忘却のカグラヴィーダ

結月てでぃ

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二章/少年よ、明日に向かって走れ!!

遠雷・一

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 外に出ると、急激に光が差してきて当夜は片目を眇めて手を額まで持ち上げた。どこか空いている場所ないかと周囲を見渡す。
「あれ、帝花高か?」
 白いシャツに灰色のスラックス。知っている色合いの制服に、当夜は首を傾げた。その中に見慣れた少年がいて、当夜は目を大きく見開く。
「どうしたんだ、剣司!」
 徹を置いて駆け出した当夜は、どう見ても試合に負けましたといった雰囲気で周りを囲まれている剣司の元に辿り着く。
 花壇の端に腰かけ、膝の上に置いた腕の間に顔を埋めて泣いていた剣司の前にしゃがみ、肩を揺する。
「渋木……?」
 声を掛けられた剣司は意外といった体で顔を上げ、道着の袖で顔を乱暴に拭った。
「今日、ここで飛び入り参加OKの試合があったんだよ。コイツ、高校初だからってめちゃくちゃ気合い入れてたんだけどな」
「大人とやったのか? 剣司ならそこそこいったんじゃ……」
「流石に年齢別に分かれてたよ。だから、相手は同じ年頃の奴ばっか」
「なのに負けたのか? 剣司が?」
 信じられない、と驚きに満たされた顔をする当夜に、周りも困惑を返す。
「俺たちもコイツなら勝てるだろうって、見送ったんだよ」
「優勝したらレギュラーにするって約束もしてたしな!」
 だけど、剣司は負けた。たかが高校生相手に。
「そんなに強いのか?」
「強いよ! 俺に勝ったこともあるんだからな!」
 力説する当夜に、元気が出たようで良かったと徹は安堵する。
「お前がいたら勝てたのかもしれないな……アイツに」
「いや、コイツでも」
「なに言ってんだよ、渋木なら勝てるって!」
 言葉を濁す顔見知りの男たちに、当夜は困惑する。当夜の腕っぷしが強いことは、この場にいる誰もが実感している事実だ。
 その自分が、負けると思われている。
 当夜の実力を知らない、初見の者に身体のせいで侮られることは多い。だが、そうではないのだ。純粋に負けるかもしれないと思われたのだ。
「どんな人だったんだ。二メートルくらいの巨人とか? 地面割るくらいの力持ちとか?」
「お前と同じくらいだったと思うけど」
「えっ、もうちょい小さくなかったか?」
「だとすると、かなり小さいな」
 徹がそう言うと、当夜がムッと眉を吊り上げて睨み付ける。
「ふっざけた奴だったよな!! 防具も竹刀も持ってきてねえし」
「試合の前まで、俺じゃ無理だ、負けるし痛いから嫌だとか泣いてたしな!」
 アレなんだったんだよ、無理矢理出させられたとか? いや、めちゃくちゃ勉強してんのにテスト前にやってないとか言う奴じゃね? 俺ああいうの嫌いだわーと好き勝手に交わされる言葉に当夜は片眉を下げた。
「でも、顔可愛かったよな」
「は? アイツ男だろ。なにお前、そういう趣味なわけ」
「いやっ、顔は可愛かったろ!? ロリ系っつーか、童顔で。打ち込む前とか、ミステリアスな感じがしてさあ!」
「お前よく見てんな……試合一瞬だったろ」
 ドン引かれた男は、ええっと驚愕の声を上げた。
「全部一本で決めてたもんな」
「即試合終了だったよな~」
 すげえわアレ、と感心する様子を見ていた当夜は、いいなと言った。
「そんな強い奴なら俺も見てみたかったな」
 それを聞いた周りはピタリと会話を止め、視線で合図をする。
「俺らも、お前とアイツの試合は見てみたいけど……」
「アイツに当たった奴は全員負けたし、正直敵取ってほしいよな! まだ近くにいると思うし」
「すっげード金髪だったから分かりやすいだろうしな」
 竹刀貸すからと近くにいた者から二本渡された当夜は、困惑しながらも「ありがとう」と苦笑いをした。
「言っとくけど、割ったら弁償だぞ」
「割らないってば」
 じゃっと走り出した当夜に、徹がえっと言う。追うかどうか悩んだが、周りに審判がいないとと言われて、慌てて遠ざかっていく当夜の後ろを追いかけ走り出した。
「俺も行くよ。幼馴染のくせに試合見に来たことないから、ルールとか知らないだろ」
 そう言って剣司も走り出し、周りはおーと手を振る。
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