トマトジュースは弟の味

ななな

文字の大きさ
上 下
7 / 11

7. 兄弟って何?

しおりを挟む
「にっ、にいさんっ…アッ…んンッ」

 信じられなかった。信じたくもなかった。家族って何だろう、兄弟って何?
 兄さんはオレのこと……弟とは思っていないのかな。

「いやだっ、や、やめてっ」
 信じられない。兄さんがオレの…お、オレのものを…咥えているなんて。

 オレが拒絶すればするほど、兄さんは侵食してくる。「ちゃゆ、だいぞうぶだから」熱い息、太い舌触り、湿っぽい手。全てがオレを奈落の底へと追いやるのだ。

「おまえだからやっへるんだ、おまえがだいじだから。おれのあいをうけとっへくれよ」
 一方的な掛け違えた献身に、ただただ悲鳴を上げるばかりだった。貪欲な手がオレの中を掻き回し、弱いところを刺激する。
「ここだ…チャユが女の子になっちゃうところは。気持ちいいだろう?いっぱい触ってあげるからな…」

 やがてプツンと、オレの中の張り詰めた糸が切れる音がした。
「いっ、いたいっ、気持ち悪いっ、兄さん抜いて!うっ…ひっく…もうやだ、やだよぉ!オレこのまま死んじゃいたい…っ」

 兄さんは、「お前に死なれたら…俺はどうやって生きていけばいいんだ」と目を丸くする。オレは続けざまに言い返した。
「うるさいっ、オレのことが大事なら、どうしてオレの嫌がることをするんだっ!兄さんなんか大嫌いだ!」

「…チャユ」

 呆然とした顔で見つめられ、一瞬時が止まったと思った。
 オレ、というよりはオレの少し後ろの方を見つめているような。

 じきによろよろと、兄さんは身体を起こしていく。魂が抜けたかのように呆けており、オレは崖から飛び降りたのに、服が小枝に引っかかった気分だった。


「にい、さん」

 不安になって呼びかけてみた。けれど、反応はない。どうしようかと静かに心の中で奔走していると、静寂はむこうから打ち砕いてきた。

「チャユ…お願い…俺のことを…見捨てないで」

 その時、オレはようやく気づいた。兄さんの目の下には、大きなクマができている。どこかやつれていて、悲壮感のようなものが漂っていた。

「お願い…俺は…お前のことを…お願いだ…チャユ」
 
 オレは息を呑んだ。先程までの自信に溢れた声はどこへやら。同情を誘う声でオレを惑わせようったって…そうはいかない。

「チャユっ…お願い、俺のそばにずっといてくれ…っ…チャユのいない人生なんて考えられないっ、俺の光なんだっ!お願い、お願いっ、お願いお願いお願い!!」 

 誰だろう、この人は。兄さん、オレの兄さんは…いつも格好良くて、カッコイイ…
 けれど本当は、もっと脆い人なのかもしれない。

「兄さん、オレと兄さんは…兄弟だよ。心はずっと…そばにいる」

 オレが首を横に振ると、「っうっ…あっ、うぅ…いやっ嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だぁぁあ!!チャユとっ、チャユとひとつになりたいんだあぁぁぁっっ!!!」とオレの腰にみっともなくすがりつき、泣きじゃくりながら迫るその姿は、もはや誰だかわからなかった。

 オレは身の危険を感じて逃げ出そうとした。けれど、「嫌だっ!チャユ、チャユっ!」と言うばかりでどうにも離れようとしない。そうやって騒いでいたら母さんが帰って来て、あっけなく幕は閉じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

周りが幼馴染をヤンデレという(どこが?)

ヨミ
BL
幼馴染 隙杉 天利 (すきすぎ あまり)はヤンデレだが主人公 花畑 水華(はなばた すいか)は全く気づかない所か溺愛されていることにも気付かずに ただ友達だとしか思われていないと思い込んで悩んでいる超天然鈍感男子 天利に恋愛として好きになって欲しいと頑張るが全然効いていないと思っている。 可愛い(綺麗?)系男子でモテるが天利が男女問わず牽制してるためモテない所か自分が普通以下の顔だと思っている 天利は時折アピールする水華に対して好きすぎて理性の糸が切れそうになるが、なんとか保ち普段から好きすぎで悶え苦しんでいる。 水華はアピールしてるつもりでも普段の天然の部分でそれ以上のことをしているので何しても天然故の行動だと思われてる。 イケメンで物凄くモテるが水華に初めては全て捧げると内心勝手に誓っているが水華としかやりたいと思わないので、どんなに迫られようと見向きもしない、少し女嫌いで女子や興味、どうでもいい人物に対してはすごく冷たい、水華命の水華LOVEで水華のお願いなら何でも叶えようとする 好きになって貰えるよう努力すると同時に好き好きアピールしているが気づかれず何年も続けている内に気づくとヤンデレとかしていた 自分でもヤンデレだと気づいているが治すつもりは微塵も無い そんな2人の両片思い、もう付き合ってんじゃないのと思うような、じれ焦れイチャラブな恋物語

兄弟愛

まい
BL
4人兄弟の末っ子 冬馬が3人の兄に溺愛されています。※BL、無理矢理、監禁、近親相姦あります。 苦手な方はお気をつけください。

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

大親友に監禁される話

だいたい石田
BL
孝之が大親友の正人の家にお泊りにいくことになった。 目覚めるとそこは大型犬用の檻だった。 R描写はありません。 トイレでないところで小用をするシーンがあります。 ※この作品はピクシブにて別名義にて投稿した小説を手直ししたものです。

王子様の愛が重たくて頭が痛い。

しろみ
BL
「家族が穏やかに暮らせて、平穏な日常が送れるのなら何でもいい」 前世の記憶が断片的に残ってる遼には“王子様”のような幼馴染がいる。花のような美少年である幼馴染は遼にとって悩みの種だった。幼馴染にべったりされ過ぎて恋人ができても長続きしないのだ。次こそは!と意気込んだ日のことだったーー 距離感がバグってる男の子たちのお話。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

【R18】【Bl】王子様白雪姫を回収してください!白雪姫の"小人"の俺は執着王子から逃げたい 姫と王子の恋を応援します

ペーパーナイフ
BL
主人公キイロは森に住む小人である。ある日ここが絵本の白雪姫の世界だと気づいた。 原作とは違い、7色の小人の家に突如やってきた白雪姫はとても傲慢でワガママだった。 はやく王子様この姫を回収しにきてくれ!そう思っていたところ王子が森に迷い込んできて… あれ?この王子どっかで見覚えが…。 これは『【R18】王子様白雪姫を回収してください!白雪姫の"小人"の私は執着王子から逃げたい 姫と王子の恋を応援します』をBlにリメイクしたものです。 内容はそんなに変わりません。 【注意】 ガッツリエロです 睡姦、無理やり表現あり 本番ありR18 王子以外との本番あり 外でしたり、侮辱、自慰何でもありな人向け リバはなし 主人公ずっと受け メリバかもしれないです

隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する

知世
BL
大輝は悩んでいた。 完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。 自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは? 自分は聖の邪魔なのでは? ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。 幼なじみ離れをしよう、と。 一方で、聖もまた、悩んでいた。 彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。 自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。 心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。 大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。 だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。 それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。 小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました) 受けと攻め、交互に視点が変わります。 受けは現在、攻めは過去から現在の話です。 拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。 宜しくお願い致します。

処理中です...