忘却のカグラヴィーダ

結月てでぃ

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一章/炎の巨神、現る

アマテラス機関・一

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「う……っ」
 呻いた当夜は目を開けた。白い天井と薄ピンクのカーテンが目に入った当夜は体を起こして周りを見る。服装は制服ではなく、水色のシンプルな上下に変わっていた。肘の裏に輸血の管が通されている。
「病院? なんで……」
 ベッドから降りた当夜は、点滴スタンドを握った。それを押して、カーテンを開いて外に出る。何人かで集まって寝かされている部屋か、花澄のように個室なのかと思っていたが、出てみると病室ではなさそうだということが判明した。
 他にもいくつかカーテンで仕切られたベッドが三台あり、膨大な量の薬が詰められている棚とテーブルが設置されていて、どちらかというと学校の保健室のようだった。
「おや、起きたのかい?」
 横開きのドアがカラリと音を立てて聞くと、丸眼鏡をつけたボサボサの黒髪を無理矢理後ろで結っている男性が入ってくる。白衣を着ているところを見ると、この人物が医者のようだった。
「あ、あの……っ、俺、は?」
 点滴スタンドを握った手をそのままに、当夜はじりっと後退する。もう片方の手を胸の前で握り、困惑した面持ちで男を見つめると、突如男の緑色の目がやに下がった。
「かっわいいですねえー!」
「うっ」
 物凄い勢いで駆け寄ってきた男は当夜を抱きしめて頬ずりをする。
「ア、アンタ誰!? こ、ここどこ!?」
 暴れる当夜に大笑いをしながら、男は当夜の着ている服をめくった。
「おっ、やっぱりもう消えてますねえー」
「なっ、なに!?」
 べろんと大きくめくられて腹を見られた当夜は目を丸くさせるが、男は気にした様子もなく、背中やシャツから出た腕、ズボンを引っ張って下半身を覗く。最初こそ動揺した当夜だったが、相手が男だということもあってじょじょに落ち着いてきた。医者なのだとしたら、患者の様子を見るのは当たり前のことだ。
「んー、流石ですねえ」
 と言って当夜の前から去ろうとした男の白衣を当夜はつかんだ。
「な、なあ!」
「なんですかあ?」
 細い目を閉じて笑む男に、当夜は教えろよと訴える。
「ここはどこで、カグラヴィーダは一体なんなんだ」
「カグラヴィーダ?」
「おっ、俺の……白い鳥」
 面白そうに笑う男に、当夜はだんだん恥ずかしくなってきて、赤くなって口ごもる。
「ああ、あの機体の名前ですかあ。そう、カグラヴィーダというんですね」
「そーだよ」
 ぎゅっと白衣を握った。あんなに寂しそうな目をしたカグラヴィーダを一体どこに行ってしまったのだろう。
「寂しがってる。きっと」
 そういうと、男は腹を抱えて笑いだした。当夜は耳まで赤くしてわっ笑うなよ! と叫ぶ。
「あー、いやそんなパイロット初めて会いました」
 滲んだ涙を指の先で拭った男は、当夜の頭をくしゃくしゃに撫でた。
「優しい子ですねえ」
 当夜は照れるのも怒るのも止めて、男を赤い目でじっと見つめる。
「徹くんが大事にするのも分かります」
「とっ?」
 幼馴染の名前を出された当夜はぎょっと目を開いた。問おうとした時、横開きのドアを開けて水色の髪が入ってくる。内巻き気味の髪を揺らして入ってきた青年と、当夜は目が合った。
「徹」
 知らない場所で、知らない人と話していた当夜は、緊張していたが、徹の顔を見た途端、上がっていた肩の力も抜け、強張っていた表情も緩む。
「勝手なことをするなと、あれ程言っただろう!」
 だが、靴の踵を鳴らして近寄った徹は手を振り上げ、当夜の頬を叩いた。
「どれだけ僕を心配させるんだ!」
「ご、」
「謝って済むことじゃない!」
 再度同じ頬を叩かれた当夜は、ギッと徹を睨み付ける。その様子に、徹はなんだ、と言う。
「朝にあれ程言っておいただろう」
「言っておいたってなんだよ! 俺は犬か!?」
「約束も守れないのなら犬以下だ!」
 片方を赤くさせた当夜は、口をぽっかり開けて徹を見上げた。徹が口を開こうとした時、
「はーいはい、徹くん落ち着いて」
 医者らしき人物が間に入り込んできた。
「ダメじゃないかー、患者を興奮させちゃあ。困るよお」
「は、はあ……ですが」
「ですがじゃないよ!」
 腰に手を当てて怒る男に、徹は眉を下げる。
「あのっ」
「ん?」
 当夜が男の腕にしがみついて話しかけると、男はなんですかねえ? と当夜の方を向いた。どうしたんです? と言いながら背を屈める。
「これっ、外してもらいたいんだけど、いい?」
 当夜が輸血の針を差している腕を見せると、男は瞬きをした。
「えっ、ダメに決まってるじゃないかあ。血が足りなくて危ない状態だったんだから」
「じゃあ、このまま歩きたい」
 一応医者の許可が必要なのだろうと思ったため、当夜は男に訊いたが、男は仕方ないねえーと頭を掻く。
「んじゃ、僕と一緒に歩こっか」
 と言って男は当夜の腰に手を滑らせた。当夜はん、と頷く。
「と、当夜!?」
 慌てた徹が当夜の手を握って止めようとしたが、当夜はその手を避けた。徹、と不機嫌そうな声を出す。
「俺が犬だとか言うんなら、お前の手ェ噛んでやる」
「かっ、噛む!?」
 徹が自分の手を握り、医者がぷっと吹き出した。当夜はフンッと鼻息荒く扉を開けて廊下に出ていく。
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