忘却のカグラヴィーダ

結月てでぃ

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一章/炎の巨神、現る

自由に空が飛べれば・三

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 回線を繋げないように細工をした当夜は、眼下を埋め尽くす化け物を見下ろす。
「アンタらがいなくなれば」
 言葉を零しかけたが、口をつぐんだ。緩く頭を振り、
「いなくなっても、ダメかもな」
 そう呟いた。
「お前の心を乱すのは、あの男か」
 カグラヴィーダが話しかけたため、当夜は機体の向きを変えてヤタドゥーエを視線に入れる。夕暮れの空に浮かぶ晴天に、当夜は目を細めた。
「……うん」
「心とは厄介なものだな」
「時々なかったらいいなって思う、けど」
 なかったら困るんだと当夜が優しい声音で囁くと、カグラヴィーダはそうか、と言った。
「行こう、カグラヴィーダ」
「いいのか」
「うん。俺はいいんだ」
『よくない』
 当夜が小さく首を振って機体に指令を出そうとした時、カグラヴィーダの中に徹の声が響いた。
「徹? なんで」
『なんでじゃない。乗ったばかりだというのに、変な細工をして』
 モニターに入り込んできた眉を強く引き寄せて苦々しい表情をする徹の顔を見た当夜は、唇を尖らせる。
「だって」
『だってじゃない!』
「だって! 徹、なに言ってもダメって言うじゃん」
『お前を守るためだ』
「危険でも、なんだっていい! 全部、全部俺が引き受ける!」
 そう言っただろと当夜は喉の奥から声を絞り出した。思いつめたような当夜の声が、徹の耳にひどく残っている。
『ああ、言ったな』
 幼い頃、二人で約束をした。誰もいない家の中で赤い目を精一杯開いて泣いていた温い身体を、徹は抱きしめたことがある。名前になり辛いもの――当てはまるとしたら運命というものになるだろう――を恨んでいた同じ年の少年が吐いた呪いのような言葉を、聞いた。
 青い空は、赤い涙を流す白い鳥を見上げる。
『だから僕は、当夜を守ると誓ったんだ』
「……花澄に、だろ」
『花澄にもだ。花澄に、花澄のために無茶をする奴を守ると』
 当夜はもう一度泣きそうになる。大好きな妹を守るためと、自分のことを心配してくれる徹の気持ちに応えるため、どうすればいいのか少し分からなくなってしまった。
「俺は……」
 困り果てた当夜は弱音を吐いてしまいそうになり、唇をぐっと噛んだ。
「迷うのか、渋木当夜」
 その様子を感じ取ったカグラヴィーダが、当夜に囁きかけた。
「倒せねば人は息絶え、土地は汚れに充ちる。お前ならば、全て殺せよう。なぜ、今更躊躇うのだ」
「なんでだろ」
 ぽつりと零した言葉に、誰も声を出さなくなった。
「迷うよ、迷う」
 操縦桿から指を一本ずつ離していき、
「けどっ、それでも俺は戦うんだ!」
 顔を屹然と上げて強く握り直す。
 徹に背を向け、こちらに気付き始めているアクガミに向けて下降していく。砲口を完全に開き、土と鉄をも溶かす熱度の炎を吐き出した。
『当夜!』
 慌てて徹が呼びかけてくるが、当夜はそれに頭を強く振るう。
「もう止めたって、止まんないからな!」
 叫び返した当夜が迷わないようにと心を強く持とうとしていることに気づいた徹は、手を強く握りしめた。
『当夜、待て!』
 上から火で溶かした当夜は機体を急降下させていき、長大な剣でアクガミを切り刻んでいく。
「嫌だ!」
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