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✩.*˚第4章 未来へふたり
☆結愛
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十二月がやって来た。
最近は、色々前に進めている気がする。
まずは、SNSのこと。
キラキラなことをいっぱい載せて、誰かが元気になれたらいいなって考えた。まずは、私が撮った写真や描いた絵を載せてみることにした。
まだ少ない数だけど、『いいね』を押してくれたり、嬉しいな!って思える感想も、もらえたりするようになった。
陸くんがいっぱいキラキラ系なのをSNSにアップしていたから、彼からアドバイスをもらった。
彼は自分が良いなと思えることを、見てくれた人たちと共有したいからアップしているらしい。
「とりあえず、今思いつく、アップする時に気をつけたら良いなと思うことを書いておくね」と、ノートの切れ端で書いてくれた。
―――――――――――――――
☆家バレする写真や情報は安易に載せない方が良いかも
☆誰かが傷つく事は書かない
☆とにかくSNSは楽しく!←これ一番大事!
―――――――――――――――
って。
ありがとう、陸くん!
桃音ちゃんとの関係も、前と変わったことがある。
今考えると、ずっと、桃音ちゃんに嫌われないようにしていた。だから本音も言わずに、ただ彼女に合わせてるだけだった。
恋の騒動?があってから、かくれて悠真と付き合っていたことも、きっかけから全部、あらためて話をした。
私の気持ちもきちんと桃音ちゃんに伝えるようになった。彼女が行きたいと言っていても、私が行きたくないと思えば「嫌だ」って言えるようになったし。最初は嫌われちゃったかな?とか、気にしすぎちゃったけれど、桃音ちゃんは「OK! 結愛が嫌なら別の場所考えて、そこに行こう!」って、明るく言ってくれて、一緒に考えてくれる。
そして、悠真!
なんだか最近、私よりも大人になった気がする。小さい頃からカッコよくてモテていたけれど、最近は身長も伸びたし、更にイケメンになった。
あと、私に対しての態度が前から変わってきたなぁって感じていたけど最近は、どうしちゃったんだろうって思うほど、特にすごい。
少女漫画でよく読む“ 溺愛 ” と思わせることをよくしてくる。しかも、周りの目を気にしないでそういうのをしてくる。
すごい溺愛だったなと思う出来事がこれ。
それは学校の帰り道で起きた。
いつものように悠真と一緒に歩いていた日。雨上がりで大きな水たまりがあって。避けるの面倒だな、そんなに深くないし、入っちゃっていいかな?って考えながら水たまりに入ろうとした時、いきなり悠真に抱き上げられた。
これは、お姫様抱っこ!?
まるで王子様に抱えられているお姫様みたい!ってなって。
ものすごく驚いて「どうしたの?」って聞くと彼は「結愛の足、濡れちゃうじゃん」って答えていた。平然と答えていた彼とは逆に私は心身共に熱くなった。
そういうことされるの、嫌いじゃないけれど、周りの注目を浴びて、正直恥ずかしかった、かな?
でも実は、誰もいない時にひっそりもう一度、お姫様抱っこされたいなって気持ちもある。
悠真、なんだか王子様みたい。
みたいっていうか、私の王子様!
そんな王子様みたいな悠真に言われた。
「クリスマスイブの夜、空けといて! 帰り、遅くなりすぎないように気をつけるけど、一応家族にも言っといてね!」
って。
恋人同士で過ごすのってロマンチック!
どこで何をするのかな?
なんて、ずっと幸せな気持ちのまま、その日が来ると思っていたのに。誰かから電話が来ると彼は私から離れていき、その相手と何かコソコソと話をするようになった。そして用事のない日の放課後や休日は、いつもふたりで一緒にいたのに、一緒にいてくれない日も多くなった。
他に好きな人が出来ちゃったのかな? その人と連絡したり、一緒にいるの? とか、悪い方向に考えちゃって、心がズキンと痛くなった。
聞いてみようって何度も思ったけれど、怖くて聞けなくて。
このままクリスマスイブに、私ではなくて、その新たに悠真が好きになった人と悠真がふたりきりで過ごすことになったらどうしようとか、悪い想像ばかりしちゃう。
不安な気持ちが消えないまま、約束したクリスマスイブの日になった。
✩.*˚
クリスマスイブは、二学期の終業式の日だった。
その日、学校は早く終わった。
帰り道。
「今日、十八時、暖かい格好して、家で待ってて!」
悠真は明るく言った。
あっ、私と過ごしてくれるんだ――。
その言葉を聞いて、私はほっとした。
「うん、分かった!」
私も明るめな声で返した。
家に帰ると、まだお昼で約束の時間まで結構な時間があったけれど、ずっとソワソワした。
恋人になってから初めて一緒に過ごすイベントだし。
どこで何をするのか聞いても「内緒」って言われていて、分からないままだし。
とりあえず、夜に着ていく服を選んだ。
悠真とクリスマスイブの約束をしてからすぐに、ある程度は選んでいたけれど、オシャレな服って普段着ないし、まだ迷っている。約束は今日なのに。迷っている時にちょうどお姉ちゃんが学校から帰ってきた。お姉ちゃんの部屋に行き、相談してみた。
「お姉ちゃん、今日、何着ていこう」
家族みんなで夜ご飯を食べていた時に、クリスマスイブは悠真と過ごすってことを言ってあったから、お姉ちゃんはすぐに察してくれて「まかせて!」と言いながら、部屋のクローゼットをあさりだした。
「どう? これ」
お姉ちゃんはハンガーにかかったままの水色のパステルカラーのAラインで膝上までの長さのコートに、同色系の色にうっすらとピンクの線も入ったチェックのマフラー。そして、大人っぽい黒いワンピースを見せてくれた。
「普段着ない感じ。似合うかなぁ? 大丈夫かなぁ?」
「大丈夫! 結愛パステルカラー似合うし、水色は雪に映えるんだから! あ、でも夜だからどうだろう……。あ、あとね、普段しない大人っぽいワンピースとか着ちゃったら悠真、メロメロだよきっと!」
お姉ちゃんはノリノリで自信満々な言い方。説得力がある。
「じゃあ、これにする! ありがとうお姉ちゃん!」
「あと、クリスマスメイクさせて? キラキラアイシャドウ!」
お姉ちゃんはとても楽しそうだった。
髪の毛も普段しない、コテを使ってフワフワな髪型にしてくれて。
――悠真、可愛いって思ってくれるかな? 緊張する!
約束の時間まで、あと五時間。私はすでに準備を終えていた。
ちょうど十八時。
時間ピッタリに家のチャイムがなった。すでに十分前ぐらいにはブーツも履いて、準備万端な状態で玄関にいた。ドアの前で立ち、心の準備をして一分ぐらいたって、背筋をピンと伸ばしてからドアを開けた。
「あっ、遅くなってごめん! 今ちょうど準備出来たとこなの!」
なぜか私は、今準備出来た感を出した。
結構前に準備を終えていたのに。
ドアを開けると、悠真だと気がついてマロンがシッポを振りよろこんだ。悠真がマロンとたわむれる。
終えると悠真は言った。
「車に乗って?」
「えっ? 車?」
いきなり悠真に手をつかまれ、見たことのない白い車の後ろに押し込まれた。
運転席から後ろの席にいる私を覗き込む人、見覚えがある。
「俺の父さん、覚えてる?」
「あっ!」
そうだ! お父さんだ!
小さい時、悠真の両親は離婚して、彼のお父さんは家を出ていった。
まだ離婚していない頃、悠真と一緒に、あちこち連れて行ってくれたのを覚えている。すごく、優しかった記憶。
「お久しぶりです!」
「大きくなったね」
お父さんのメガネ越しの、私を見る瞳がとても暖かい。
「今日はね、悠真が小さい頃から結愛ちゃんに見せたいって言っていた景色の場所に行くよ!」
「小さい頃、から?」
「そう。結愛ちゃんに見せたいって目をキラキラさせて言っていたんだ。というか、悠真、毎日結愛ちゃんの話ばかりして……」
「父さん、余計なことは言わないでいいよ」
「そっか、ごめん! 今日は雲もないし、空もいい感じだし。良かったね、悠真!」
悠真は返事をせずに耳を赤くして、外の景色を眺めていた。
三人で懐かしい話をしているうちに、あっという間に目的地らしき場所に着いた。
車を停めて、三人は外に出る。
「昔行った場所って、ここの道を抜けた場所だったよね?」
悠真がお父さんに質問をする。
「そうそう。ふたりで行っておいで! 父さん、車で休んでるわ。ゆっくりしてきて良いからね」
「ありがとう、父さん!」
「ありがとうございます!」
お礼を言うと、木に囲まれた小道の中を進む。
抜けると、凄く綺麗な景色がそこにあった。
うっすらと雪が積もって、大きな木が一本だけ立っていて、とてもシンプルな丘。空には瞬きをしている星達がたくさん見える。キラキラ光を放ちながら踊っていて、すごく綺麗だった。
好き。
静かで、雪の優しい香りもほのかにして
好き。
そして、隣には悠真がいて
好き、大好き。
この今見える世界が、全部好き。
綺麗すぎて、大好きすぎて、涙が出そうになる。
ぐっとこらえる。
――でもこの景色、前に見たことがある気がする。ここに来た記憶は一度もないのに。
「悠真が小さい頃から私に見せたかったのって、ここ?」
“ 小さい頃から ”って言葉にじわじわと感動が湧き上がる。
今、この目に見える世界は、悠真が小さい頃から抱いていた気持ちを現実にした瞬間。
私にこの景色を見せるために、今日の日を計画してくれたんだ。
ウルっとしちゃう。
「悠真、ありがとう。ずっと、こんなに綺麗な景色、ずっと私に見せたいって思ってくれてたんだね!」
涙が出てきた。もう、悠真のことになると、泣き虫になっちゃう。
彼は頭をなでてくれた。
「ずっと大好きな結愛に、大好きなこの景色を見せたかったんだ! よろこんでくれたみたいで良かった!」
「ありがとう、悠真」
「あと、これ!」
小さなピンク色の花柄の袋を手渡された。
「開けて、いい?」
「うん」
開けると、キラキラした桜の、可愛い私好みのネックレスが入っていた。
「可愛い!」
「何あげれば良いのか分からなくて、ずっと悩んでて、父さんにあちこちお店連れて行ってもらってたんだ」
色々私のために準備してくれていたんだ。
だからコソコソしてたり、最近会えなかったりしていたのか。
「悠真、最近会えなかったから、疑っちゃった。他の人好きになっちゃったのかな? 会ってるのかな?って。寂しくなっちゃったの。ごめんね!」
「寂しい思いさせて、こっちこそごめん。俺は、ずっと結愛しかいないから!」
手を繋いで、一緒に星空を見上げた。
それから「こんなところで食べるの、どうなんだろう、大丈夫?」って言いながら、彼はケーキの箱を開けた。
イチゴの小さなショートケーキにサンタさんが乗っていた。
「可愛い! 寒いところで甘いの食べるの、美味しいと思う!」
私がそう言うと、彼はほっとしていた。
「いただきます!」
「俺も食べよ!」
本当に、本当にここで悠真と食べるイチゴのショートケーキは、いつもよりも甘くて美味しかった。
ケーキは大切に、ゆっくりと食べた。
食べ終わってすぐに悠真は言った。
「結愛、写真撮っていい? 星空と結愛の全体写真!」
私が答える前に悠真は離れていき、遠くから私と星空いっぱい写るような距離でスマートフォンで、写真を撮った。
「これ、未来の俺に送ってあげよっと」
「何を言っているの? 未来の悠真?」
「うん。実はね……」
悠真が、未来の悠真と一年生の冬頃からメールをしていたことを教えてくれた。
内容も全部。
「不思議すぎるね!」
「だろ? 最初、いたずらかなって疑っていたもん」
「それは、疑うよね」
私はすぐにその話を信じた。
悠真が変わってきた時期と、メールの内容の話がピッタリ重なり合ったから。
そして、私が陸くんと間違えて悠真に告白をした話。それもメールがきっかけだったんだ。ずっと不思議だと思っていたけれど、やっと謎が解けた。
もしも、その未来からのメールがなかったら、私たちはどうなっていたんだろう。
隣には誰がいるのかな?
誰もいない?
話によると、未来の自分たちは一緒にいないらしくて――。
直接私は関わったことはないけれど、その話を聞いただけで心が痛くなる。私と悠真が一緒にいない未来。そんなの、考えられない。
届くわけないけれど、私も交流してみたいと思い、未来の私に届け!と願いながら、自分のメールアドレスに送信してみた。
『初めまして! 過去の結愛です。今あなたは、何をしていますか? 横には誰がいますか? 私は今、幸せです!』
送ったメールはそのまま自分のところに戻って来た。
「私も未来の私に送ってみたけれど、戻ってきたよ」
「でも、届いたかもよ?」
「ねっ! 届いていたら良いな!」
帰り道の車の中。
さっき、星空とアクセサリーを一緒に写した。その写真をSNSに載せようとした時、記憶がよみがえってきた。
あの景色をどこで見たのか。
載せるのを後回しにして、あるプロフィールを探す。
SNSで私をかばってくれた人、『エム』。その人のプロフィール画像は丘と一本の木、そして星空の写真!
『消えるべき人間なんていないから。彼女のことを何も知らないくせに。必要な人間だから。この投稿こそ消すべき』
このコメントを見てから、何回かその人のアカウントを覗いたけれど、その人は何にも投稿していなくて、どんな人なのか、一切分からなかった。
「もしかして、悠真?」
「えっ? 何が?」
「SNSのエムって人」
「お、バレたか。そうだよ!」
「……」
悠真はSNSでも私のことを助けてくれていた。
「悠真、私が悪口書かれた時に書いてくれたコメント、本当に救われました。ありがとう!」
「いやぁ、あの時はあれしか出来なかったから、むしろごめんな!」
「謝らないで! 本当に感謝してるんだから!」
「そっか、良かった」
「でも悠真のアカウント名、『エム』なのはなんで?」
「あぁ、俺らの名前、ローマ字にすると、Y、U、Aは同じじゃん?」
「ん? 私と悠真?」
「うん。最初は共通のアルファベットそのままにしようとしたけど、そしたら結愛じゃん? だから俺だけ名前に入ってるMにしたの」
「そうなんだ! 私のことを考えて付けた名前なんだね!」
知らないところでもいっぱい私のことを考えてくれている。それを知るたびに、とても寒いのに心はどんどん温かい気持ちになっていく。
私のおでこを悠真のおでこに当てた。
そして、笑いあった。
『しあわせ』。
最近は、色々前に進めている気がする。
まずは、SNSのこと。
キラキラなことをいっぱい載せて、誰かが元気になれたらいいなって考えた。まずは、私が撮った写真や描いた絵を載せてみることにした。
まだ少ない数だけど、『いいね』を押してくれたり、嬉しいな!って思える感想も、もらえたりするようになった。
陸くんがいっぱいキラキラ系なのをSNSにアップしていたから、彼からアドバイスをもらった。
彼は自分が良いなと思えることを、見てくれた人たちと共有したいからアップしているらしい。
「とりあえず、今思いつく、アップする時に気をつけたら良いなと思うことを書いておくね」と、ノートの切れ端で書いてくれた。
―――――――――――――――
☆家バレする写真や情報は安易に載せない方が良いかも
☆誰かが傷つく事は書かない
☆とにかくSNSは楽しく!←これ一番大事!
―――――――――――――――
って。
ありがとう、陸くん!
桃音ちゃんとの関係も、前と変わったことがある。
今考えると、ずっと、桃音ちゃんに嫌われないようにしていた。だから本音も言わずに、ただ彼女に合わせてるだけだった。
恋の騒動?があってから、かくれて悠真と付き合っていたことも、きっかけから全部、あらためて話をした。
私の気持ちもきちんと桃音ちゃんに伝えるようになった。彼女が行きたいと言っていても、私が行きたくないと思えば「嫌だ」って言えるようになったし。最初は嫌われちゃったかな?とか、気にしすぎちゃったけれど、桃音ちゃんは「OK! 結愛が嫌なら別の場所考えて、そこに行こう!」って、明るく言ってくれて、一緒に考えてくれる。
そして、悠真!
なんだか最近、私よりも大人になった気がする。小さい頃からカッコよくてモテていたけれど、最近は身長も伸びたし、更にイケメンになった。
あと、私に対しての態度が前から変わってきたなぁって感じていたけど最近は、どうしちゃったんだろうって思うほど、特にすごい。
少女漫画でよく読む“ 溺愛 ” と思わせることをよくしてくる。しかも、周りの目を気にしないでそういうのをしてくる。
すごい溺愛だったなと思う出来事がこれ。
それは学校の帰り道で起きた。
いつものように悠真と一緒に歩いていた日。雨上がりで大きな水たまりがあって。避けるの面倒だな、そんなに深くないし、入っちゃっていいかな?って考えながら水たまりに入ろうとした時、いきなり悠真に抱き上げられた。
これは、お姫様抱っこ!?
まるで王子様に抱えられているお姫様みたい!ってなって。
ものすごく驚いて「どうしたの?」って聞くと彼は「結愛の足、濡れちゃうじゃん」って答えていた。平然と答えていた彼とは逆に私は心身共に熱くなった。
そういうことされるの、嫌いじゃないけれど、周りの注目を浴びて、正直恥ずかしかった、かな?
でも実は、誰もいない時にひっそりもう一度、お姫様抱っこされたいなって気持ちもある。
悠真、なんだか王子様みたい。
みたいっていうか、私の王子様!
そんな王子様みたいな悠真に言われた。
「クリスマスイブの夜、空けといて! 帰り、遅くなりすぎないように気をつけるけど、一応家族にも言っといてね!」
って。
恋人同士で過ごすのってロマンチック!
どこで何をするのかな?
なんて、ずっと幸せな気持ちのまま、その日が来ると思っていたのに。誰かから電話が来ると彼は私から離れていき、その相手と何かコソコソと話をするようになった。そして用事のない日の放課後や休日は、いつもふたりで一緒にいたのに、一緒にいてくれない日も多くなった。
他に好きな人が出来ちゃったのかな? その人と連絡したり、一緒にいるの? とか、悪い方向に考えちゃって、心がズキンと痛くなった。
聞いてみようって何度も思ったけれど、怖くて聞けなくて。
このままクリスマスイブに、私ではなくて、その新たに悠真が好きになった人と悠真がふたりきりで過ごすことになったらどうしようとか、悪い想像ばかりしちゃう。
不安な気持ちが消えないまま、約束したクリスマスイブの日になった。
✩.*˚
クリスマスイブは、二学期の終業式の日だった。
その日、学校は早く終わった。
帰り道。
「今日、十八時、暖かい格好して、家で待ってて!」
悠真は明るく言った。
あっ、私と過ごしてくれるんだ――。
その言葉を聞いて、私はほっとした。
「うん、分かった!」
私も明るめな声で返した。
家に帰ると、まだお昼で約束の時間まで結構な時間があったけれど、ずっとソワソワした。
恋人になってから初めて一緒に過ごすイベントだし。
どこで何をするのか聞いても「内緒」って言われていて、分からないままだし。
とりあえず、夜に着ていく服を選んだ。
悠真とクリスマスイブの約束をしてからすぐに、ある程度は選んでいたけれど、オシャレな服って普段着ないし、まだ迷っている。約束は今日なのに。迷っている時にちょうどお姉ちゃんが学校から帰ってきた。お姉ちゃんの部屋に行き、相談してみた。
「お姉ちゃん、今日、何着ていこう」
家族みんなで夜ご飯を食べていた時に、クリスマスイブは悠真と過ごすってことを言ってあったから、お姉ちゃんはすぐに察してくれて「まかせて!」と言いながら、部屋のクローゼットをあさりだした。
「どう? これ」
お姉ちゃんはハンガーにかかったままの水色のパステルカラーのAラインで膝上までの長さのコートに、同色系の色にうっすらとピンクの線も入ったチェックのマフラー。そして、大人っぽい黒いワンピースを見せてくれた。
「普段着ない感じ。似合うかなぁ? 大丈夫かなぁ?」
「大丈夫! 結愛パステルカラー似合うし、水色は雪に映えるんだから! あ、でも夜だからどうだろう……。あ、あとね、普段しない大人っぽいワンピースとか着ちゃったら悠真、メロメロだよきっと!」
お姉ちゃんはノリノリで自信満々な言い方。説得力がある。
「じゃあ、これにする! ありがとうお姉ちゃん!」
「あと、クリスマスメイクさせて? キラキラアイシャドウ!」
お姉ちゃんはとても楽しそうだった。
髪の毛も普段しない、コテを使ってフワフワな髪型にしてくれて。
――悠真、可愛いって思ってくれるかな? 緊張する!
約束の時間まで、あと五時間。私はすでに準備を終えていた。
ちょうど十八時。
時間ピッタリに家のチャイムがなった。すでに十分前ぐらいにはブーツも履いて、準備万端な状態で玄関にいた。ドアの前で立ち、心の準備をして一分ぐらいたって、背筋をピンと伸ばしてからドアを開けた。
「あっ、遅くなってごめん! 今ちょうど準備出来たとこなの!」
なぜか私は、今準備出来た感を出した。
結構前に準備を終えていたのに。
ドアを開けると、悠真だと気がついてマロンがシッポを振りよろこんだ。悠真がマロンとたわむれる。
終えると悠真は言った。
「車に乗って?」
「えっ? 車?」
いきなり悠真に手をつかまれ、見たことのない白い車の後ろに押し込まれた。
運転席から後ろの席にいる私を覗き込む人、見覚えがある。
「俺の父さん、覚えてる?」
「あっ!」
そうだ! お父さんだ!
小さい時、悠真の両親は離婚して、彼のお父さんは家を出ていった。
まだ離婚していない頃、悠真と一緒に、あちこち連れて行ってくれたのを覚えている。すごく、優しかった記憶。
「お久しぶりです!」
「大きくなったね」
お父さんのメガネ越しの、私を見る瞳がとても暖かい。
「今日はね、悠真が小さい頃から結愛ちゃんに見せたいって言っていた景色の場所に行くよ!」
「小さい頃、から?」
「そう。結愛ちゃんに見せたいって目をキラキラさせて言っていたんだ。というか、悠真、毎日結愛ちゃんの話ばかりして……」
「父さん、余計なことは言わないでいいよ」
「そっか、ごめん! 今日は雲もないし、空もいい感じだし。良かったね、悠真!」
悠真は返事をせずに耳を赤くして、外の景色を眺めていた。
三人で懐かしい話をしているうちに、あっという間に目的地らしき場所に着いた。
車を停めて、三人は外に出る。
「昔行った場所って、ここの道を抜けた場所だったよね?」
悠真がお父さんに質問をする。
「そうそう。ふたりで行っておいで! 父さん、車で休んでるわ。ゆっくりしてきて良いからね」
「ありがとう、父さん!」
「ありがとうございます!」
お礼を言うと、木に囲まれた小道の中を進む。
抜けると、凄く綺麗な景色がそこにあった。
うっすらと雪が積もって、大きな木が一本だけ立っていて、とてもシンプルな丘。空には瞬きをしている星達がたくさん見える。キラキラ光を放ちながら踊っていて、すごく綺麗だった。
好き。
静かで、雪の優しい香りもほのかにして
好き。
そして、隣には悠真がいて
好き、大好き。
この今見える世界が、全部好き。
綺麗すぎて、大好きすぎて、涙が出そうになる。
ぐっとこらえる。
――でもこの景色、前に見たことがある気がする。ここに来た記憶は一度もないのに。
「悠真が小さい頃から私に見せたかったのって、ここ?」
“ 小さい頃から ”って言葉にじわじわと感動が湧き上がる。
今、この目に見える世界は、悠真が小さい頃から抱いていた気持ちを現実にした瞬間。
私にこの景色を見せるために、今日の日を計画してくれたんだ。
ウルっとしちゃう。
「悠真、ありがとう。ずっと、こんなに綺麗な景色、ずっと私に見せたいって思ってくれてたんだね!」
涙が出てきた。もう、悠真のことになると、泣き虫になっちゃう。
彼は頭をなでてくれた。
「ずっと大好きな結愛に、大好きなこの景色を見せたかったんだ! よろこんでくれたみたいで良かった!」
「ありがとう、悠真」
「あと、これ!」
小さなピンク色の花柄の袋を手渡された。
「開けて、いい?」
「うん」
開けると、キラキラした桜の、可愛い私好みのネックレスが入っていた。
「可愛い!」
「何あげれば良いのか分からなくて、ずっと悩んでて、父さんにあちこちお店連れて行ってもらってたんだ」
色々私のために準備してくれていたんだ。
だからコソコソしてたり、最近会えなかったりしていたのか。
「悠真、最近会えなかったから、疑っちゃった。他の人好きになっちゃったのかな? 会ってるのかな?って。寂しくなっちゃったの。ごめんね!」
「寂しい思いさせて、こっちこそごめん。俺は、ずっと結愛しかいないから!」
手を繋いで、一緒に星空を見上げた。
それから「こんなところで食べるの、どうなんだろう、大丈夫?」って言いながら、彼はケーキの箱を開けた。
イチゴの小さなショートケーキにサンタさんが乗っていた。
「可愛い! 寒いところで甘いの食べるの、美味しいと思う!」
私がそう言うと、彼はほっとしていた。
「いただきます!」
「俺も食べよ!」
本当に、本当にここで悠真と食べるイチゴのショートケーキは、いつもよりも甘くて美味しかった。
ケーキは大切に、ゆっくりと食べた。
食べ終わってすぐに悠真は言った。
「結愛、写真撮っていい? 星空と結愛の全体写真!」
私が答える前に悠真は離れていき、遠くから私と星空いっぱい写るような距離でスマートフォンで、写真を撮った。
「これ、未来の俺に送ってあげよっと」
「何を言っているの? 未来の悠真?」
「うん。実はね……」
悠真が、未来の悠真と一年生の冬頃からメールをしていたことを教えてくれた。
内容も全部。
「不思議すぎるね!」
「だろ? 最初、いたずらかなって疑っていたもん」
「それは、疑うよね」
私はすぐにその話を信じた。
悠真が変わってきた時期と、メールの内容の話がピッタリ重なり合ったから。
そして、私が陸くんと間違えて悠真に告白をした話。それもメールがきっかけだったんだ。ずっと不思議だと思っていたけれど、やっと謎が解けた。
もしも、その未来からのメールがなかったら、私たちはどうなっていたんだろう。
隣には誰がいるのかな?
誰もいない?
話によると、未来の自分たちは一緒にいないらしくて――。
直接私は関わったことはないけれど、その話を聞いただけで心が痛くなる。私と悠真が一緒にいない未来。そんなの、考えられない。
届くわけないけれど、私も交流してみたいと思い、未来の私に届け!と願いながら、自分のメールアドレスに送信してみた。
『初めまして! 過去の結愛です。今あなたは、何をしていますか? 横には誰がいますか? 私は今、幸せです!』
送ったメールはそのまま自分のところに戻って来た。
「私も未来の私に送ってみたけれど、戻ってきたよ」
「でも、届いたかもよ?」
「ねっ! 届いていたら良いな!」
帰り道の車の中。
さっき、星空とアクセサリーを一緒に写した。その写真をSNSに載せようとした時、記憶がよみがえってきた。
あの景色をどこで見たのか。
載せるのを後回しにして、あるプロフィールを探す。
SNSで私をかばってくれた人、『エム』。その人のプロフィール画像は丘と一本の木、そして星空の写真!
『消えるべき人間なんていないから。彼女のことを何も知らないくせに。必要な人間だから。この投稿こそ消すべき』
このコメントを見てから、何回かその人のアカウントを覗いたけれど、その人は何にも投稿していなくて、どんな人なのか、一切分からなかった。
「もしかして、悠真?」
「えっ? 何が?」
「SNSのエムって人」
「お、バレたか。そうだよ!」
「……」
悠真はSNSでも私のことを助けてくれていた。
「悠真、私が悪口書かれた時に書いてくれたコメント、本当に救われました。ありがとう!」
「いやぁ、あの時はあれしか出来なかったから、むしろごめんな!」
「謝らないで! 本当に感謝してるんだから!」
「そっか、良かった」
「でも悠真のアカウント名、『エム』なのはなんで?」
「あぁ、俺らの名前、ローマ字にすると、Y、U、Aは同じじゃん?」
「ん? 私と悠真?」
「うん。最初は共通のアルファベットそのままにしようとしたけど、そしたら結愛じゃん? だから俺だけ名前に入ってるMにしたの」
「そうなんだ! 私のことを考えて付けた名前なんだね!」
知らないところでもいっぱい私のことを考えてくれている。それを知るたびに、とても寒いのに心はどんどん温かい気持ちになっていく。
私のおでこを悠真のおでこに当てた。
そして、笑いあった。
『しあわせ』。
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地下にはいろいろなものが置いてあり、アシュリンのもとにビュンっとなにかが飛んできた。
ぶつかることはなく、おそるおそる目を開けるとそこには本がぷかぷかと浮いていた。
「ほ、本がかってにうごいてるー!」
『ああ、やっと私のご主人さまにあえた! さぁあぁ、私とともに旅立とうではありませんか!』
と、アシュリンを旅に誘う。
どういうこと? とノワールに聞くと「説明するから、家族のもとにいこうか」と彼女をリビングにつれていった。
魔法の絵本を手に入れたアシュリンは、フォーサイス家の掟で旅立つことに。
アシュリンの夢と希望の冒険が、いま始まる!
※ほのぼの~ほんわかしたファンタジーです。
※この小説は7万字完結予定の中編です。
※表紙はあさぎ かな先生にいただいたファンアートです。
にきの奇怪な間話
葉野亜依
児童書・童話
十三歳の夏休み。久しぶりに祖母の家へと訪れた少年・にきは、突然奇怪なモノ――所謂あやかしが見えるようになってしまった。
彼らの言動に突っ込みつつ、彼らの存在を受け入れつつ、それでも毎日振り回されてばかり。
小鬼や動き出す欄間、河童に喋る吐水龍、更には狐憑きの女の子も現れて……。
普通の少年と奇怪なモノたちによる、ひと夏の日常あやかし話。
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