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二章/少年よ、明日に向かって走れ!!
言葉はいらない・三
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ゲーム機を手にした子どもが数人見かけられる大きな公園を横切ると緑が多くなってきて、次第にマンションの数も減ってきた。代わりに浄水場などの公共施設が多く見られるようになる。
「もう少しだ」
徹は周りを見渡しながら歩いている当夜の手を握ろうとして――
「おーい、渋木! しぶ……当夜ァ!!」
勢いよく元の位置へと戻した。ん? と言いながら声がした後方に体ごと向けた当夜の背を名残惜しく見た後で、引いた手を握りしめながら、徹も顔だけを向ける。
「えっ、剣司じゃん! 久しぶり!」
当夜の知り合いだったのか、嬉しそうに笑って駆け寄っていく。短い薄茶色の髪に小生意気そうな焦げ茶色の目。白いシャツにチェックの緑のネクタイ、灰色のズボン――学校の制服だろう――は、徹には見覚えがない。灰色のブレザーを持った方とは逆の手で、当夜の肩を叩いた。その気安さに徹は眉をしかめ、自然と半眼になっていく。
「久しぶり! こないだの大会以来だよなっ」
「そーだな。なに、帰り?」
「おお、俺この辺に住んでんだよ」
「へえ、そうだったのか!」
遊びに来るか? と誘いかねん様子の剣司に、徹はひっそりため息をついた。なにかの大会に助っ人で行った時に知り合ったのだろうが、面白くない。
「当夜」
呼びかけると二人は徹の方を向いた。腕を組んで男を冷ややかな目で見ると、たじろぐ。
「あー……えっと、あれ俺の幼馴染」
近づいて行って当夜の横に立ち、男を見下ろす。当夜よりは高いが、徹よりも幾分か低い。
「暁美徹だ。よろしく」
これではあまりにも態度が悪いので、お情け程度に微笑を口に浮かべると、相手はぶふっとふき出した。しかめっ面に戻り、なんだと言うと、相手は当夜の両肩に手を置いて、肩に額を押し付けている。
「噂には聞いてたけど、お前の幼馴染マジでひっでえのな……!」
体も声も震わせる男に、当夜は苦笑していた。徹が当夜を見ると、当夜も見上げてきて、眉を吊り上げて目を怒らせる。尖った唇にキスをしたいくらいに可愛い。
「はー、笑った」
目尻を指で拭った男は、徹の正面に立って手を差し出してきた。
「帝花《ていか》大学付属高校の皆生《かいき》剣司《けんじ》だ! よろしくなっ」
その手をしっかり握ると、掌がゴツゴツとしている。指も節々が硬く、徹は剣司の顔を見ながら離れた。
「去年の全中剣道大会の優勝者、か?」
「んっ?」
問うと、剣司は目を丸めて徹を見る。それから、照れ臭そうに左側頭部に手を当てて、そうだと言った。
「けど、それはコイツがいなかったからだし。いたら負けてるわ」
「なんでだよ。俺がいたって剣司が勝つだろ!」
当夜はうそだあと口を開いて笑う。それに剣司は本当だろーと言いながら当夜の頭に拳を押し当てた。
「当夜、そろそろ行くぞ」
「あ、うん」
徹が呼びかけると当夜はじゃあまたなと言い、剣司もまたなーと手を振る。ひっそりため息をついた徹も頭をちょこんと下げ、背を向けて歩き出した。
当夜は剣司が見えなくなると、徹の隣まで駆け足で追ってきて、上体をかがめて徹の顔を覗き込む。
「やきもちやき」
徹が当夜の方に顔を向けると、ぺろっと舌を出して目を細められる。それに徹の顔に血が集まった。
「わ、悪かったな!」
口に手を当てる徹を見て、当夜はははっと笑う。
「かーわいっ」
「……は?」
ぐっと後ろで組んだ手を引っ張りながらも当夜は微笑んで徹を見つめた。
「いーよ、徹だもん」
「はあ……いいのか?」
「徹だからな」
だからなぜだ? と徹が首を傾げていると、当夜が辺りを見渡してから徹の手を握る。徹の動きをそうして止めてから、背伸びをして頬に口を柔らかく押し当てる。
「な……」
徹が左頬を押さえて呆然としている内に当夜が歩みを再開させたので、慌ててその小さな背中を追いかけた。
「ど、な、なぜだ」
隣に並んで、正面に目をやりながら問うと、当夜はなんでってと笑い声を零す。
「俺ら、恋人同士だろ」
徹は顔をさらに赤くさせ、ああと呟いた。
「で、機関ってどこだ? あれか?」
当夜が指を差した、青いフェンスの向こうを見た徹は、違うと首を横に振る。
「あそこは浄水場だ。機関は向こうだ」
当夜の手を握り、道を右に曲がると、白く大きな建物が見えてきた。
「もう少しだ」
徹は周りを見渡しながら歩いている当夜の手を握ろうとして――
「おーい、渋木! しぶ……当夜ァ!!」
勢いよく元の位置へと戻した。ん? と言いながら声がした後方に体ごと向けた当夜の背を名残惜しく見た後で、引いた手を握りしめながら、徹も顔だけを向ける。
「えっ、剣司じゃん! 久しぶり!」
当夜の知り合いだったのか、嬉しそうに笑って駆け寄っていく。短い薄茶色の髪に小生意気そうな焦げ茶色の目。白いシャツにチェックの緑のネクタイ、灰色のズボン――学校の制服だろう――は、徹には見覚えがない。灰色のブレザーを持った方とは逆の手で、当夜の肩を叩いた。その気安さに徹は眉をしかめ、自然と半眼になっていく。
「久しぶり! こないだの大会以来だよなっ」
「そーだな。なに、帰り?」
「おお、俺この辺に住んでんだよ」
「へえ、そうだったのか!」
遊びに来るか? と誘いかねん様子の剣司に、徹はひっそりため息をついた。なにかの大会に助っ人で行った時に知り合ったのだろうが、面白くない。
「当夜」
呼びかけると二人は徹の方を向いた。腕を組んで男を冷ややかな目で見ると、たじろぐ。
「あー……えっと、あれ俺の幼馴染」
近づいて行って当夜の横に立ち、男を見下ろす。当夜よりは高いが、徹よりも幾分か低い。
「暁美徹だ。よろしく」
これではあまりにも態度が悪いので、お情け程度に微笑を口に浮かべると、相手はぶふっとふき出した。しかめっ面に戻り、なんだと言うと、相手は当夜の両肩に手を置いて、肩に額を押し付けている。
「噂には聞いてたけど、お前の幼馴染マジでひっでえのな……!」
体も声も震わせる男に、当夜は苦笑していた。徹が当夜を見ると、当夜も見上げてきて、眉を吊り上げて目を怒らせる。尖った唇にキスをしたいくらいに可愛い。
「はー、笑った」
目尻を指で拭った男は、徹の正面に立って手を差し出してきた。
「帝花《ていか》大学付属高校の皆生《かいき》剣司《けんじ》だ! よろしくなっ」
その手をしっかり握ると、掌がゴツゴツとしている。指も節々が硬く、徹は剣司の顔を見ながら離れた。
「去年の全中剣道大会の優勝者、か?」
「んっ?」
問うと、剣司は目を丸めて徹を見る。それから、照れ臭そうに左側頭部に手を当てて、そうだと言った。
「けど、それはコイツがいなかったからだし。いたら負けてるわ」
「なんでだよ。俺がいたって剣司が勝つだろ!」
当夜はうそだあと口を開いて笑う。それに剣司は本当だろーと言いながら当夜の頭に拳を押し当てた。
「当夜、そろそろ行くぞ」
「あ、うん」
徹が呼びかけると当夜はじゃあまたなと言い、剣司もまたなーと手を振る。ひっそりため息をついた徹も頭をちょこんと下げ、背を向けて歩き出した。
当夜は剣司が見えなくなると、徹の隣まで駆け足で追ってきて、上体をかがめて徹の顔を覗き込む。
「やきもちやき」
徹が当夜の方に顔を向けると、ぺろっと舌を出して目を細められる。それに徹の顔に血が集まった。
「わ、悪かったな!」
口に手を当てる徹を見て、当夜はははっと笑う。
「かーわいっ」
「……は?」
ぐっと後ろで組んだ手を引っ張りながらも当夜は微笑んで徹を見つめた。
「いーよ、徹だもん」
「はあ……いいのか?」
「徹だからな」
だからなぜだ? と徹が首を傾げていると、当夜が辺りを見渡してから徹の手を握る。徹の動きをそうして止めてから、背伸びをして頬に口を柔らかく押し当てる。
「な……」
徹が左頬を押さえて呆然としている内に当夜が歩みを再開させたので、慌ててその小さな背中を追いかけた。
「ど、な、なぜだ」
隣に並んで、正面に目をやりながら問うと、当夜はなんでってと笑い声を零す。
「俺ら、恋人同士だろ」
徹は顔をさらに赤くさせ、ああと呟いた。
「で、機関ってどこだ? あれか?」
当夜が指を差した、青いフェンスの向こうを見た徹は、違うと首を横に振る。
「あそこは浄水場だ。機関は向こうだ」
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