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一章/炎の巨神、現る
迫る気配・二
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プシューと空気が抜ける音にも近い音を出しながら電車のドアが開く。中から滝のように人が溢れ出ていくのに合わせ、当夜と徹も出た。
「しーぶーきーぃっ!」
「うわっ!?」
ホームを並んで歩いたら、当夜に背後から誰かが抱き着いてくる。その人物は背を丸めて小柄な当夜の首辺りに頭をぐりぐりと押し付けた。
「赤木っ、こそばいって! やめろよー」
「きーいーてーくーれーよーおー!」
「あー、聞く聞く。聞くから離れろって!」
あははっと笑い声を立てる当夜に、まだ顔をすり寄せようとするのを見かねた徹が手を伸ばす。
「おはよう」
だが、その前に逆方向から手が伸びてきて、当夜から犬のようにしがみついている赤木を引き離した。
「安久、それ以上やるとまた暁美に怒られるぞ」
ダークグレーの細い眼鏡フレームを指で押し上げながら黒い天然パーマの男が言う。
「まる、ヒデー」
「うるさいよお前は」
ははっと大きく声を出して笑うのは、当夜と徹のクラスメイトの赤木安久だ。短く刈った金髪と、赤みがかった茶色の猫目をしている。目を閉じて笑う様子や、猫背で歩く姿が本物の猫っぽい。
その赤木の頭江を小突くのは、同じく二人のクラスメイトの加護久丸。染めた真っ黒な天然パーマと、青色の垂れ目という甘い顔立ちをしているが、ダークグレーのフレームの眼鏡をかけることによってカッチリとした印象に仕上げている。
「あ! それよか渋木ぃ聞ーてくれよーぉ」
忠告を受けたにも関わらず、赤木は当夜に抱き着き、ごろごろと懐く。それを見たカゴが徹の背中をぽんと軽く叩いた。
「猫がじゃれてると思って」
「……僕はなにも言っていないが」
「顔が怖いんだよ」
「それは悪かったな。猫じゃなくてライオンがひっついているように見えるんだ」
徹の返事に、加護が小さく噴き出す。
「笑い事じゃない」
「はいはい、悪かったよ」
苦りきった顔になった徹の背を叩いた。徹は一瞬加護を睨んだが、すぐにため息を吐いた後、前を歩く二人に視線をやる。
「それでさー、俺フラれちゃって。ヒドくねえ?」
「うーん、それはヒドイな」
唇を尖らせ、スクールバッグをリュックのように背負っている赤木に言われた当夜は苦笑した。
「そんなすぐに愛って冷めるもんなん? 女子冷てえー。マジ冷てえ」
「うーん、俺はそんな簡単に冷めないけどなー。一度好きになったらずっと好きでいると思うけど、それって人それぞれだろ? もっとお前を深く愛してくれる人が現れるから、元気出せって。なっ?」
後ろから聞いている二人には適当に言っているのか本気で言っているのかよく分からないことを返した当夜に、赤木は目を潤ませて抱き着く。
「もう俺、当夜と付き合う!!」
またしても過剰と思えるスキンシップと台詞に、徹の眉がピクリと動いた。
「えー、やだよ。なんで俺ぇ?」
「だって飯うめーし、ちっせーし。顔も……まあ、我慢できなくてもねえし」
「我慢ってなんだよ」
ぶーっと頬を膨らませる当夜に、赤木は大声で笑って背中を叩く。
「ごめんごめん! 可愛いって!」
「そう言われても嬉しくねえけど。一応ありがと」
二人の言い合いに入り込もうとした徹の腕を加護がまあまあ、と言いながら掴んだ。
「加護、止めるな」
「いやー、クールで通ってるんだから、ねえ。ここは止めたげないと」
「周りが勝手に決めたイメージなどどうでもいい」
いやいやーとのん気に言う加護に止められて動けなくなっている徹のことも知らず、当夜にべったり引っ付いたままの赤木が大声を出す。
「しーぶーきーぃっ!」
「うわっ!?」
ホームを並んで歩いたら、当夜に背後から誰かが抱き着いてくる。その人物は背を丸めて小柄な当夜の首辺りに頭をぐりぐりと押し付けた。
「赤木っ、こそばいって! やめろよー」
「きーいーてーくーれーよーおー!」
「あー、聞く聞く。聞くから離れろって!」
あははっと笑い声を立てる当夜に、まだ顔をすり寄せようとするのを見かねた徹が手を伸ばす。
「おはよう」
だが、その前に逆方向から手が伸びてきて、当夜から犬のようにしがみついている赤木を引き離した。
「安久、それ以上やるとまた暁美に怒られるぞ」
ダークグレーの細い眼鏡フレームを指で押し上げながら黒い天然パーマの男が言う。
「まる、ヒデー」
「うるさいよお前は」
ははっと大きく声を出して笑うのは、当夜と徹のクラスメイトの赤木安久だ。短く刈った金髪と、赤みがかった茶色の猫目をしている。目を閉じて笑う様子や、猫背で歩く姿が本物の猫っぽい。
その赤木の頭江を小突くのは、同じく二人のクラスメイトの加護久丸。染めた真っ黒な天然パーマと、青色の垂れ目という甘い顔立ちをしているが、ダークグレーのフレームの眼鏡をかけることによってカッチリとした印象に仕上げている。
「あ! それよか渋木ぃ聞ーてくれよーぉ」
忠告を受けたにも関わらず、赤木は当夜に抱き着き、ごろごろと懐く。それを見たカゴが徹の背中をぽんと軽く叩いた。
「猫がじゃれてると思って」
「……僕はなにも言っていないが」
「顔が怖いんだよ」
「それは悪かったな。猫じゃなくてライオンがひっついているように見えるんだ」
徹の返事に、加護が小さく噴き出す。
「笑い事じゃない」
「はいはい、悪かったよ」
苦りきった顔になった徹の背を叩いた。徹は一瞬加護を睨んだが、すぐにため息を吐いた後、前を歩く二人に視線をやる。
「それでさー、俺フラれちゃって。ヒドくねえ?」
「うーん、それはヒドイな」
唇を尖らせ、スクールバッグをリュックのように背負っている赤木に言われた当夜は苦笑した。
「そんなすぐに愛って冷めるもんなん? 女子冷てえー。マジ冷てえ」
「うーん、俺はそんな簡単に冷めないけどなー。一度好きになったらずっと好きでいると思うけど、それって人それぞれだろ? もっとお前を深く愛してくれる人が現れるから、元気出せって。なっ?」
後ろから聞いている二人には適当に言っているのか本気で言っているのかよく分からないことを返した当夜に、赤木は目を潤ませて抱き着く。
「もう俺、当夜と付き合う!!」
またしても過剰と思えるスキンシップと台詞に、徹の眉がピクリと動いた。
「えー、やだよ。なんで俺ぇ?」
「だって飯うめーし、ちっせーし。顔も……まあ、我慢できなくてもねえし」
「我慢ってなんだよ」
ぶーっと頬を膨らませる当夜に、赤木は大声で笑って背中を叩く。
「ごめんごめん! 可愛いって!」
「そう言われても嬉しくねえけど。一応ありがと」
二人の言い合いに入り込もうとした徹の腕を加護がまあまあ、と言いながら掴んだ。
「加護、止めるな」
「いやー、クールで通ってるんだから、ねえ。ここは止めたげないと」
「周りが勝手に決めたイメージなどどうでもいい」
いやいやーとのん気に言う加護に止められて動けなくなっている徹のことも知らず、当夜にべったり引っ付いたままの赤木が大声を出す。
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