忘却のカグラヴィーダ

結月てでぃ

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三章/夏歌えど、冬踊らず

淘汰されゆく命・二

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「他に、適した存在はいないのか」
 問うと、躊躇った後で小声で返ってくる。
「……大阪支部に、現れた」
「茨田ちこ以外にか」
「ああ。赤才敬哉と、呉服豪の両名だ」
「ならば、仲上涯には不足するものがあるということだな」
 あれで、不用品扱いかと臍を噛む。
「いや、あれが目をかけているからな……望みは薄くない」
「だが不可能だろう。茨田ちこがいなければ、大阪は焦土と化すかもしれん」
「あれと和泉蘭子が生きている内に、次を育てなければな」
 暗に成長次第であると言われ、ふうと息を吐く。それではいけない。
「他には!」
「……高千穂に、逸材がいる。気が狂った子どもだからいつまで耐えられるか分からんが」
「ワダツミ――深抱悟前か? あれはいかんだろう。何時寝首をかかれるか分からんぞ」
 隣を伺うと、黒髪を揺らして肯定をされた。
「後はそうだな、京都の化野恋鳥くらいか」
「あれはいい! そもそも京都は比較的安定した供給がある」
「西に比べ、東はなんと弱い。努力が足りないのではないかね」
「あの素晴らしい記憶力を持っている子どもも供物にならんのか? ならないならば、そうしてしまえばいいのだ!」
「高千穂が情報を下ろしてこないから把握が出来んのだ」
「全体的にレベルが達していないんだよね」
 もっともっと奇怪な異形が生まれないとね、と嗤う男の目に光がたゆたう。
「カグラヴィーダなら、もっと成長できる。いいや、あの子以外は追いつけない」
「ならば、やってみせろ!」
「貴様っ、誰に向かってそのような声をかけている!」
 言葉ではなく笑みで返した男は、静まるように手で促し、白衣を脱いで床に捨てる。
「簡単だよ。彼は――人を愛せない。そのように生み出され、育てられた」
 夏に歌い遊んだ者は、冬を迎えることはできないだろう。けれど、彼は歌えども旋律で自分を雁字搦めにするだけで、手足が自由になることはないのだ。
「命を天秤に掛けて淘汰すれば、いいんだ」
 冬を迎えられるのは彼しかいない。けれど、冬に踊れるかどうかは、この手次第だ。
「それは、神様の握る天秤じゃないけどね」
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