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二章/少年よ、明日に向かって走れ!!
死なば、意思を抱かせ・二
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まるで雨雲のように空を覆う鈍色の物体。青い目でそれを見つめる当夜は、胸に息を吸い込ませる。頭の中で、警鐘のように誰かの声が反響していた。それはカグラヴィーダの声のようでもあり、愛する徹の声にも似ていて、花澄にも聞こえ、当夜自身の声でもあった。
「緊張しているのか、渋木当夜」
気遣わしげなカグラヴィーダの声色に当夜は苦笑を漏らし、
「逆だよ」
と眉を寄せる。
「なんでなんだろうな、楽しくて仕方ないんだ」
小学生くらいの時に何度か喧嘩したことはあった。けれど、こんな風に胸がざわめいたり興奮したりしたことはない。
「それがお前なのだ」
白い雲漂う晴天を、赤く燃え上がらせたいと思う。鉄の巨神が握る剣を振るい、土塊を塵へ。身の内に黒くこもる霧が口から吐き出された。
「俺が……戦いを望んでるっていうのか」
そうだ、と肯定された当夜は目を閉じる。
「全てを滅ぼすことがお前の望みだ」
「俺の望み?」
じわじわとこめかみの辺りが痛んできて、指の筋を押しつけた。
「眼下の敵を蹴散らせ、粉塵と化せ――渋木当夜!」
この痛みを晴らす方法は一つだけ。当夜は暗い色を宿す瞳を開け、敵を視界に入れる。
「言われなくたって、元からそのつもりだ!」
ぐっと操縦桿を押し、敵に急接近していく。生唾を飲み込み、大剣で敵を切り払う。夢中になって目に入った物から次々と刻んでいくと、四葉の声が聞こえてきた。ようやく到着したのだろうが、彼女に構うつもりはないので無視をする。
『第二陣が来るって言ってるのに、聞こえてないの!?』
「何体来ようがどうでもいい、全部倒すんだからな!」
おぞましい数に、よく話している時間があるなと当夜は眉間に皺を寄せた。すると四葉がため息を吐く。一体どんな戦い方をしているのかと見下ろすと、四葉は地上でチマチマと敵を薙刀で倒していた。
「ミカヅチは雷を発生させられるんだろ。やればいいじゃん!」
むしろなんでやらないのか理解できないと思った当夜がそう言うと、四葉はあのねえ、と呆れた声で返してくる。
『土と鉄で出来た物に効くと思う? そもそも、アレはこっちにも負担がかかるからできたらやりたくないの!』
知らない癖に言わないで、と喧嘩調になってしまっている二人は、同時に息を吐きだした。そういえば前は徹を通して会話をしていたか、そもそも会話すらしていなかったような気がする。
「面倒だな……」
思わず呟いてしまう。まるで連携が取れていないことには気が付いていたものの、敵を倒すことに集中したい当夜は連携など面倒でしかないし、フォローされないと出来ないのなら来なければいいとすら感じてしまう。
『君のフォローなんていらないわよ! 私も、私一人で十分!!』
「あっそう、じゃあ危なくなっても知らないからな」
機体に乗った途端、これだ。下りている時はこんなこと言わないし、言われない自信があるのに。当夜は頭を乱雑に掻き乱し、膝を叩く。
「緊張しているのか、渋木当夜」
気遣わしげなカグラヴィーダの声色に当夜は苦笑を漏らし、
「逆だよ」
と眉を寄せる。
「なんでなんだろうな、楽しくて仕方ないんだ」
小学生くらいの時に何度か喧嘩したことはあった。けれど、こんな風に胸がざわめいたり興奮したりしたことはない。
「それがお前なのだ」
白い雲漂う晴天を、赤く燃え上がらせたいと思う。鉄の巨神が握る剣を振るい、土塊を塵へ。身の内に黒くこもる霧が口から吐き出された。
「俺が……戦いを望んでるっていうのか」
そうだ、と肯定された当夜は目を閉じる。
「全てを滅ぼすことがお前の望みだ」
「俺の望み?」
じわじわとこめかみの辺りが痛んできて、指の筋を押しつけた。
「眼下の敵を蹴散らせ、粉塵と化せ――渋木当夜!」
この痛みを晴らす方法は一つだけ。当夜は暗い色を宿す瞳を開け、敵を視界に入れる。
「言われなくたって、元からそのつもりだ!」
ぐっと操縦桿を押し、敵に急接近していく。生唾を飲み込み、大剣で敵を切り払う。夢中になって目に入った物から次々と刻んでいくと、四葉の声が聞こえてきた。ようやく到着したのだろうが、彼女に構うつもりはないので無視をする。
『第二陣が来るって言ってるのに、聞こえてないの!?』
「何体来ようがどうでもいい、全部倒すんだからな!」
おぞましい数に、よく話している時間があるなと当夜は眉間に皺を寄せた。すると四葉がため息を吐く。一体どんな戦い方をしているのかと見下ろすと、四葉は地上でチマチマと敵を薙刀で倒していた。
「ミカヅチは雷を発生させられるんだろ。やればいいじゃん!」
むしろなんでやらないのか理解できないと思った当夜がそう言うと、四葉はあのねえ、と呆れた声で返してくる。
『土と鉄で出来た物に効くと思う? そもそも、アレはこっちにも負担がかかるからできたらやりたくないの!』
知らない癖に言わないで、と喧嘩調になってしまっている二人は、同時に息を吐きだした。そういえば前は徹を通して会話をしていたか、そもそも会話すらしていなかったような気がする。
「面倒だな……」
思わず呟いてしまう。まるで連携が取れていないことには気が付いていたものの、敵を倒すことに集中したい当夜は連携など面倒でしかないし、フォローされないと出来ないのなら来なければいいとすら感じてしまう。
『君のフォローなんていらないわよ! 私も、私一人で十分!!』
「あっそう、じゃあ危なくなっても知らないからな」
機体に乗った途端、これだ。下りている時はこんなこと言わないし、言われない自信があるのに。当夜は頭を乱雑に掻き乱し、膝を叩く。
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