忘却のカグラヴィーダ

結月てでぃ

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一章/炎の巨神、現る

アマテラス機関・二

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 医者はガラガラと点滴スタンドを押して廊下を歩いていく当夜の横にピッタリ並んだ。
「よかったの?」
「俺の気が治まったら迎えに行くよ。アイツ、絶対に折れてくんないから」
 笑って言う当夜に、男はそっか、と言う。
「さて、君はどこに行くのかな~?」
「んー……カグラヴィーダんトコだけど、その前にここの責任者んトコに案内してくんない?」
「どうして?」
「ここがなにする所で、カグラヴィーダがなにか、俺がどうなんのか知りたい」
 カラカラと音を立てつつあるく当夜に、医者は苦笑した。
「そこの曲がり角を右だよ」
「はい」
 長い黒髪を揺らして歩く当夜を見ながら男は微笑む。当夜は右に曲がり、大きな吹き抜けのあるホールまで入った。細い廊下を通って、階段を下り、真ん中で指示を与えている女性の傍まで歩いていく。
「すいません」
 後ろ手に手を握った当夜が話しかけると女性はその方に顔を向けた。
「今、時間いいですか?」
「えっ、あなた……は」
「キョーコちゃん、この子あの白い機体のパイロット」
「ああ! ええ、勿論よ!」
 当夜の後ろから医者が言うと、その女性は一つ返事でデスクの上の書類をまとめ、部下に伝えてから当夜を別室に誘う。
「僕も一緒に行ってもいいよね、キョーコちゃん」
 笑顔で当夜の両肩に手を置く男を見て、女性は渋い表情になったが、背を向けた。
「あなたは……その、勝手にしてください」
 それでいいのか、男はわーいと子どものように言って、はしゃいだ様子でスキップをする。当夜は二人を後ろから見ながら、くすっと笑った。
「さ、ここよ」
 女性がスイッチを押して部屋のドアを開け、中に入る。電気を点けた部屋は、大きな長テーブルとイスが五脚程置いてあり、規模は小さいものの会議室のようだった。
「失礼します」
 と言いながら当夜は入り、女性がどうぞと手で差した椅子を引いて座る。さてと、と微笑する女性の赤い唇が見慣れず、当夜は顔を俯けた。
「そうね、まずはお名前とか教えてくれないかしら? それからこちらの事情について説明をするわ」
 そう言われた当夜ははあと言って、俯いていた顔を上げる。
「えっと、じゃあまあ。その、名前は……渋木当夜っていいます。年は十五で、美里ヶ原高校に通ってる」
「……美里ヶ原高校の、渋木当夜くん、ね」
 テーブルに広げた手帳にメモを取っていた女性がペンの先を顎に当てた。
「この間の模試で一番だった?」
「え? あ、うん」
「日曜の陸上大会で五千メートルで優勝してなかったかい?」
「う、うん……代理で出た、から」
 なんで知っているんだろう? と当夜は首を傾げると、大人二人は顔を見合わせて難しい表情をする。
「剣道、柔道、空手、ボクシング」
「全部やってたけど……?」
 二人は顔を再度見合わせてから、はーっと大きく息を吐いた。
「これはやられたわね」
「徹くんが隠していたのか、ご両親が隠していたのか、どっちだろうねえ」
「きっとどっちもよ。大体、最初からおかしかったもの」
「なにかあるかなあとは思ってたんだよねえー」
 もう一度大きくはーっと息を吐いた二人に、当夜は不審だという顔を隠せなくなってくる。
「あの、なんですか?」
 眉を寄せながら訊ねると、二人はごめんごめんと言いつつ、こそこそと話すのを止めた。
「ごめんね」
「ううん。とにかく、わかんないことだらけなんで、説明してほしいんだけど……」
「そうね。あ、その前に。私は由川《ゆかわ》鏡子《きょうこ》。ここ、東京支部の司令官をしています」
「僕は市ノ瀬《いちのせ》雅臣《まさおみ》。君たちパイロットのメディカルチェックとかの担当をしてるよー」
 手を振りながら言う雅臣を冷たい目で見た鏡子は、ごほんとわざとらしい咳をしてから話し始める。
「まずはここの説明からするわね」
「うん、お願い」
 足の間に手を差し込んで頷く当夜に、鏡子はにっこりと笑った。
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