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二章/少年よ、明日に向かって走れ!!
惨めに生きないと・二
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「当夜? どうした」
家に帰りたい。父と母と妹がいて、食卓には温かなご飯があって皆で食べて、横並びに布団を敷いて寝れるような――そんな家に。
「当夜」
肩を引き寄せられ、首と後ろ頭に手が触れる。触れた、柔らかいシャツにじわりと水分が吸い込まれていった。
「何度もカグラヴィーダに乗ったからだ。あれは人の本心を引きずり出し、精神をおかしくさせる」
徹は、当夜の紙の短さを確かめるように何度も手で擦り、ぐるりと手を回す。痩せているものの背が高い徹に上から覆いかぶされると、小さな当夜は埋もれてしまう。
「寂しいのが、こわい」
子どものような言葉に、徹は目を丸くさせる。
カグラヴィーダに乗ってから、当夜はこんな風に弱音を吐くことはなかった。いつだって、アクガミを滅ぼすことに邁進していて、自分にだって食って掛かってきたくらいだ。
「キスしたい」
あけすけな言葉に、徹は頷く。涙腺が決壊したかのように涙を零す当夜を見られることがないように、羽織っていたシャツを脱いで頭から被せる。
友人を応援しに来て、その会場の暗がりに恋人を連れ込む。そんな行為に徹の心臓が跳ねるが、それ以上にぼろぼろと無防備に泣く当夜の気持ちを優先させたかった。
「上を向いてくれ」
屈みながら、当夜の顎に手をやって促すと当夜は顔を上げる。大きな涙粒が零れ落ちていく、その顔はなんとも可愛らしい。
できれば、悲しみや寂しさではなく、嬉しさと快楽で流していてほしいと願ってしまう程に。
「好きだよ」
慰めにしかならない言葉を零し、当夜との距離を縮める。
唇を触れ合わせ、目を閉じた当夜の眦からつ、と水が伝い落ちていく。
(惨めだ)
こんな醜い感情は甘えなどという可愛らしいものではない。徹に向けて放ち、彼を苦しめたり困惑させてはいけないのだ。
体を触れ合さないと満たされない。言葉だけで信じられない。そんな出来損ないに、この幼馴染は勿体ない代物だ。
(なんで俺が好きなのかな……もっと、)
もっと、徹を幸せにしてくれる人と出会えるといい。
常日頃、思っていることだった。すぐ殺したがる自分など捨てて、温かな幸せを掴み取ってほしい。
愛は分からなくても、徹が大切だという気持ちは持っているから。
「徹、もっと……」
「仕方ないな」
首に腕を回すと、呆れと照れが混じったような声音で徹は返し、もう一度口を食んだ。
(全部、どうでもいいけど。徹は俺に生きろって怒るから、生きなきゃ)
嫌われたくないしと当夜は目を閉じ、感触に浸る。
家に帰りたい。父と母と妹がいて、食卓には温かなご飯があって皆で食べて、横並びに布団を敷いて寝れるような――そんな家に。
「当夜」
肩を引き寄せられ、首と後ろ頭に手が触れる。触れた、柔らかいシャツにじわりと水分が吸い込まれていった。
「何度もカグラヴィーダに乗ったからだ。あれは人の本心を引きずり出し、精神をおかしくさせる」
徹は、当夜の紙の短さを確かめるように何度も手で擦り、ぐるりと手を回す。痩せているものの背が高い徹に上から覆いかぶされると、小さな当夜は埋もれてしまう。
「寂しいのが、こわい」
子どものような言葉に、徹は目を丸くさせる。
カグラヴィーダに乗ってから、当夜はこんな風に弱音を吐くことはなかった。いつだって、アクガミを滅ぼすことに邁進していて、自分にだって食って掛かってきたくらいだ。
「キスしたい」
あけすけな言葉に、徹は頷く。涙腺が決壊したかのように涙を零す当夜を見られることがないように、羽織っていたシャツを脱いで頭から被せる。
友人を応援しに来て、その会場の暗がりに恋人を連れ込む。そんな行為に徹の心臓が跳ねるが、それ以上にぼろぼろと無防備に泣く当夜の気持ちを優先させたかった。
「上を向いてくれ」
屈みながら、当夜の顎に手をやって促すと当夜は顔を上げる。大きな涙粒が零れ落ちていく、その顔はなんとも可愛らしい。
できれば、悲しみや寂しさではなく、嬉しさと快楽で流していてほしいと願ってしまう程に。
「好きだよ」
慰めにしかならない言葉を零し、当夜との距離を縮める。
唇を触れ合わせ、目を閉じた当夜の眦からつ、と水が伝い落ちていく。
(惨めだ)
こんな醜い感情は甘えなどという可愛らしいものではない。徹に向けて放ち、彼を苦しめたり困惑させてはいけないのだ。
体を触れ合さないと満たされない。言葉だけで信じられない。そんな出来損ないに、この幼馴染は勿体ない代物だ。
(なんで俺が好きなのかな……もっと、)
もっと、徹を幸せにしてくれる人と出会えるといい。
常日頃、思っていることだった。すぐ殺したがる自分など捨てて、温かな幸せを掴み取ってほしい。
愛は分からなくても、徹が大切だという気持ちは持っているから。
「徹、もっと……」
「仕方ないな」
首に腕を回すと、呆れと照れが混じったような声音で徹は返し、もう一度口を食んだ。
(全部、どうでもいいけど。徹は俺に生きろって怒るから、生きなきゃ)
嫌われたくないしと当夜は目を閉じ、感触に浸る。
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