになり、恥ずかしさのあまりに蓋をしていた記憶が蘇ってきた。
あれか……と黙ったレウを見て、レイヴェンが呆れたようにため息を吐く。
「彼に懸想している人は男女ともに多いですし、ルイース隊の人たちもほとんど親衛隊のようになってますので。あなた今指名手配されてるんですよ」
関わり合いになりたくありません。そう言ってレイヴェンに手を突き出される。
「は?」
「あなた、なまじ顔がいいですからね……刺されないように気を付けてくださいね」
それでは頑張ってくださいねと言い去ろうと、すげなく背中を向けて早足で歩いていくレイヴェンを「いやっ、おい」と追いかけるが、焦ったように軍服の裾をさばいて歩く彼に撒かれてしまった。
レウも直属の上官と約束していた時間が近づいていたので、仕方なくその場を離れていく。
***
「バスターグロスくん、待たせてすまんね」
直属の上官であるサレンダ・デイヴィス准将は柔和な印象の老兵だ。
最近急成長を遂げているルイース大佐やマクアリン大佐と違い、どちらかといえば西の剛将トリエランディアに似た雰囲気がある。
老獪さというか、腹の内を部下にも読ませない飄々とした爺だがレウはこの上官を気に入っていた。
「ちょっと面白いものを見付けて。君にも来てもらおうかと」
笑いながら白い口髭を指先で整えるのは、デイヴィスが悪だくみをしている時の癖だ。苦笑いをしながら、なんなりとと返す。なにしろ、この間命を拾ってもらったのだから。
ルイース隊の軍師准尉が救援に来てくれたものの、山の中で魔物に囲まれて動けなくなってしまった。朝になって軍師准尉の姿が見えなくなっていて慌てて外に出たら、一人で魔物と戦っていたらしく瀕死の状態で倒れていた。
着ていた戦闘服はズタズタになっていたが、魔力を使いすぎて吐いた血が喉に凝っていたのを吸いだしたら息を吹き返したのでさらに驚いたのだが。
佐官か尉官クラスでないと相手できそうにない魔物はすべて倒されていたので、下山して救援を呼びにいこうとしたところでデイヴィスが「おかしいと思ってねえ」とやって来た。
レウが指揮官が亡くなったことを伝えると、デイヴィスはそうだろうねと眉を顰めた。彼の立てた作戦を見て、これは無理だろうと悟ったのだと。
残党を倒して、小屋で後幾何かと思われた仲間も全て回収して軍に連れ帰ってもらえた。
白い顔をしていた軍師准尉もレウが抱えて駆け戻った軍で看てもらうと、折れていた腕もほとんど治っていて軍医も「いつもながら頑丈な子だねえ」と呆れていた。
デイヴィスに報告に行かねばならなかったが、彼が起きるまではとベッド横に椅子を置いて待たせてもらった。目を覚ました軍師准尉は自分たちがどこにいるのか察すると「おかえり」と笑った顔がよく――
「ああ、あれだよ。あれ」
まだやっていたねと言って、ひょっひょと笑い声を立てるデイヴィスの声に弾かれたように顔を上げる。一体、今度はなにを面白がっているのかと思って見た光景に、レウは額に手を当てた。
名前を呼んで駆け寄っていくと、長い黒髪の男が振り向いた。けれど急いでいるのか「なんですか」と片眉を顰められる。心なしか口の端まで引き攣っている気がした。
「これから王宮に向かわなければいけなくて。手短にお願いします」
分かったと応じ、体を寄せてから声を潜めた。
「見つかったのか、王子」
同期の護衛部の中でも、王族マニアで第一王女が彼女のコイツなら詳しいだろうと問う。なのにレイヴェンは目を伏せ、呆れたように微笑みを口にのせた。
「いえ、帰ってこられてませんよ」
そんなはずがない、この国で銀を冠する者は王族しかいないのだから。海を渡ってきたにしたら流暢に話しすぎる。
「俺たち同期だろ、誤魔化さなくても」
「私は誤魔化してはいませんよ」
人の言葉に被せるくらいには動揺しているくせにと言ってしまいたくなる。
「レウが見たのはルイース隊の軍師准尉ではありませんか。彼、銀髪に青い目なので」
十三歳なんですけどと言われ、そのくらいの年だったと肯定して驚いた。
「王子と同じ年だよな」
「ええ。ですが、分からないのです」
俺が見たのは幼少のみぎりに誘拐された王子で間違いない。ただ、それを証明する術がないのだ。
「あの、その話ここでは……」
「あーそうだよな、人に聞かれたら」
「いえ、そうではなくて。あなた、エディス軍師准尉に接触したでしょう」
は? という声が出て、(しまった情報を聞き出さないといけないのに)と思って抑えつける。接触なんかしてねえよと言い返しそうになり、恥ずかしさのあまりに蓋をしていた記憶が蘇ってきた。
あれか……と黙ったレウを見て、レイヴェンが呆れたようにため息を吐く。
「彼に懸想している人は男女ともに多いですし、ルイース隊の人たちもほとんど親衛隊のようになってますので。あなた今指名手配されてるんですよ」
関わり合いになりたくありません。そう言ってレイヴェンに手を突き出される。
「は?」
「あなた、なまじ顔がいいですからね……刺されないように気を付けてくださいね」
それでは頑張ってくださいねと言い去ろうと、すげなく背中を向けて早足で歩いていくレイヴェンを「いやっ、おい」と追いかけるが、焦ったように軍服の裾をさばいて歩く彼に撒かれてしまった。
レウも直属の上官と約束していた時間が近づいていたので、仕方なくその場を離れていく。
***
「バスターグロスくん、待たせてすまんね」
直属の上官であるサレンダ・デイヴィス准将は柔和な印象の老兵だ。
最近急成長を遂げているルイース大佐やマクアリン大佐と違い、どちらかといえば西の剛将トリエランディアに似た雰囲気がある。
老獪さというか、腹の内を部下にも読ませない飄々とした爺だがレウはこの上官を気に入っていた。
「ちょっと面白いものを見付けて。君にも来てもらおうかと」
笑いながら白い口髭を指先で整えるのは、デイヴィスが悪だくみをしている時の癖だ。苦笑いをしながら、なんなりとと返す。なにしろ、この間命を拾ってもらったのだから。
ルイース隊の軍師准尉が救援に来てくれたものの、山の中で魔物に囲まれて動けなくなってしまった。朝になって軍師准尉の姿が見えなくなっていて慌てて外に出たら、一人で魔物と戦っていたらしく瀕死の状態で倒れていた。
着ていた戦闘服はズタズタになっていたが、魔力を使いすぎて吐いた血が喉に凝っていたのを吸いだしたら息を吹き返したのでさらに驚いたのだが。
佐官か尉官クラスでないと相手できそうにない魔物はすべて倒されていたので、下山して救援を呼びにいこうとしたところでデイヴィスが「おかしいと思ってねえ」とやって来た。
レウが指揮官が亡くなったことを伝えると、デイヴィスはそうだろうねと眉を顰めた。彼の立てた作戦を見て、これは無理だろうと悟ったのだと。
残党を倒して、小屋で後幾何かと思われた仲間も全て回収して軍に連れ帰ってもらえた。
白い顔をしていた軍師准尉もレウが抱えて駆け戻った軍で看てもらうと、折れていた腕もほとんど治っていて軍医も「いつもながら頑丈な子だねえ」と呆れていた。
デイヴィスに報告に行かねばならなかったが、彼が起きるまではとベッド横に椅子を置いて待たせてもらった。目を覚ました軍師准尉は自分たちがどこにいるのか察すると「おかえり」と笑った顔がよく――
「ああ、あれだよ。あれ」
まだやっていたねと言って、ひょっひょと笑い声を立てるデイヴィスの声に弾かれたように顔を上げる。一体、今度はなにを面白がっているのかと思って見た光景に、レウは額に手を当てた。
0
お気に入りに追加
114
あなたにおすすめの小説
勇者の股間触ったらエライことになった
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。
町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。
オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。
商店街のお茶屋さん~運命の番にスルーされたので、心機一転都会の下町で店を経営する!~
柚ノ木 碧/柚木 彗
BL
タイトル変えました。(旧題:とある商店街のお茶屋さん)
あの時、地元の神社にて俺が初めてヒートを起こした『運命』の相手。
その『運命』の相手は、左手に輝く指輪を嵌めていて。幸せそうに、大事そうに、可愛らしい人の肩を抱いて歩いていた。
『運命の番』は俺だったのに。
俺の番相手は別の人の手を取って、幸せそうに微笑んでいたんだ
◇◆◇◆◇
のんびりと日々人物鑑賞をする主人公の物語です。
BL設定をしていますが、中々BLにはなりにくいです。そんなぼんやりした主人公の日常の物語。
なお、世界観はオメガバース設定を使用しております。
本作は『ある日突然Ωになってしまったけど、僕の人生はハッピーエンドになれるでしょうか』の登場人物が多数登場しておりますが、ifでも何でも無く、同じ世界の別のお話です。
※
誤字脱字は普段から在籍しております。スルースキルを脳内に配置して読んで頂けると幸いです。
一応R15設定にしましたが、後程R18へ変更するかも知れません。
・タグ一部変更しました
・主人公の実家編始まりました。実家編では嵯峨憲真主体になります。
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
親友だと思ってた完璧幼馴染に執着されて監禁される平凡男子俺
toki
BL
エリート執着美形×平凡リーマン(幼馴染)
※監禁、無理矢理の要素があります。また、軽度ですが性的描写があります。
pixivでも同タイトルで投稿しています。
https://www.pixiv.net/users/3179376
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/98346398
溺愛お義兄様を卒業しようと思ったら、、、
ShoTaro
BL
僕・テオドールは、6歳の時にロックス公爵家に引き取られた。
そこから始まった兄・レオナルドの溺愛。
元々貴族ではなく、ただの庶子であるテオドールは、15歳となり、成人まで残すところ一年。独り立ちする計画を立てていた。
兄からの卒業。
レオナルドはそんなことを許すはずもなく、、
全4話で1日1話更新します。
R-18も多少入りますが、最後の1話のみです。
皆と仲良くしたい美青年の話
ねこりんご
BL
歩けば十人中十人が振り向く、集団生活をすれば彼を巡って必ず諍いが起きる、騒動の中心にはいつも彼がいる、そんな美貌を持って生まれた紫川鈴(しかわすず)。
しかし彼はある事情から極道の家で育てられている。そのような環境で身についた可憐な見た目とは相反した度胸は、地方トップと評される恐ろしい不良校でも発揮されるのだった。
高校になって再会した幼なじみ、中学の時の元いじめっ子、過保護すぎるお爺様、人外とまで呼ばれる恐怖の裏番…、個性的な人達に囲まれ、トラブルしか起きようが無い不良校で過ごす美青年の、ある恋物語。
中央柳高校一年生 紫川鈴、頑張ります!
━━━━━━━━━━━━━━━
いじめ、暴力表現あり。
R-18も予定しています。
決まり次第、別の話にまとめて投稿したいと思います。
この話自体はR-15で最後まで進んでいきます。
━━━━━━━━━━━━━━━
登場人物たちの別視点の話がいくつかあります。
黒の帳の話のタイトルをつけているので、読む際の参考にしていただければと思います。
黒の帳とあまり交わらない話は、個別のタイトルをつけています。
━━━━━━━━━━━━━━━
〜注意〜
失恋する人物が何人か居ます。
複数カプ、複数相手のカプが登場します。
主人公がかなり酷い目に遭います。
エンドが決まっていないので、タグがあやふやです。
恋愛感情以上のクソデカ感情表現があります。
総受けとの表記がありますが、一部振られます。
━━━━━━━━━━━━━━━
追記
登場人物紹介載せました。
ネタバレにならない程度に書いてみましたが、どうでしょうか。
この小説自体初投稿な上、初めて書いたので死ぬほど読みづらいと思います。
もっとここの紹介書いて!みたいなご意見をくださると、改善に繋がるのでありがたいです。
イラスト載せました。
デジタルに手が出せず、モノクロですが、楽しんで頂けたらと思います。
苦手な人は絶対見ないでください、自衛大事です!
別視点の人物の話を黒の帳に集合させました。
これで読みやすくなれば…と思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる