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三章/夏歌えど、冬踊らず
急流直下・二
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ベンチに腰掛け、乱れた髪の毛を結び直した雅臣は、「ごめんね~疲れてるのに」と眉を下げた。
「ありがとう、すぐに済ませるから」
「いえ、僕たちの林間学校のためでしょう」
あははと軽い笑い声を立て、椅子に置いていたバインダーを手に取った雅臣が頷く。
「とりあえず、鉄神は近くにある大阪支部に送るように手配したよ。これで向こうに行っても安心だね」
「ありがとう! やっぱりカグラヴィーダが傍にいないと落ち着かなくって」
そう言いながら当夜がロッカーのドアの向こうから笑顔を向けると、ようやく習から離れた徹が肩眉を眇めて睨み見る。舌打ちをしかねない様子で当夜を見ていたが、やがて諦めたのか汗を掻いて湿った髪を手で払う。
「あんな物、いない方がいいだろう。折角離れられる機会だというのに……」
「え~、向こうでなにかあった時に困らない? 備えは大事だよ」
だが、やはり苛立ちが抑えられないのか、本音を全く隠せていない。雅臣は眉を引き寄せて苦い笑みを浮かべる。
「当夜くんを守るんでしょ?」
雅臣は眼鏡のツルを持って押し上げながら、パチンとウインクをすると徹は嫌そうに唇を歪ませた。しかし、その意見には同意するしかなく、雅臣から顔を背ける。
ロッカーのドアを開け、スーツを脱ぐために背中のチャックを下ろす。
「……そうですね、お願いします」
「習くんもそれでいい?」
「勿論ッスよ! まあ、俺はぜんっぜん動かせないんだけど」
習はぐっと手を握って雅臣の方に突き出したが、すぐに肩を落としてしまう。先程の戦闘も敵を倒すどころか皆にフォローしてもらうばかりで、どう考えても足手まといでしかなかったのだ。
「こんなんで大丈夫っすかねえ、俺」
「大丈夫でしょ。三人の学校とも話して合宿所を同じ所にしてもらったからね。君一人で戦うことはないよ」
安心してねと雅臣に笑いかけられた習はぐっと両手を握り締め、顔を輝かせた。
「そっか……そうッスよね! 当夜も徹もいるんだよな!」
頼りにしてるぜ! と二人の背中を叩き、自分から肩を組む。徹はぐえっと胸を詰まらせ、当夜は腕を外した。
「それに赤木さん――あっ、大阪支部の司令官なんだけど。彼に戦闘慣れしていない新人パイロットがいるんだって説明したらね。近くに増援を配備してもらう約束をしてくれたんだ」
「増援ッスか!?」
習は素直にやったー! と諸手を挙げて喜んだが、当夜と徹は顔を見合わせた。下唇に指の背を押し当てた徹が当夜に頷くと、雅臣の方に顔を向ける。
「雅臣さん、僕たちが林間学校で行くのは京都です。大阪支部ではなく、京都支部の方がいいのでは?」
「ああ、そう思うよね」
うんうんと頷く雅臣に徹は眉間の皺を拭かせるが、その隣に立っている当夜が「ああ!」と声を上げ、拳を手の平に軽く打ち付けた。
「もしかして、アレがあるのか!?」
「アレ? どういうことです、雅臣さん。大阪支部には輸送ユニットでも導入されてるんですか? 京都支部にあるのは知っていますが……」
「そうそう! でも、輸送ユニットじゃなくて戦艦なんだけど」
当夜くんには前に話したことがあったねと分かり合う二人に、徹は舌打ちをしかねない様子で右足を床に打ち付ける。
「その時ならパイロットが夏休み中だから、遊びを兼ねて来てくれるんだってさ。説得が大変だったみたいだよ~」
「パイロット……ということは、まさか戦艦型の鉄神ですか!? そんな大型の鉄神、存在してるなんて」
血相を変えた徹が詰め寄ってきて、雅臣は乾いた笑い声を出しながらも「それが存在しちゃうんだよねえ」と彼の肩を手で押し返した。
「ありがとう、すぐに済ませるから」
「いえ、僕たちの林間学校のためでしょう」
あははと軽い笑い声を立て、椅子に置いていたバインダーを手に取った雅臣が頷く。
「とりあえず、鉄神は近くにある大阪支部に送るように手配したよ。これで向こうに行っても安心だね」
「ありがとう! やっぱりカグラヴィーダが傍にいないと落ち着かなくって」
そう言いながら当夜がロッカーのドアの向こうから笑顔を向けると、ようやく習から離れた徹が肩眉を眇めて睨み見る。舌打ちをしかねない様子で当夜を見ていたが、やがて諦めたのか汗を掻いて湿った髪を手で払う。
「あんな物、いない方がいいだろう。折角離れられる機会だというのに……」
「え~、向こうでなにかあった時に困らない? 備えは大事だよ」
だが、やはり苛立ちが抑えられないのか、本音を全く隠せていない。雅臣は眉を引き寄せて苦い笑みを浮かべる。
「当夜くんを守るんでしょ?」
雅臣は眼鏡のツルを持って押し上げながら、パチンとウインクをすると徹は嫌そうに唇を歪ませた。しかし、その意見には同意するしかなく、雅臣から顔を背ける。
ロッカーのドアを開け、スーツを脱ぐために背中のチャックを下ろす。
「……そうですね、お願いします」
「習くんもそれでいい?」
「勿論ッスよ! まあ、俺はぜんっぜん動かせないんだけど」
習はぐっと手を握って雅臣の方に突き出したが、すぐに肩を落としてしまう。先程の戦闘も敵を倒すどころか皆にフォローしてもらうばかりで、どう考えても足手まといでしかなかったのだ。
「こんなんで大丈夫っすかねえ、俺」
「大丈夫でしょ。三人の学校とも話して合宿所を同じ所にしてもらったからね。君一人で戦うことはないよ」
安心してねと雅臣に笑いかけられた習はぐっと両手を握り締め、顔を輝かせた。
「そっか……そうッスよね! 当夜も徹もいるんだよな!」
頼りにしてるぜ! と二人の背中を叩き、自分から肩を組む。徹はぐえっと胸を詰まらせ、当夜は腕を外した。
「それに赤木さん――あっ、大阪支部の司令官なんだけど。彼に戦闘慣れしていない新人パイロットがいるんだって説明したらね。近くに増援を配備してもらう約束をしてくれたんだ」
「増援ッスか!?」
習は素直にやったー! と諸手を挙げて喜んだが、当夜と徹は顔を見合わせた。下唇に指の背を押し当てた徹が当夜に頷くと、雅臣の方に顔を向ける。
「雅臣さん、僕たちが林間学校で行くのは京都です。大阪支部ではなく、京都支部の方がいいのでは?」
「ああ、そう思うよね」
うんうんと頷く雅臣に徹は眉間の皺を拭かせるが、その隣に立っている当夜が「ああ!」と声を上げ、拳を手の平に軽く打ち付けた。
「もしかして、アレがあるのか!?」
「アレ? どういうことです、雅臣さん。大阪支部には輸送ユニットでも導入されてるんですか? 京都支部にあるのは知っていますが……」
「そうそう! でも、輸送ユニットじゃなくて戦艦なんだけど」
当夜くんには前に話したことがあったねと分かり合う二人に、徹は舌打ちをしかねない様子で右足を床に打ち付ける。
「その時ならパイロットが夏休み中だから、遊びを兼ねて来てくれるんだってさ。説得が大変だったみたいだよ~」
「パイロット……ということは、まさか戦艦型の鉄神ですか!? そんな大型の鉄神、存在してるなんて」
血相を変えた徹が詰め寄ってきて、雅臣は乾いた笑い声を出しながらも「それが存在しちゃうんだよねえ」と彼の肩を手で押し返した。
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