忘却のカグラヴィーダ

結月てでぃ

文字の大きさ
上 下
77 / 124
二章/少年よ、明日に向かって走れ!!

愛とか愛じゃないとか・一

しおりを挟む
 咆哮した当夜の紅蓮の瞳が、燃え盛る。猛獣のように歯を剥き出しにして彼方先の男を睨み付け、唸り声を上げた。
 その頭上に曇天が広がっていく。赤い稲光が雲を引き裂くかのように空に走る。あまりに禍々しい情景に男は口の端を吊り上げた。
「ああ、やはり君もそうか。僕と同じ、愛おしいんだね」
 分かるよ、という男の声が当夜の耳に届く。遠く離れた距離にいる男の囁き声が自分の耳に入ってくるのは異常で、不気味だ。
「お前の言う気持ち悪い愛は分かんないけどさ」
 鉄の棒を投げ捨て、拳を作る。雅臣を抱えている手に力を込め、燃えるような目で男を睨みつけた。
「人じゃないってんなら、それをお前が操ってんなら! 俺はお前をぶっ殺す!!」
 従うように擦り寄る、金属と土でできた化け物。ただただ汚らわしいだけのそれを、宥めるように撫でた男は、微かな笑い声を漏らす。
 稲光轟く空の、雲が晴れる。現れ出たのは、白の機体。父に斬り殺され、赤い涙を流す哀れな子だ。
 伸びた白い髪に頬をくすぐられ、雅臣は目を開ける。確かに自分を片腕に抱く若き戦士が凛々しい眉を吊り上げ、青い炎を燃やす様を視認しーー柔らかな月の光を伴って降臨する神の姿に目を見開いた。
「い、」
 いけないーーそう叫ぼうとしたが、打ち付けた体の痛みに顔をしかめてうめき声へと変わる。
 小さな、傷も苦しみもまだ知らない幼い子どもの手が上へ上へと伸びていく。まるで、イカロスの翼のように。
「いくぞ、カグラヴィーダ!!」
 朗々と空気を震わせた当夜の怒号に、雅臣はきつく瞼を閉じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

無垢な幼馴染みと我慢の夜

すいかちゃん
BL
清風高校で最も恐れられている藤本弘樹。彼が一途に思っているのは、幼馴染みで風紀委員の倉田智哉。勉強はできるが、性の知識が皆無の智哉に、弘樹は日々翻弄される。 そして、弘樹のキスで性的に目覚めた智哉。だが、なかなか受け入れるまでには行かなくて…。 10月27日が最終回となります。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

幸せのカタチ

杏西モジコ
BL
幼馴染の須藤祥太に想いを寄せていた唐木幸介。ある日、祥太に呼び出されると結婚の報告をされ、その長年の想いは告げる前に玉砕する。ショックのあまり、その足でやけ酒に溺れた幸介が翌朝目覚めると、そこは見知らぬ青年、福島律也の自宅だった……。 拗れた片想いになかなか決着をつけられないサラリーマンが、新しい幸せに向かうお話。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

処理中です...