忘却のカグラヴィーダ

結月てでぃ

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一章/炎の巨神、現る

空に向かって飛べ!・三

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『他の支部に要請を!』
 切羽詰っている徹の声に、当夜は椅子から立ち上がった。
 縋るような目で自分を見てきた鏡子に頷いて、当夜は走り出す。
「当夜くん、昨日の場所覚えてる!?」
「うん、大丈夫!」
 スタッフの間を掻い潜り、脇の階段を三段飛ばしで上がった当夜はエスカレーターのボタンを押した。だが、なかなか来る気配の見えないそれに当夜は舌打ちをして、辺りを体を動かして見る。
「当夜くん、通路の奥に階段あるよー」
「分かった、ありがとう!」
 当夜を追って階段を上がってきた雅臣に教えてもらった方向に走っていくと、確かに階段があった。当夜はこれも三段飛ばしで下っていき、格納庫の上のステップに辿り着く。
 手すりに手をついた当夜は、格納庫で眠りについている白い翼を持つ機体に向かって叫んだ。
「カグラヴィーダ!!」
 それに、下で目まぐるしく作業をしていたメンテナンススタッフが当夜を仰ぎ見る。
「こら、君! いったいどこから入ってきたんだ!」
 近くにいたスタッフが寄ってきて当夜を押さえようとするが、当夜はそれに抗った。
「暴れるんじゃない!」
「アンタこそ、邪魔するな!」
 押さえつけようとしてくるスタッフの腕に当夜が手を伸ばそうとした時、背後から雅臣の声が響いてくる。
「その子は新しい機体のパイロットだ! 手を離して、好きにさせてあげて!」
「あ、新しい贄!?」
「で、ですが」
 目を剥いて驚くスタッフから顔を背けた当夜が手に力を入れたため、手すりが小さく音を立てた。
「……起きろ」
「え?」
「起きろ、いつまで寝てんだ! 行くぞ!!」
 煌々とした赤い目を見開いてカグラヴィーダへと叫んだ当夜のツヤツヤとした黒髪が根本から白く変わっていく。その様子にスタッフも、雅臣も動くことを忘れて見入る。すっかり腰まで長くなった光沢のある白い髪を鬱陶しげに後ろにはらった当夜は手すりに両手を置いた。
「アンタが選んだのは誰だ! 服も命もどうでもいいから早く行くぞ!」
 当夜が怒鳴り終えると、カグラヴィーダの赤い目に光が灯る。一人手に動き始めたロボットに、周辺にいたスタッフが悲鳴を上げて避難していく。
 それを見た当夜は手すりに足をかけ、飛び降りた。
「当夜くん!?」
 雅臣が慌てて手すりに駆け寄って下を覗くが、当夜は危なげなく着地し、カグラヴィーダへと真一文字に走っていく。当夜が足元まで行くと、カグラヴィーダは片膝を立ててしゃがみ、手を差し伸べた。
「我が選んだ、唯一の人よ。お前の激しい心には驚かされる」
「寝坊助には激しいのが一番なんだよ」
 当夜と会話をするカグラヴィーダの姿に、雅臣の目が見開かれ、口角が上がる。
「自ら動き、話す鉄神……! ついに、ついにここまで来たんだね!」
 素晴らしい! と叫ぶ雅臣に、周りのスタッフは引き攣った顔のまま目をやった。
 雅臣が冷ややかな目を向けられていることを知らない当夜は、カグラヴィーダの手の上に乗る。すると、手が動いてハッチの開けられているコックピットの前まで当夜を運んだ。
 当夜がコックピットに乗り移ると、自動で閉まり、全ての機能が動き始める。
 ビッシリと歯のついた黒い球体が座席から伸びてきて、制服を噛み千切る。当夜がそれにわずかに頬を染めるが、文句を言う前に身体中に噛みつかれた。当夜は痛みに大きな悲鳴を上げ、背をしならせる。
「あ、ぐ……! うぅ」
 痛みが治まってから当夜は座席にぐったりと体を預けた。
「行こうか、渋木当夜」
「アンタな、これ毎回なのかよ」
 冗談じゃねーぞと言う当夜の言葉に、カグラヴィーダは返事をしない。
「二着も破りやがって、制服代請求するぞ!?」
「ここからは自分で操作をしてもらおう」
「おい、誤魔化すなよ!」
 まるで人間のようなことをするカグラヴィーダに当夜はツッコんだが、言っていても仕方がないと操縦桿を握り締めた。
 アマテラス機関の通路を通って自力で発進したカグラヴィーダを、激しく揺さぶられながらも当夜は安定させる。仰ぎ見た空は、まだ青を失っていなかった。
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