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二章/少年よ、明日に向かって走れ!!
惨めに生きないと・一
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「はい、弁当とハチミツレモン」
やけっぱちになっている満面の笑顔の当夜が差し出すと、赤木はサンキューと笑って受け取った。その後ろに立っている男たちが、それにぐああと叫んで頭を抱える。
ずしゃあと音がしそうなまでに、見事に膝から崩れ落ちた男たちは流石バスケ部のレギュラーだけあって、どいつもこいつも背が高い。
「なんなんだ、コイツらは」
当夜以上に不機嫌さを隠そうともしていない徹が吐き捨てると、赤木が先輩だからと慌てて手を振る。
「弁当とハチミツレモンを持って応援しに来てくれるっていうから、可愛い子だと思ってたのに!!」
「男じゃねえかよ!!」
クソッ、騙されたと悔し涙を流す部員に、当夜はあー……と残念そうな目で見下ろす。背も低く、幼い顔立ちをしている当夜は男にしては可愛いと言えないこともないだろう。
だが、違う。求めていた”可愛らしい女子”ではないのだ。
「なにを言っている。当夜は可愛いぞ」
なんの不満があるんだと腕を組む徹に、そう言えるのはお前だけだよと上半身を上げて抗議する。
「目が節穴なんじゃないのか。当夜、帰るぞ。時間の無駄だ」
「お前、先輩に対してそれはないだろう」
失礼だぞ、と元々吊り目がちな目を怒らせ、腕を掴む当夜を見て徹はほんの微かに表情を和らげる。
「お前の価値も分からない奴らと話すような時間、僕には必要がない」
冷ややかに断じられ、逆に手を取られて引っ張られた。とはいえ、力に圧倒的な差があるために当夜が引きずられることはなく、逆に徹がつんのめる。
「あっ、ていうかお前っ渋木当夜だろ!?」
「助っ人で出た試合全部勝ってるっていう、あの!?」
確かにそうだったが、今日はジャージを持ってきていないし、運動をするつもりはなかった。
昨日のアクガミ横断で疲れ果てていた徹には今日の外出を渋られたが、当夜に疲れは全くない。しかし、観戦だけするつもりで出てきたので、出ろと請われても断るつもりだった。
「そうだけど、今日は俺、観戦するつもりで来たから」
「いてくれるだけでもいいんだ。当夜すっごいんだぞ~、運動部から必勝の神様みたいに思われるからな!」
いつの間にそんな噂が立っていたのか。誰もいない家に一人でポツンといなくてはいけないのが嫌で、なんでもいいから家を出る口実が欲しくてやっていた行為が良いのか悪いのか分からない方向へ作用してしまっていたらしい。
「じゃあ、必勝の神様が午後も見ててやるから頑張れよな!」
当夜は人が好きだ。愛とか、恋とかそんな話じゃなくて、好きだ。恋しいのだ。
だから、こういう人から良い気持ちを受けるのは安心する。
「俺らも飯食いに行こ、徹」
弁当持ってきたからさとランチボックスを持ち上げる当夜に、徹は目を輝かせた。今の今まであった不機嫌さはどこにいったんだと言いたくなるような態度の変えように当夜は軽く噴き出す。
「こっちには徹の好きな物入れてるから」
徹は恋人だ。だから、特別扱いをしてもいい。甘やかしてほしい、自分だけを大切に扱ってほしいという欲求は前からあったが、付き合う宣言をしてからはますます強くなってきているように思える。
「当然だろう」
歪にしか、恋ができない。愛してもらったことがないから、愛され方も愛し方も――なにも分からない。
ずっと自分と一緒にいた徹じゃなかったら、きっと恋人になんかなれなかった。
絡められた指が、熱い。人から貰う温度は奇妙で、でもどこか心地が良い。こんな小さな触れあいではなく、もっと深く深く侵入されたかった。
やけっぱちになっている満面の笑顔の当夜が差し出すと、赤木はサンキューと笑って受け取った。その後ろに立っている男たちが、それにぐああと叫んで頭を抱える。
ずしゃあと音がしそうなまでに、見事に膝から崩れ落ちた男たちは流石バスケ部のレギュラーだけあって、どいつもこいつも背が高い。
「なんなんだ、コイツらは」
当夜以上に不機嫌さを隠そうともしていない徹が吐き捨てると、赤木が先輩だからと慌てて手を振る。
「弁当とハチミツレモンを持って応援しに来てくれるっていうから、可愛い子だと思ってたのに!!」
「男じゃねえかよ!!」
クソッ、騙されたと悔し涙を流す部員に、当夜はあー……と残念そうな目で見下ろす。背も低く、幼い顔立ちをしている当夜は男にしては可愛いと言えないこともないだろう。
だが、違う。求めていた”可愛らしい女子”ではないのだ。
「なにを言っている。当夜は可愛いぞ」
なんの不満があるんだと腕を組む徹に、そう言えるのはお前だけだよと上半身を上げて抗議する。
「目が節穴なんじゃないのか。当夜、帰るぞ。時間の無駄だ」
「お前、先輩に対してそれはないだろう」
失礼だぞ、と元々吊り目がちな目を怒らせ、腕を掴む当夜を見て徹はほんの微かに表情を和らげる。
「お前の価値も分からない奴らと話すような時間、僕には必要がない」
冷ややかに断じられ、逆に手を取られて引っ張られた。とはいえ、力に圧倒的な差があるために当夜が引きずられることはなく、逆に徹がつんのめる。
「あっ、ていうかお前っ渋木当夜だろ!?」
「助っ人で出た試合全部勝ってるっていう、あの!?」
確かにそうだったが、今日はジャージを持ってきていないし、運動をするつもりはなかった。
昨日のアクガミ横断で疲れ果てていた徹には今日の外出を渋られたが、当夜に疲れは全くない。しかし、観戦だけするつもりで出てきたので、出ろと請われても断るつもりだった。
「そうだけど、今日は俺、観戦するつもりで来たから」
「いてくれるだけでもいいんだ。当夜すっごいんだぞ~、運動部から必勝の神様みたいに思われるからな!」
いつの間にそんな噂が立っていたのか。誰もいない家に一人でポツンといなくてはいけないのが嫌で、なんでもいいから家を出る口実が欲しくてやっていた行為が良いのか悪いのか分からない方向へ作用してしまっていたらしい。
「じゃあ、必勝の神様が午後も見ててやるから頑張れよな!」
当夜は人が好きだ。愛とか、恋とかそんな話じゃなくて、好きだ。恋しいのだ。
だから、こういう人から良い気持ちを受けるのは安心する。
「俺らも飯食いに行こ、徹」
弁当持ってきたからさとランチボックスを持ち上げる当夜に、徹は目を輝かせた。今の今まであった不機嫌さはどこにいったんだと言いたくなるような態度の変えように当夜は軽く噴き出す。
「こっちには徹の好きな物入れてるから」
徹は恋人だ。だから、特別扱いをしてもいい。甘やかしてほしい、自分だけを大切に扱ってほしいという欲求は前からあったが、付き合う宣言をしてからはますます強くなってきているように思える。
「当然だろう」
歪にしか、恋ができない。愛してもらったことがないから、愛され方も愛し方も――なにも分からない。
ずっと自分と一緒にいた徹じゃなかったら、きっと恋人になんかなれなかった。
絡められた指が、熱い。人から貰う温度は奇妙で、でもどこか心地が良い。こんな小さな触れあいではなく、もっと深く深く侵入されたかった。
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