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✩.*˚第1章 告白のふたり

☆結愛(ゆあ)

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 今日から中学二年生!

 新しい教室、新しいクラスメイト。
 どんな感じになるのかなって考えていたら、眠れなかった。

「緊張する。楽しく過ごせそうだといいな!」

 心がいっぱいソワソワした。

 ひとりごとを呟きながら、玄関のドアを開ける。
 外に出た瞬間、昨日とは全く違う、新しい風がするりと私の横を通り過ぎていく気がした。

 五分ぐらいまっすぐ歩いて、右に曲がると、幼なじみの瀬川悠真が前を歩いている。いつもの光景。

 彼は何を考えているのか、よく分からなかった。話しかけるなオーラ?みたいのが出ていて、学校では特に話しかけづらかった。

 悠真とは同じ保育園で、その時からずっと母親同士の仲が良くて、彼は片親で、彼のお母さんが仕事で遅い日は私の家で夜ご飯を一緒に食べたりもしていた。大きくなると、悠真はひとりでご飯の準備が出来るようになって、それもなくなった。

 彼の背中を眺めていると、タイミングよく後ろを振り向いてきて、目が合う。

「あっ、悠真おはよう!」
「おはよう」

 声をかけると、ぶっきらぼうな感じの低めな声で彼は返事をしてきた。いつもテンション低いけれど、朝に弱いらしく、特にこの時間はもっとテンションが低め。 

 このテンションの低さと、クールな見た目のカッコよさで、女の子たちに昔からモテている。

 たしか、小学四年生くらい?までは、並んで一緒に登校していた。けれど、私と並んで歩くのが嫌になったのか、彼は、私を置いてそそくさとひとりで登校してしまうようになっていった。

 朝、悠真の後ろを歩いていても、気がついて振り向いてくれることはなかったのに、最近は二メートルくらい?の距離まで近づくと、彼は毎回後ろを振り向いてくれるようになった。

 そして、今、振り向いた彼は突然言った。

「もっと自分の気持ちを、周りに伝えて!」

 急にそんなことを言うのが謎だった。
 強く心に引っかかる。

 ――悠真は最近、どうしたの?

 





 学校の近くになると、学校の敷地内で咲いている綺麗な桜たちが見えてくる。

 ちょうど今は満開の季節!

 この桜たちは、私が入学式の時、優しく迎えてくれて、微笑んでくれた。

 今も、ほわっとした気持ちになって、緊張が少しだけほぐれた。

 大好き桜!

 今日も、これから新しいクラスの発表にドキドキする私を見て、大丈夫だよ!って言ってくれている気がする。

 ちなみに制服もチェック柄の少しくすんだピンクのセーラーでお気に入り。

 この季節は大好きなピンク色な世界。

 玄関前が混んでいる様子だった。なぜなら、クラス発表の大きな紙が張り出されているから。

 五組まであり、わたしは端から順番に探す。

 一組……ない。
 二組……ないなぁ。
 三組……あった!

「綾野、今年も同じクラスだな。良かったわ」

 悠真は隣に来てそう呟くと、新しい場所にある靴箱を探して靴を置き、教室に向かって行った。あの辺りが三組の靴箱か。と確認したあと、再びクラス発表の紙に目をやり、彼の名前も確認する。

 あっ、本当だ! 
 悠真の名前を見つけた。

 今年も同じクラスかぁ。

 自分の口角が自然と上がるのが分かった。最近あんまり話していないけれど、同じクラスなのがなんだかほっとする。

 一年前を思い出す。

 入学式の日。その日も、同じような感じで、クラスを確認していた。悠真の名前を見つけて、悠真の方を見ると、ばっちり目が合ったのに、彼はすぐに目をそらして、何も言わずにそそくさと中に入っていった。

 やっぱり去年とは私に対しての態度が違う。今「良かった」なんて言っていたし。しかも彼、にやっとした気がした。

 普段は無表情なのに。

 いつから変わったんだろう。去年の冬ぐらいからかな? 




 教室に入る。

 席は出席番号順ですでに決められている。私、綾野結愛は番号が一番だから、廊下側で一番前の席。

 横には、男子で一番の相川陸くんがいた。一年生の時は別のクラスだったから、話しをしたことはないけれど、彼の存在は知っていた。

 すれ違うたびに目で追っちゃうほどキラキラしていたから。

 ふんわり系のイケメン。
 テレビでよく見るアイドルみたい。

 近くで見ると、全てを吸い込んでしまいそうな大きな目でくっきり二重。そして、肌が白くて綺麗。身長も高くて、多分クラスで、いや、学校で、一番カッコイイと思う。

 まつ毛も長いなぁ――。

 黒板を見ている陸くんの横顔をそっと眺めていたら、視線を感じた彼が「どうしたの?」って、こっちを見てきた。

 目が合うと微笑んでくれたから、私もつられて微笑み返した。

 もう、これだけでドキッとした。微笑んだだけで、相手をドキッとさせるの、強い!

 しかも、日直の日誌とか、黒板を消すのとか、率先してやってくれたり、ひとつひとつが優しかった。

 あぁ、彼に話しかけるの、いちいち緊張する。

 近くにいない時も、彼のことを考えるようになって、それだけで胸が高なる。

 ――ドキン!

 彼の存在が私の心臓の波を大きく、高くする。

 なんだろう、この気持ち。

 

✩.*˚


 二年生になってから、あっという間に一ヶ月が過ぎて、五月になった。

 新しい環境に慣れるので精一杯な毎日で、時間がたつのがとても早かった。

 四月の頃と比べて変わったことといえば、クラスである程度、仲良しグループというものが出来ていた。

 一年生の時に仲良かった友達とは別々のクラスになってしまったけれど、後ろの席にいる石田桃音ちゃんと、なんとなく給食を食べたり、話しているうちに仲良くなっていった。

 仲良くって言っても、まだお互いに探りあっている感じかな? 彼女はふわふわ系女子で目力のある小柄な可愛い女の子だった。髪がくせっ毛でふわっとしている、ボブヘアー。その髪型がとてもなじんで似合っている。小動物みたいな雰囲気。リスかな?

 休み時間、彼女と席で話をしていた。

 教室の窓は開いていて、青い空が見える。風に吹かれて揺れる白いカーテン。その横で友達ふたりと何かを話している悠真。

 ちらっと視線をやると、彼と目が合った。彼はすぐに視線をそらしてきた。そして何事もなかったかのように友達と話している。

 学校で話をすることがなくなって、少しずつ心の距離が開いている気がしたけれど、よく目は合う。

 悠真の態度、私は嫌われているのかもって最近思うけれども、よく目が合うってことは、そんなんじゃないのかな? 

 私を見ているわけではなくて、桃音ちゃんを見ていたのかもしれないけれど。


✩.*˚



 もうすぐ夏休み!って時だった。

 高校二年生のお姉ちゃんが、ミルク味の棒アイスを片手に、スマートフォンを眺めながら呟いた。

「結愛の学校の怖い話、書いてあるよー」

「えー、何?」

 ソファーでくつろいでいるお姉ちゃんの横に座り、スマートフォンを覗き込んだ。それは、ネットで色んな人と交流できる場所である、SNSに書いてあった。

『昨日の夜、桜岡中の前通ったら、人の泣き声したー! 怖いよー』

 その文章に、それを読んだ人がコメントを書けるようになっているみたいで『私も聞いたことがある』だとか、そんなのが三件書いてあった。

 怖い話が苦手だから、絶対夜に学校の近くを通りたくはないな。

 次の日、その話をなんとなく桃音ちゃんにした。
 
「えっ、確かめにいきたい!」

 予想外の答えがかえってきた。

 私と同じように怖がるタイプかなって思っていたのに。しかも彼女の瞳がキラキラ輝いている……。

「じゃあ、行ってみる?」

 ――はぁ、嫌だなぁ。

 言葉と裏腹に、私の心がため息をつく。
 断りたいけれど正反対のことを言っちゃった。

 正直、わたしは怖くて乗り気ではなかったけれど、彼女はとても興味津々で、やっぱり辞めようよとは言えず、その日の夜に学校へ行くことになった。

 十九時。お母さんに「帰り、おそくなりすぎないでよ」って言われたし、本当に声が聞こえてきて、しかもそれが幽霊の声だったら嫌すぎるから、校舎の近くで少し待ってみて、すぐに帰れば良いかなって思っていた。

 思っていたんだけど――。


 



 学校に着いた。校舎前で待ち合わせをしていて、私が着いた時には桃音ちゃんがすでに待っていた。

「あ、来たー!」

 門の前でしゃがんでいた彼女は立ち上がり、満面の笑みを浮かべながら大きく手を振ってきた。

 明らかに学校で過ごしている時間よりもテンションが高い。
 私はテンションが少しも上がらない。

「まだ何も聞こえないよ」

 彼女はコソコソ私に呟く。

「桃音ちゃん、いつからいたの?」

「暇だったから結構前からいたよ! 行こうか!」

 彼女は校舎の中にはいろうとしてる。

「えっ? 入るの?」
「うん」

 当たり前でしょ?みたいな顔をしてこっちを見ている。拒否することが出来なくて、しぶしぶついて行く。

 幽霊いないよね、大丈夫かな?
 大丈夫だよね! うん、大丈夫! 

 心の中で自分に言い聞かせる。

 校舎に向かっていく。桃音ちゃんに幽霊の話をしなきゃよかったなと思う。まぁ、誘われた時に、行きたくないなと言えばよかったんだけど、その言葉が言えなかった。言って、ふたりの中に気まずい空気が流れたら嫌だなぁとか、嫌われたらどうしようとか色々考えちゃって。

 今もただ流されてついていく。
 玄関前まで来た時だった。

「ねぇ、聞こえない?」

 真面目な顔の桃音ちゃんを見て怖さが増す。

「えっ? 何も」

「しーっ」

 桃音ちゃんが人差し指を口に当てる。
 ふたりは顔を見合せたままじっとした。

「ふぇー……」

 何だろう。赤ちゃんの泣き声?

「ふぇ……」

 確かに何か声が聞こえる。

「いこっ!」

 桃音ちゃんが私の手を握り走り出す。
 
「えっ、行くの? 嫌だ……」

 やっと私は本音を口に出すことが出来たけれど、彼女は一切聞いていない。

 わたしは手を引っ張られ、転びそうになりながらも何とか持ちこたえ、桃音ちゃんと共に声がする方に走った。

 声がしたのは、校舎の外で裏側の方だった。
 ぐるっと後ろにまわると、その泣き声は大きくなる。

 恐怖の気持ちが百パーセントになる。

 ――怖い。

 たどり着いた場所にいたものは、全く予想のしていないもの、いや、予想のしていない子だった。 



「い、ぬ?」

 私たちは同時に呟き、ぽかんとした。

 大きな木の下にある箱の中に、小さな子犬がいた。
 
「可愛い!」

 ここにいたのは、幽霊ではなくて、とても可愛らしい栗毛色の子犬だった。

 幽霊は嫌いだけど、犬は大好き!
 心が軽くなった。

 私は近くに寄った。
 手の匂いを嗅がせて、しばらくしてから、抱き上げてみる。

 とても軽くて、ふわっとした感触。
 癒されるー!

「可愛い!」
「可愛いね!」

 犬と出会ってから「可愛い」しか言っていない。本当に可愛いんだもん。

「誰?」

 しばらく子犬とたわむれていると、後ろから声が聞こえた。振り向くと、陸くんが犬のご飯を入れたお皿を持って立っていた。

 辺りは薄暗くなってきたけれど、彼のカッコイイは満ち溢れている。暗くても伝わる白い肌のツヤツヤ感。

「なんか、声がしたから来てみたら子犬がいて……」

「あ、ちょうど今、外に出ていたから聞こえたのかな? この子を貰ってくれる人を探しているんだ。この箱に入った状態であの物置の横に置かれていてね」

 彼が、小さな物置を指さす。

「ひとりでいたの?」

 子犬を抱き上げて、話しかけた。
 
 こんな狭い箱のなかでひとりぼっち。夜も暗闇の中でひとりぼっち。
 私だったら、寂しいし、怖い。想像しただけで震えた。

「最初は三匹いたんだ。けれど二匹は、うちの親戚のおばさんと、父さんの会社の人の所へ行った。あとはこの子だけ。うちで飼いたいんだけど家族が犬、苦手で……」

 彼はうつむいた。うつむくと、しょんぼりする犬みたい。ふわっと陸くんに、犬の耳が生えているイメージがしてきた。髪の毛も栗毛色でこの子と似ている色だし。
 陸くんがこの子のお母さんに見えてきた。陸お母さん、リクママ。

 子犬と見つめあった。

 この子が私に訴えてる。一緒にいたいって。リクママもうちの子をお願いって目をしている。

「私、この子を飼っていいかお母さんたちに聞いてみるね!」

「本当に? ありがとう」

 彼が天使のように微笑んできた。

 この笑顔、絶対に許可をもらわないとって思わせてくる。

 でも、きちんと聞けるか不安。

 今まで何度も、これ、お願いしてみようかなって気持ちになることがあっても、お願いする直前に「やっぱりやめとこう」ってなって、やめたりもした。

 どうせ断られそうだし、それなら聞くのがムダなのかなって。

 それになんか、元々人に、自分の気持ちを伝えたりするのが苦手で――。



 家に帰った。
 まだお母さんは帰ってきていない。

 断られた時のことばかり考えちゃって、正直怖い。やっぱり、聞くのやめようかなぁ。

 結局私は……。


 その時ふと、悠真の言葉を思い出した。

「もっと自分の気持ちを、周りに伝えて!」って言葉。ずっと言われてから頭の中で引っかかっていて。

 よし、頑張ろう!
 気持ちを、伝える!

 伝えたい内容を頭の中でシュミレーションする。

 玄関のドアが開く音がした。

 お母さん、仕事から帰ってきた!

 リビングに入ってきたお母さんはすぐに洗面所へ行き、手を洗ってから、キッチンへ。冷蔵庫を開け、昨日作り置きしていたハンバーグを取り出し、レンジで温めている。ちなみに私はすでに食べ終わっていた。

 いつ話そう……。

 言うタイミングが難しい。
 普段お願いごとをしないから緊張するなぁ。

 しかも、お願いするのはとても大きなこと!

 お母さんが四人用の長方形のテーブルに料理を置き、椅子に座って落ち着いた。

 よし、今だ!

「あのね、お母さん、お願いがあるんだけどね……」

 お母さんの横に座り、お母さんの方を向く。

「何?」

「あのね……」

 なかなか言えないよぉ。
 目も上手く合わせられない。

「もじもじして、どうしたの?」

「あのね」

「うん」

「お母さん、私ね、犬を飼いたいの!」

 目を合わせてはっきりと気持ちを伝えた。

「えっ、犬?」 

 お母さんの目が見開く。

 それから、今日の出来事を詳しく話した。

 お母さんの動きが止まり、箸を置くと、こっちを見つめてきた。
 
「面倒みれるの?」
「うん、大丈夫!」
「きちんと、ご飯やお散歩、一緒に遊んだりも出来るの?」
「うん。出来る」
「犬は物じゃないんだよ! きちんと人間と同じように、悲しい心や嬉しい心を持っているんだよ? 大切なひとつの命だよ? 」
「うん、分かる」
「面倒くさくなったから、ほっておくとかしない?」 
「絶対にしない! だからお願いします!」

 しばらく無言が続く。
 お母さんはどうしようか考えているみたい。

「私の意見は、飼ってもいい、かな? 結愛なら、大切にしそうだね!」

 お母さんは優しい笑みをくれた。

 その言葉を聞いて、その表情を見て、私の心はフワッと綿毛みたいに軽くなった。



「お父さん、すぐにいいよって言いそう」
 お姉ちゃんが言った。
「もしも、ダメって言われたら、お姉ちゃん、一緒にお願いしてくれる?」
「もちろんだよ! わんちゃん、家に来てほしいもん」

 お姉ちゃんが、心強い言葉をくれた。

 お母さんよりもお父さんの反応の方がドキドキするかも。普段あんまり話さないから、良く分からない。

「結愛が私にお願いしてくるの珍しいよね、どんな子なの?」

「友達は、ミニチュアダックスフンドって言っていたなぁ。めちゃくちゃ可愛いの!」

「えっ? 可愛い子じゃん。ほら、この子だよ!」

 お姉ちゃんがスマートフォンで調べてくれて、検索した画像を見せてくれた。

 お母さんと私はそれを覗き込む。

「そうそう、この子! 色もこんな感じ」

 さっき見た子が大人になっている姿の写真。栗毛色で、手足が短くて、胴長で小さい。大きな耳がほわんと垂れていて、目もキラキラしていて。大人になってもめちゃくちゃ可愛い!

 あの子はこんな風になるのかぁ。



 二十二時にお父さんが帰ってきた。

 お母さんが早速説明をしてくれた。
 
「お父さん、お願いします!」
「お父さん、お願い!」

 手を合わせてお願いをする。
 お姉ちゃんも一緒にしてくれた。

「あぁ、父さんも昔、犬飼ってたなぁ。いいぞ! きちんと面倒見るんだぞ!」

 意外とあっさり許可を得た。
 うちで飼えることになった!

 大好きな桜の花びらがぶわっと心の中で一気に広がっていくイメージがした。

 お姉ちゃんと目を合わせてウインクし合った。

 新学期の日の朝に悠真が言ってくれた言葉、いきなりすぎて不思議だったけれど、今、こうして私の背中を押してくれた。

 この言葉をもっと大切にしようと思い、心の中に刻み込んだ。


✩.*˚

 次の日、朝起きていつもよりも早く学校へ行く準備をして、子犬のいる場所まで胸を弾ませながら全力で走った。

 昨日いた場所にはいなかった。
 どこにいるんだろう……。

 辺りを探していると、陸くんが来た。

「おはよう!」

「おはよう! ねぇ、あの子犬はどこにいるの?」
「こっちだよ!」

 物置の扉が数センチ空いていた。そっと覗くと、子犬が眠っている。

「校長先生にお願いをして、飼い主が見つかるまで、この中で過ごさせてもらうことにしてたんだ」

 彼女の姿を見てほっとした。
 彼女、そう、この子犬は女の子!

 あぁ、早く、陸くんに伝えなくちゃ!

「あのね、うちで飼っても良いって!」
「本当に? 大丈夫なの?」
「うん」

 陸くんは目をキラキラさせた。
 その表情を見て私は自然に笑みが溢れる。

「はぁー、良かった! もしも見つからなかったら保健所とかに連れられて……」

 陸くんは最悪な状況を想像して、頭を抱える。

「良かった! 良かった!」

 それから彼は空を見上げた。

「とりあえず、校長先生に報告してくるね!」

 陸くんは走った。彼の後ろ姿を見送ると、眠っている子犬を見つめた。

 この子が幽霊だと思われていたのか。
 こんなにも可愛いのに。

 噂って別物に変身して、怖いなぁ。




「あ、そろそろ朝の会が始まる時間だね! 行こうか」
 
 校長先生に子犬を飼える人が見つかったことを報告してから再びここに戻ってきた陸くんと一緒に教室へ向かう。

 席につき、後ろに座っている桃音ちゃんにも一緒に暮らせることになったよって伝えた。

「良かったね!」

 陸くんと桃音ちゃんと私の三人で、子犬の名前をどうしようか?とか、色々盛り上がる。

 ふと視線を感じる。悠真が自分の席でほおずえをついて、面白くなさそうな顔してこっちを見ている。
目が合うと彼は勢いよく目をそらした。

 本当に最近、悠真は目をそらしてくる。なんか嫌われている?

 放課後、帰りの会が終わると、すぐに子犬の場所へ向かった。

 桃音ちゃんと私は美術部で、今日は部活のある日だったけれども、あの子と一分でも多く一緒にいたくて、私は休んだ。桃音ちゃんは部活へ。

 陸くんも部活があるから「連れて帰ってていいよ」って言ってくれたけれど、なんとなく終わるまで待っていることにした。ちなみに陸くんはサッカー部で、運動神経が良くて、サッカーがとても上手!

「まだいたの?」

 夕陽色に辺りが染まった頃、子犬が眠っている姿を見ていると、私もうとうとしてきた。一緒に目を閉じていたら、陸くんの声がして、びくっとした。

「あっ、うん。陸くんとこの子、お別れのあいさつしてないなって思って待ってたの」

「えっ、僕のため? ありがとね。お別れって、なんか寂しいなぁ。ねえ、これからもこの子に会いたいなぁ。結愛ちゃんの家、この子に会いたくなったら遊びに行ってもいい?」

「あっ、うん。えっ?」

 少したって言葉の意味を理解した。

 ――ん? 陸くんが家に? 

 心があたふたした。










 陸くんが私の家に遊びに来るのはもっと先のことだと思っていたのに。

「名前を一緒に決めよう!」ってことになって、なんと、その日に来ることになった。

 ふたりっきりの帰り道。無言。

 ――どうしよう。

 何か話さないとなぁとか思うんだけど、喉に言葉が詰まって何も出てこない。本当にドキドキした。でも陸くんが無言を破ってくれた。

「この子の名前、何にする?」って。

 一方的に気まずいなって感じていたのかもしれないけれど、その空気は一瞬で消えた。

「どうしようね……」
「結愛ちゃん、可愛い名前決めるの得意そう」
「可愛い、名前。うーん」

 その時、後ろから走ってくる足音が聞こえた。
 同時にふたりで後ろを向く。

「あ、悠真だ!」

 陸くんが悠真に手を振る。

「あぁ、陸。なんで結愛と一緒にいるんだ?」

 えっ? 結愛って言った? 

 いつからか、悠真は私のことを綾野って苗字で呼ぶようになっていたのに。

 なんで今、名前なの? 

 しかもなんか、悠真はいつもよりも低い声で、少しムッとした表情をしている。

「あ、今からこの子の名前を一緒に決めようと思って」

 陸くんは、抱っこしていた子犬をなでながら言った。

「俺も一緒に、名前決めるわ」

 悠真が言った。

 えっ? 完全に予想外の言葉。

 最近は一緒にやろうなんて言ってくることは一切なかったから、正直驚いた。 

 ふと悠真に視線を向けると、目が合った。
 やっぱり彼は視線をすぐにそらしてきた。

 続けてわたしは陸くんを見た。陸くんとも目が合い、彼は微笑みながら頷いた。

 家のドアの鍵を開け、家に上がってもらった。
 テーブルの上には、お母さんからの手紙が置いてあった。

『わんちゃんに必要なもので、すぐ使うもの買っておいで。とりあえず、ご飯と食器、あとトイレシートかなぁ? あとは一緒に休みの日買いに行こうね』

 陸くんと、悠真、私の三人で家の近くのホームセンターへ行くことになった。

 陸くんがカゴを持ってくれた。
 ペットコーナーへ。

 種類が沢山あって迷ったけれど、陸くんが調べて買っていた、子犬用のフードと同じ物を手に取ってみた。

 これにしようかな?

 続けてトイレのシートも。

 なんかトイレの練習とか大変そう。お父さんに教えてもらいながら頑張ろっと!



 買い物が終わり、二階にある私の部屋の前に来た。

 あ、どうしよう……。
 部屋が汚いかも!

「ちょっと待ってて?」

 ふたりを部屋の前で待たせて、わたしは急いで部屋を片付ける。

 床に置いてある本を本棚に戻して、あとは……。服やバックをクローゼットに押し込み、机の上にある筆記用具やらをまとめて引き出しの中に入れた。

 とりあえず、これでいいかな?

「どうぞ!」

 ふたりは部屋を隅々眺めながら床に座った。陸くんはもちろん、悠真も部屋に入れるのは初めてかも。この子もね!

 子犬はあちこち匂いを嗅ぎ、落ち着きない。

「今日から君のうちだよ!」

 可愛すぎてニヤニヤが止まらない。
 ひとつひとつの動きがキュンってなって、すでに愛おしい。

「この子、喉乾いてるかもね。お水貰っていい?」

 陸くんが立ち上がる。

「あっ、私が持ってくるよ!」

 そんな会話をしている時だった。

「あっ、マロン!」

 無言だった悠真が子犬の方を向き、突然叫んだ。

 床に置いてあるクッションの上でおしっこをしていた。

「わぁ!」

 私も叫んだ。
 
「タオルも持ってこなくっちゃ! あっ、クッション下に持っていって、丸ごと洗えばいいか!」

 部屋を出て、階段を下りる時、さっき悠真が叫んだ時の言葉を思い出す。

 ――ん? 悠真、今、マロンって叫んだ?

 マロン! あの子、マロンって名前似合うかも。悠真がその名前を叫んだのは少し不思議だったけれども、これだ!ってなり、ずっと悩んでいたからほっとした。

 部屋に戻ると早速呼んでみた。

「マロン、おいで! お水だよ!」

 マロンはひょこひょこ近くに寄ってきて、お水を沢山飲んだ。

「マロンちゃんか、可愛い名前だね」

 陸くんが呟く。

「……おぉ、マロンか、いいな!」

 悠真も名前をほめてたけど。その名前、一番最初に言ったの、悠真だよ?



「また会いに来るね!」

 陸くんがマロンに話しかけ、ぎゅっと抱きしめ、それから頭を優しくなでながらそう言った。

 悠真はポケットに手を入れながらマロンを見つめていた。

 やっぱり陸くんとマロン、似てる。

 見た目だけじゃなくって、仕草、人懐っこいところとかも。

 悠真は……猫かな? いつも心がどこを向いているのか分からなくて、自由な感じ。猫の種類はよく分からないけれど、黒っぽくてシュッとしたやつ。目も猫に似てる。

 想像はふくらむ。頭の中で犬の耳をつけた陸くんと猫の耳をつけた悠真がならんでいる。陸くんは笑顔をふりまき、悠真はそっぽ向いている。このふたり、正反対かも。

「結愛ちゃん?」

 想像の世界にいた私に陸くんが声をかけてきて、私は現実に戻ってきた。

「あっ、また明日ね!」
「ばいばい! 結愛ちゃん、マロンちゃん!」
「結愛、明日な!」

 私とマロンは、ふたりの背中を見送った。

「さて、中に入ろっか!」
 



 学校の休み時間。

 いつものように、陸くんと桃音ちゃんと私の三人で話をしている。

「そういえば、私たちがマロンを見つけたきっかけって、結愛がお姉ちゃんのスマートフォンで、ここの学校で幽霊の声が聞こえるってSNSで誰かが呟いていたのを見たからだよね」

「そうそう、それから夜、学校に行ってみようってなって。もうマロンちゃんたちは学校にいなくって、声が聞こえなくなったと思うんだけど、そのSNSの呟き、今、どうなっているのかなぁ?」

「放課後、僕のスマホで見てみよっか?」

 私はスマートフォンを持っていない。

 陸くんたちは持っているけれど、学校に持ってきている生徒は、朝、先生に預けて、放課後返してもらうスタイルだったから手元にはなかった。



「俺のでSNS見れるけど。これか?」

 珍しく悠真が会話に入ってきて、スマートフォンのSNSを見せてくれた。

 会話、聞いてたの?
 ってか、なんで先生に預けてないの?

なんて思いながらも覗き込む。四人でひとつの画面を覗いている。

『桜岡中学校 幽霊』二つのワードが入力してあり、言葉がいくつか並んでいる。

 なんか、学校の悪口とかも書いてある。 
ちょっと嫌だなぁって思った。

 悠真が下から上に指を動かすと、画面が動く。スクロールってやつ。

 一番下にたどり着く。

「この噂の始まりはこれか」

 陸くんが呟く。

『昨日夜、桜岡中の前通ったら、人の泣き声したー! 怖いよー』

「そうそう、これ! お姉ちゃんに見せてもらったやつだ」

「誰が書いたんだろうね」

 私が呟くと、悠真がアニメの顔が描いてある部分を指で押した。

「これ、その人のプロフィール」

 陸くんが言う。

「『桜岡中2年 陸くん推し☆』って書いてあるよ」

 桃音ちゃんは読みながら私をちらっと見る。

 桃音ちゃんには、陸くんと目が合うとドキドキしちゃうって話とかをしていたから、彼女は他のふたりにばれないように「結愛?」って口をパクパクさせながら、スマートフォンの画面と私を交互に指さす。 

 でも私、SNSやっていないから。

 静かにぶんぶんと首を振り、私じゃないよアピールを一生懸命にした。

「いや、結愛って思ってないから、冗談だよ!」

 桃音ちゃんが笑いながら呟くと、陸くんと悠真が「ん?」って表情をして私たちを見た。

 私たちも、何でもないよって感じで「ん?」って表情を返す。

「陸……僕、のことじゃないよねきっと。芸能人の陸さんかな?」

 陸くんが眉間にシワを寄せる。

 陸くんかも知れないな。だって、こんなにカッコイイんだもん。

 
✩.*˚


 マロンがきっかけで、陸くんと更に仲良くなった。

「マロン、ありがとう!」

 陸くんと一緒にいられる時間が増えたからのありがとう! 
 そしていつも遊んでくれてのありがとう!


 そして、最近、ずっと欲しかったスマートフォンを手に入れた。

 相変わらず、朝、学校に行く時に悠真が前を歩いているんだけど、最近は、私が後ろにいるのに気がつくと、止まって私を待ってくれるようになった。そして歩く速さも合わせてくれるように。

 だから朝、一緒に登校するようになり、話すようにもなった。

 歩きながら、突然彼は言った。

「結愛も、スマホを買ってもらって、SNS、始めてみれば?」
「私がスマホ? でも、お金、親が払うことになるし……ダメって言われそう」
「聞くだけならタダでしょ。それに今、すごく安いプランもあるし。俺のスマホ、タダで手に入ったし、月額もかなり安いよ」

 うちは高校生になって、バイトをして、自分で稼いだお金でスマートフォンを買うスタイルだった。

 本当は友達といつでも連絡を取り合いたいし、SNSだってしたいけど、しょうがないなって。

 その悠真の一言から色々考えた私は、とりあえず聞いてみようかなって考えた。

 お母さんとお父さんに聞いてみて、安いんだよって話もしたら、意外にもすぐにOKしてくれた。

「出世払いね!」って。

 その言葉は冗談かもしれないけど

「します!」

って、はりきって返事をした。

 


 そして、ついに手に入れた。

 もちろん私の大好きなピンク色!

 ケースも沢山あって迷ったけれど、ピンク色で桜の模様がキラキラしている手帳型ケースにしてみた。

 内ポケットがついていたから、大好きなマロンの写真を入れた。

 それから、SNSのアカウントを作ってみようと思った。

 夜、お姉ちゃんの部屋で、やり方を教えてもらう。

「えっ? いきなりメールアドレスとパスワード入力してってなったんだけど」

「どれどれ」

 お姉ちゃんが私のスマホを覗きこむ。

「ログインボタン押したでしょ? まずは、新規登録するの。これこれ」

 お姉ちゃんが指さしたボタンを押した。

「まずは、メールアドレスか。次にパスワード……。マロンと出会った日にしとこう」

「出来た?」

「うん」

「これ、保存したら良いよ。これでパスワード何回も入れなくても、ワンクリックしたらすぐに自分のアカウントに入れるよ!」

「プロフィール……」

 名前や写真。ひとこと自己紹介が書けるようになっている。

「写真、マロンが良いな」

「マロンの写真をスマホで撮って、それからスマホアプリで可愛く加工したら良いよ!」

 やり方を教わりながら、マロンの写真を何回も撮り直し、今教えてもらってダウンロードしてみたアプリで早速可愛く加工してみた。

 何これ? 楽しい!

 マロンがピンクのお花に囲まれてキラキラしている画像が出来た。

 アカウントの名前は『マロちゃん』

 一言自己紹介、どうしよう。とりあえず『よろしくね!』でいいかな?

 



 SNSは、好きな言葉を入力して、探すボタンを押すと、その好きな言葉を使っている人たちの文章が出てくる。

 それが嬉しかった。

 好きな漫画とか、映画とか。マロンと同じ“ ミニチュアダックスフンド ” を検索すると、可愛い写真も沢山出てきて、癒された。

 良いことも沢山だけど、悪口も多かった。芸能人が書いた文章に対して、沢山の人達がいじめみたいに攻撃したりもしていた。

 それを見て私は少し怖くなった。

 そういえば、うちの学校については何か書いてあるのかな? こないだ『桜岡中学校 幽霊』を調べては見たけれども。

『桜岡中学校』

 予想していた以上に出てきた。

 ずっとスクロールして見ていくと、私はある言葉を見つけて、ドキッとして手を止めた。

『桜岡中学校の2年、綾野、消えて欲しい』

 えっ? 私の事? スマートフォンを持っていた手が震えた。動けなくなった。心臓の鼓動が早くなる。

 まさか、自分のことがこんな風に書いてあるとは思わなくて、とにかく怖くなった。

 でも、誰が?

 プロフィールの画像を、震えながらクリックした。

 ――あっ、この人。


 うちの中学から幽霊の声が聞こえたって書いて、陸くん推しって自己紹介に載せていた人だった。

 そんなことを書く理由はすぐに予想出来た。

 それは、私が陸くんと仲が良いから。

 自分のことが書かれていてショックを受け、一回閉じた。

 ――はぁ、見なければ良かった。
 心がズキンと痛む。

ってか陸くんと仲良くならなければこんなこと書かれないですんだのに。そもそも桃音ちゃんが幽霊の声の場所に行きたいなんて言わずにマロンと出会わなければこんなことには……。

 今まで考えたことのない悪い考えが一気に頭の中をぐるぐるしだして、それから逃れるために全部周りのせいにしちゃって――。

 闇に落ちちゃいそうな気持ちになっちゃった。

 何も知らずに、マロンは変わらずに甘えてくる。

 


「マロン、ごめんね!」

 ちょっと時間がたって、無邪気に甘えてくるマロンを抱きしめると、少し気持ちが落ちついてきた。

 出会わなければ良かったなんて思って、本当に、本当にごめんなさい!

 一緒にいない人生なんて、もう考えられないよ!
 マロンと出会えて、私はとっても幸せだよ!!

 色んな気持ちが溢れてくる。
 目頭が熱くなってきた。

 優しく、でも強く、私はマロンをずっと抱きしめた。

 ごめんね!って心の中で何回も謝りながら。

「マロン、私、明日から学校行きたくないよぉ。どうしよう」

 マロンがぺろっと私の頬をなめる。
 くすぐったい。

 もしかして、はげましてくれているのかな?



✩.*˚
 

 次の日、行きたくはなかったけれど、学校に行った。

「今日、元気がないね、結愛ちゃん。どうしたの?」

 隣の席の陸くんが私のことを気にしてくれて、質問してきた。

 言いずらいなぁ。

 陸くんのことを好きっぽい人が、陸くんと仲良いからって私の悪口をSNSに書いているなんて。

「ううん。何でもないよ!」

 この日は一日、大好きなこの制服さえ色がなく、世界が無彩色に見えた。

 陸くんと話すのも、誰なのか分からない悪口を書いた人に監視されている気がして話をしずらくて、休み時間も避けちゃった。陸くんに対して不自然で、ぎこちない言動をしちゃったと思う。

 そんな感じで過ごして、三日たった。

「ちょっと来て!」

 放課後、陸くんに呼ばれた。

 彼の表情は怒っていた。

 彼はいつもは優しく、ゆっくり歩くのに、今は歩くのがとても速くて、背中を追うので精一杯。

 途中、彼は振り向き、足を止めると、私の手を強くつかみ、誰もいない、屋上に繋がる階段前に連れてこられた。

 つかんでくる力が強くて、怖いはずなのに、彼だから物凄くドキドキした。


ずっと見つめてくる。彼の綺麗な茶色い瞳が揺れていた。

「手、ちょっと痛いかも」

 私は言った。

 彼の表情が急に変わる。
 まるで寂しい犬のような表情になった。
 彼が込めていた手の力も、同時に優しくなる。

「ごめんね、痛かったよね?」

「……」

「どうして避けるの?」

「……」

「言えないこと?」

「……」

「僕のこと、嫌いになった?」

 陸くんから「クゥーン」と、犬の悲しい時の声が聞こえてきそう。

 私は思い切り首を振る。

「嫌いになることなんてないよ!」

 思わず「好きだもん」って続けて言いたくなった。けれども、目が合うと恥ずかしすぎて、その言葉はお腹辺りにひっこんじゃう。

「良かった! 僕、なんか結愛ちゃんに嫌なことしちゃったのかなって思って」

 私は詳しく話した。彼は私を抱きしめてきた。

 ――えっ????

 私はいきなりすぎて混乱した。ドキドキしすぎて顔が熱くなり、体全体も熱くなる。頭がクラクラしてきた。

「結愛!」

 その時、後ろから人が走ってくる音がした。私は自ら陸くんから離れようとしたけれども、それよりも早いタイミングで、勢いよく私は悠真に腕を掴まれ、陸くんから引き離された。 



 どうして悠真は怒っているの? 

 しかも、陸くんをにらみつけている。陸くんは呆気にとられた表情をしていた。

 誰も話をせずに、なんだか気まずいまま三人で下校した。陸くんと別れ、悠真とふたりきりになる。

「悠真、どうしたの?」

「ってか……」

 悠真はなにか言いたそうにしていたけれど、彼は唇をぎゅっと噛みしめると、言葉を止めた。

「何?」

「別に……」

 遠くを見つめる彼を私は見つめていた。
 
 気まずい雰囲気。
 空気を変えたくて、私は言った。

「SNSって怖いよね」

「ん? 何かあったの?」

「あのね……ううん、なんでもない」

 言おうか迷ったけど、辞めた。

「じゃあ、また明日」
「おぅ」

 悠真はどうしたのだろう?
 私はどうすればよいのだろう。

 モヤモヤする。
 自然とため息がこぼれた。


✩.*˚


 次の日も、すごくゆううつで、家を出たら、このまま誰も知り合いのいないところへ行きたくなった。

 でも休めない。

 仕方なく学校に向かおうかと家を出ると、悠真が家の前にいた。

「なんで待ってるの?」

「別に」

「どうしたの? いきなり」

「いや、特に何もないけど」

 彼はあっちを向きながら自分の前髪を手でくしゃっとさせてから、こっちを見ていった。

「守るからな!」

「はっ? えっ?」

「とりあえず、一緒に学校に行くぞ」

「う、うん」

 また急に突然よく分からないことを言う。
 歩く速さを私に合わせてくれている悠真の横を歩いた。



 

 その日の夜、私は何となく、自分の悪口を書いた人のアカウントを覗いてみた。

 私の悪口が書いてある文章。
 その文章のコメント欄に何か書いてある。

 誰か書き込みしたのかな?

 なんて書いてあるのか?
 
 更に誰かが悪口に便乗していたりしたら嫌だなぁって、怖かったけれど気になったから覗いてみた。

 ――えっ?

 名前は『エム』

 プロフィールの画像はうっすらと雪の積もった丘の上に一本の木があり、夜空に星が沢山浮かんでいる写真。

 コメントには、こんなことが書いてあった。

『消えるべき人間なんていないから。彼女のことを何も知らないくせに。必要な人だから。この投稿こそ消すべき』

 悪口が書かれてから、私はこの世界から消えてしまえばいいのかな。なんて悪い方向に考えてしまったりもした。

 誰か分からない人に傷つけられて
 誰か分からない人に救われた。

 SNSって不思議な世界――。

 私はそのコメントにこっそり、イイネをつけた。




 それから二日たった日、朝から陸くんがクラスで目立つ女の子たちと教室で何か言い合いをしていた。陸くんがふんわり何かを話して、相手の女の子が何か強く言っている感じ。

 席に着き、どうしたのか気になったけれど、聞けないでいたら陸くんがそっと手紙をくれた。

『結愛ちゃん、ごめんね。SNSで結愛ちゃんのことが書かれているのをみたんだ。それで最近暗かったのかな? 犯人突き止めて、消すように言っといたから。もしもそれが原因だったなら、僕のせいで、辛い思いさせてごめん』

 手紙の返事をする。

『こっちこそ、なんか色々ごめんなさい』

 ――もしかして、SNSで私をかばってくれたのって、陸くんかな?

 あのかばってくれたコメントに、私がイイネをしたから、私がその悪口を見ていたってことに気がついたのかな?

プロフィールの写真、マロンだし、陸くんはマロンのこと知っているし。

 横目でちらっと見ると、陸くんがキラキラとして見えた。陸くんがこっちを見る。目が合っただけでドキドキした。

 陸くんは元々カッコよくて、優しくて。
 ただでさえ人を引き寄せる魅力があるのに、どんどん他の魅力も知っちゃうと、心がどんどん吸い込まれちゃう。 




 家に帰ると、SNSを覗いた。

『友達申請が一件あります』

 クリックしてみると、陸くんの顔写真のプロフィールで『RIKU』って名前が書いてある。

 陸くんだ!

 ネットでも繋がっていられるなんて。
 すごく嬉しい!

『こっちでもよろしくね!』ってメッセージが来ていたから、私も『こちらこそよろしくお願いします!』って返した。

 どんなことを書いているのかな?って気になって、覗いて見た。

 スマートフォンの画面をスクロールさせて、過去彼が書いていた文章を見てみた。

 わぁ! マロンの小さい頃の写真! 兄弟らしき子犬たちも一緒に写ってる。

 マロンを抱き上げ、兄弟が写っている画像を見せてみた。

「ワン!」

 マロンが画面を見ながら元気に吠える。

 ――マロンは何を考えたのかな?

 続けて画面をスクロールしていくと、陸くんのカッコイイ姿がいっぱい写ってる!
 
 てか、フォロワー数がすごい!
 一万超えている!


 眠る前にひとつの疑問が。

 あのアカウントが陸くんって事は、私を救ってくれたアカウントは別の人? 私の知らない人かなぁ。

 どんな人なのか、気になった。

✩.*˚

 次の日学校で、成長したマロンの話をしていたら陸くんが「会いたい」って言ってきて、学校が終わった後、私の家に来ることになった。

 メンバーは陸くんと悠真、そして桃音ちゃんも!

 みんな一回家に戻り、着替えたりして家に来る事に。

 まず桃音ちゃんがやってきた。

「あれ? まだ誰も来てないの?」
「うん、来てないよ!」
「なんか飲む?」

 そう言いながら冷蔵庫を開けると、飲み物が何もなかった。桃音ちゃんは「お水で良いよ!」って言ってくれたけれど……。なんだか炭酸が飲みたい気分で「買ってこようっかな?」って呟いたら、桃音ちゃんが「悠真くんとふたりで買いに行きたい!」って言った。

 桃音ちゃん、実は中学一年生の頃から悠真が好きだったみたい。

「じゃあ、私がふたりに買い物お願いする感じだね!」
「わーい! よろしくね!」

 そうなると、今、家に家族はいないし、私は陸くんとふたりきりになる。

 ドキドキする。

 陸くんが家に来る時は、毎回悠真もいたから部屋でふたりきりになることはなかったから初めてで。

 ふたりきりの時、気まずい雰囲気にならないかなとか考えているうちに、悠真が来た。

 桃音ちゃんが私に目で合図をしてきた。

「ねぇ、悠真、炭酸が飲みたくて、桃音ちゃんと買いに行ってきて欲しいの。私、陸くん待たないと行けないから。これ、お金。お菓子も何かお願いします!」

 何かあった時に使えるようにって、家に置いてくれているお金をふたりに渡した。

 悠真は一瞬、真顔でこっちを見つめてきたけれど「うん、分かった」とうなずくと、桃音ちゃんと飲み物を買いに行った。



 ふたりが買い物に行った後、すぐに陸くんが来た。

 お店まで五分ぐらいかかるから、往復と買い物をする時間を合わせてもまだふたりは帰ってこない。

「今ね、悠真と桃音ちゃん、飲み物を買いに行ったの。私、炭酸飲みたくなっちゃって」

「あ、そうなんだ」

 何を話そうか迷っていると、マロンが飛び出してきて、陸くんの足元に来て遊びたそうにしていた。

「前見た時よりも大きくなってる!」

「ねっ! 成長早いよね!」

 陸くんは微笑みながらマロンを両手で持ち上げた。
 ずっと彼女に話しかけている。

 マロンを見つめている陸くんの横顔。
 まつ毛が長くて、二重な目元が綺麗。全体が整っていて、やっぱりかっこいい。

 かっこいいし、優しい。

 ――好き。

 でも彼はモテるし、私みたいな子供っぽい人を相手にしない気がする。

「はぁ……」

 私は静かにため息をついた。
 
「どうしたの? 大丈夫?」

 ほら、優しい。彼に聞こえないようについたため息も、些細なことも反応してくれて、こうやって声をかけてくれる。

 ダメ元で今、勢いで告白してみようかな?

 一瞬そう思ったけれど、目が合っただけで、絶対無理って思っちゃった。

 でも、もしも、目を合わせなかったら、もしかして告白出来たりするのかな?



 マロンのおかげで、ふたりきりでも気まずい雰囲気にならずにいられた。

 悠真と桃音ちゃんが帰ってきた。桃音ちゃんは鼻歌を歌っていた。悠真とふたりきりで買い物が出来て、満足そう。

 桃音ちゃんが「ただいま!」と言うと、私は「おかえり!」と返した。

 なんかこのやりとり、家族みたい。みんなと暮らせたら楽しいだろうな。毎日陸くんに緊張してしまいそうで、耐えられるかが不安だけど。

「なんか、みんなでここに暮らしているみたいだね!」

 私が思っていることを陸くんが言葉にした。

 同じことを考えてる!

「私もね、今、同じことを考えてたの!」

 私は陸くんの方を向き、嬉しくて思いっきり笑った。

「気が合うね!」

 陸くんがそう言いながら私の頭をなでてきた。私はいきなりなでられてビクッとした。

「あっ、ごめん! なんかマロンちゃんみたいに可愛いなって思っちゃって」

 突然そんなこと……。顔が熱くなり、多分今、赤い顔をしていると思う。

 私は、バレないように下を向いた。

 あぁ、どうしよう。

 しばらく動揺していると、ドアの大きな音がバタンとして、我に返った。

 悠真が外に出ていった。

 どうしたのかな?って思ったけれど、しばらくしたらちょっと元気のない表情をして戻ってきた。



「悠真くん、大丈夫?」

 桃音ちゃんが悠真に声をかける。

「うん。大丈夫」

 無表情で彼は答えた。具合悪いのかな? いつもと違ったけれど、大丈夫って言っていたし、気にはなったけど、そっとしておいた。

 学校の話をした後、桃音ちゃんが恋の話を始めた。

「悠真くん達は、好きな人いるの?」

 わっ! 桃音ちゃん、積極的!
 私は絶対そんなの、陸くんに聞けないなぁ。

「僕は……好きな人はい…。あぁ、彼女が欲しいな」
 
 始めに陸くんが答えた。
 ん? 今、質問の答えなんか、はぐらかした?
 彼女は欲しいんだ?

 あぁ、はぐらかした部分、すごく気になる!

 陸くんを見つめていたら、陸くんもこっちを見てきてばっちり目が合ったから、慌てて目をそらした。

「悠真くんは?」

「いるよ! 好きな人」

 悠真と恋の話をしたことはなかった。

 好きな人、いるんだ……。はっきりと答えたなぁ。誰なんだろう。同じ学年の子かな?

「えー、誰?」
「え、答えたくない」

 桃音ちゃんの質問を冷たく断る悠真。
 これ以上この話を出来ない空気になった。

 話題を変えて、SNSの悪口の話になる。

 自分のアカウントを開いて『桜岡中学校』を入力して、検索ボタンを押す。

 先生の悪口とか、学校が古臭くて嫌だとか、色々書いてある。

「なんか、学校の良いところ、書いてみようかな?」

 私は、春の桜が綺麗って書いてみようかなって、一瞬考えたけれどやめた。プロフィールはマロンだし、正体がバレることはないけれど、なんか私のアカウントが学校の生徒だってバレるの、怖い。

「私の悪口書かれた時、かばってくれた人、結局誰だったのかなぁ」

「あぁ、あれね! 知らない人じゃない?」

 桃音ちゃんが言った。

「きっとそうだよね。本当にあの時、見知らぬ人に私の心を救って貰ったんだもん。私もあんな風に、SNSのヒーローになりたいな」

「SNSのヒーロー! なんかいいねそれ!」

 陸くんが言った。


✩.*˚


 日がたつごとに、陸くんへの想いが強くなってくる。

 夏休みまで、あと一週間。

 はぁ、長い休みに入れば、陸くんと会えなくなっちゃうんだ。

 急に寂しくなった。

 最近は、たまぁに部活がない日とか、学校終わったら家にちょっとだけ集まる程度だし。

 寂しいなって話を桃音ちゃんにしたら

「付き合えばもっと会えるんじゃない?」
って。

 考えてみた。

 そうだよね。休みの日、朝からマロンと散歩をする時に待ち合わせて、一緒に歩いたり。

 こういうのもデートなのかな? 
 うん。想像したらデートっぽい。

 想像するだけで胸がときめいてきた。
 でもこっちから告白なんて出来ないし。

 もう告白する瞬間、彼と見つめ合うだけでもうダメ! 

 目が合うのがダメってことは、やっぱり目が合わなければ告白出来るのかも!って、前も同じこと考えたことあるな……。

 ――そういえば!
 
 毎月買っている少女漫画の学園恋愛ドラマの、あるワンシーンを思い出した。

“ 保健室のベッドで眠っている具合の悪いヒロインを心配しに来る男の子。

 チラッと彼女が気持ちよさそうに眠る姿を確認して、大丈夫そうだなとほっとして、彼はカーテンを閉める。彼はそのままその場で立っていて、急に眠っているから聞かれることはないだろうと油断して、カーテン越しに「好きだ」と呟く。それを眠ったフリをしていたヒロインが実は聞いていた!”

ってシーン。

 これだ! やっぱり顔を見なければ良いのかも! 
もしかしたら、想いを伝えられるかもしれない! 

 私は、この漫画を参考にしながらどうしようか考えた。



 まずは告白場所を決めないとなぁ。
 告白場所はやっぱり、学校が良いかな?

 学校のグラウンドとか、外?

 うーん。パッと見て、カーテンみたいな場所が見当たらないし。

 学校の中? 

 漫画と同じで、保健室? この学校は具合悪くない時、保健室入りずらいし、仮病を使ってもふたりでカーテン越しになるまでが難しい。

 放課後、学校内をさまよって場所を探す。

 迷ったあげく、教室にした。
 よし、ドア越しで告白する!

 私がもしも先に教室にいたら、彼が教室に入ってくるのを止めるタイミングが上手くいかなくて、顔をあわせちゃいそうだから、彼に教室で先に待っててもらい、ドアの隙間から顔を合わせないように「ドアを開けないで、ドアの前まで来てください」的なこと言っといて、それから……。

 イメージが固まると、次は告白する時に伝えたい言葉!

 漫画やドラマではロマンチックなセリフを素敵な場所で相手に伝えて、だいたい上手くいっている。

 いつもこういうのに憧れちゃうって思っていたけれども、実際に自分がそうするとなると、考えているだけでもう頭の中がぐちゃぐちゃ。そしてもしも振られちゃったらどうしよう。

 あぁ、上手く行きますように!

 まずは、放課後に教室来てもらうように、頼んでみる! 


✩.*˚


 朝、登校する。

 すでに教室にいた陸くんと、すぐに目が合った。私は人の少ない廊下に来てもらおうと、こっそり手招きをした。陸くんがこっちに来てくれた。

「今日の放課後、部活とか用事、何かある?」

「部活あるよ! どうしたの?」

「う、うん、ちょっと、陸くんに用事があって」

 ほら。この言葉のやりとりをするだけでも声が震える。陸くんの身長は高いから少し見上げないと目を合わせられない。けれども私は伝える途中で彼から目をそらし、下を向いた。

 これからのことを考えるだけでもう、上手に陸くんの顔が見られなくなった。

「じゃあ、部活が終わったら、教室にいて欲しいの」

 頑張ってちらっと彼の方を見たら、思いっきり彼はこっちを見ている。

 これだけでこんなにもドキドキするのに。

 本当に目を合わせて告白なんて……。
 無理っ! 無理すぎるよ!

「分かった。いいよ! あ、今日ミーティングだけだから早いかも」

「うん、分かった。ありがとう! では、放課後、よろしくお願いします!」



 その言葉を交わしてから、いよいよ今日告白するのだと実感してきて、一日中ずっとドキドキしていた。

 私も部活で美術室に行き、花瓶に入っている花の絵を鉛筆で描いた。そわそわして絵に集中出来ない。

 もう陸くん、教室にいるかな?ってぐらいに私も教室に向かう。

 教室のドアの窓をほんとにちらっとだけ覗くと、外を見ている後ろ姿が見える。

 ――今からこの人に、告白するんだ。

 自分の心臓がバクバクと勢いが増してきた。落ち着かせようと、制服の上からそっと心臓辺りに手を添えた。

 私の声が陸くんに届くように、数センチだけドアをそっと開ける。

 彼と顔を合わせないように。
 姿を見ないように。

「ドアの前まで来てもらえる? 絶対にドアを開けないでね!」

 小さな声で私は彼にお願いをする。
 彼の動く気配がする。
 
 ドアの前に来た気配。
 私の心臓の音が高鳴る。

 あぁ、ドキドキする。緊張しすぎて立てなくなり、ドアに背中をつけてしゃがみ込んだ。

 ゴトンと音が聞こえて、なんとなく、彼も今ドアに背中をつけて、同じ姿勢をしている感じがした。

 このドアがなければ、彼と私の背中は今、くっついているんだ。こんなにも近くにいる。そんなことを考えると、余計に胸が高まる。

 気持ちを落ち着かせようと、ゆっくり深呼吸した。
 そして思いを、言葉を、彼にぶつける。

「ずっと、好きでした。付き合ってください」

……。

しばらく彼は無言で、ただ音のない時間が刻々と過ぎていく。

 ――返事を考えているのかな?

「おう、いいぞ!」

「……!」

 はっ? えっ? ちょっと待って?   
今、想像していなかった声が!


 ――嘘でしょ? 何で悠真がここにいるの?
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