妄執 〜 おじさま達に病愛されて 〜

4. 逃避行

　大学が夏休みに入ると同時に、俺は実家に戻っていた。そのことをまりあさんには告げていない。ひとまずアパートに物は置きっぱなし、そのまんまだ。

　でも、アパートを出る前にハンカチを、少女趣味のハンカチを一枚だけプレゼントした。それはそれは喜んでくれた。もう、飛び上がるんじゃないかってくらい。
　普段物静かな彼女がそれほどまでに感情をあらわにするのだ。思うことはあったが、俺は俺のことだけを考えることにした。それほどまでにまいっていたのだ。



　解離性同一性障害。それは、心のダメージを回避しようとすることから引き起こされる病気の一種だ。

　本人にとって堪えられない状況を、自分のことではないと感じたり、あるいはその時期の記憶や感情を切り離して思い出せなくする。そうして切り離した記憶や感情が成長し、別の人格となって表に現れるわけだ。
　まりあさんは俺を強姦した男の別人格で、そしてまた俺も、記憶喪失という記憶障害を引き起こしていたのだ…！


　…というのは単なる俺の妄想で、昔見た映画の内容を大いに参考とさせてもらった。それは確か、最後に主人公が…あれ、ええと…どうなったんだっけ。

　可愛い女主人公が、変態男…後に多重人格者とわかるのだが…に一方的に好意を持たれ、翻弄されるサイコホラー映画。
　男の役者がハンサム過ぎて、話に無理があるという理由で鳴かず飛ばず…その役者のファンにはウケたらしい。俺は気づいたら寝ていた。…そうだ、だから覚えてないんだ。

　でも、映画とはまるで違い本当に不気味な夢だった。彼女が…自信に満ち溢れた彼女が、ある一つの強烈におかしなことを言わなければ、目を覚ますまで夢とは気づかなかったはずだ。

　何って…そう、俺のモノの大きさ。自分でも言いたかないけど俺のはちっさい。だから飛び起きた瞬間期待して、そーっと確認したけどやっぱりまた落ち込んだ。
　

　この夏休み中は実家暮らし、その間に次の新居を探そうと思う。まりあさんのそばにこのままいたら、俺が俺でなくなるような…そんな気がして。

　確信的な言葉は何一つ聞かされていない。だから、彼女が本当のところ俺のことをどう思っているのかはわからないけど、何にせよこれ以上はもうたくさんだった。本当に…もう、いい。

　あぁー…安いアパート、また見つかるかなぁ。