忘却のカグラヴィーダ

結月てでぃ

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三章/夏歌えど、冬踊らず

森に解ける灰・五

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 拍手が鳴りやんでから着席すると、敬哉が「それでは」と言葉を紡ぎ出す。
「これから少しの間だけ、互いを知る為の交流の時間としましょうか。そちらから質問はありますか?」
 そう提案された途端、習が「はいはいはいっ!!」と元気よく手を挙げた。敬哉が面食らった後で目を和らげて微笑み、「ではどうぞ」と促す。
「ずっと気になってたんスけど、コレどうやって動かすんスか!? 他の人は入れないって聞いてヤベエって思って」
「え? ……ああ、全て僕の指示通りに動いてくれますよ。何度も言わせないで頂けますか。イワナガは僕の機体です」
 誇らしげに艦内を見渡すこの子どもは純粋に鉄神という存在を愛しているのだろうか。
 鉄神を恨み、忌み嫌い、強制される戦いから逃れようとする贄が大半で、当夜のように親しみや愛おしさを抱く者など徹は見たことがなかった。
「一度ご覧になられた方が早いかもしれませんね。ついて来てください」
 皆を伴って最上段に行き、東京支部の面々にとって新鮮な存在として映った少年は、艦長用の座席に腰を下ろす。肘掛けに手を置くと、目を閉じる。
「イワナガ、僕です。敬哉です」
「おっはよ~イワナガ!」
 息を整えてから敬哉が手を挙げ、豪が両手を広げて呼びかける。すると、灰色にくすんでいた艦内が突然色めき立った。「今まで寝ていたのか」と当夜が感嘆すると、敬哉は首を縦に振る。
「イワナガは僕の指示に従ってくれます。けど、僕には知識が足りません。複数の処理を同時に行いきるには、まだ……」
 敬哉が手を膝の上に下ろして、握り締める。元の灰色に戻ったイワナガは、まるで彼の心と共鳴をしているようだった。
「僕は早く大人になりたい」
「俺も。もっとでぇっかくなって、タカクラをちゃんと動かしてやりてえ!」
 なっと歯を見せて笑いかける豪に、「そうですね」と敬哉は眉尻を下げる。その様子は大変微笑ましくはあるのだが、それ以上に恐ろしいと徹は表情を曇らせた。
「君たちは鉄神が恐ろしくはないのか」
 生贄として命を食い潰されてしまうにはあまりにも幼い。それなのに、どうしてかこの二人の言動には怯えも悲しみも見いだせない。
 まるっきり、カグラヴィーダに対する当夜の態度と同じで、どうにも気味が悪く感じられてしまう。
「兄ちゃん、コイツらがこえーの?」
 なんでだよと豪が徹を責めるような目を向けてきたので、徹は敬哉の正面に回った。
「鉄神は僕たちの命を貪って生きているんだぞ。大切なものを失うということを理解していないのか」
「意味が分かりません。彼らは僕たちに力を貸してくれているんですよ。それに対する報酬は勿論用意すべきでしょう」
 徹の眉頭がピクリと動く。苛立ちを込めて睨んだ徹に対し、敬哉は無垢な目で見つめ返してくる。「徹」と咎めるように呼び、首を振る。
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