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11 最終話 . 昔話 2

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「ボムギュっ、綺麗な花が咲いてたんだ!お前にやるよっ」

 ある日のこと、少年は一輪の花をいそいそとボムギュに手渡しました。それは白い素朴な、どこかで見かけたような花で、わざわざ摘み取ることのないものでした。

「ありがとう…すごく嬉しいよ」
 ボムギュはそっと抱き付きました。いかにも嬉しそうな少年の顔を見て、心はぽかぽか 陽だまりの中にいるようでした。
「アッ!?…ぅぃ、ぁあっ、あぁっ」と少年もしどろもどろになりながらもしっかりと抱き返します。ついでにお尻まで触ってきたので、ボムギュはくすりと笑いました。そうしますとちょっとした考えがよぎり、自らの髪にその花を挿してみることにしました。

「どう?」
 にこりとほほえむボムギュ…少年の心はてんやわんやです。あたふたとして、「かっ、神隠しにでもあったらどうすんだ!あぁっ もう外すぞっ、攫われちまう!」ですから。ボムギュは笑いました。
 でも、せっかくの花です。少年からもらった大事な花…大切なものを取られるのは、たとえそれが少年自身であったとしても惜しいものですね。

「やだよ、まだつけていたいんだ。それよりさ…水浴びしてくるよ。今日はあのボロ屋で一日過ごそう」
「ボムギュッ!?」

 少年は信じられないという顔をしていました。それもそのはず、ボロ屋へのお誘いはいつも少年からでしたので それはもう、
「…いや?」
「滅相もございません!」
 嬉しさ山のごとし!!!ぴゅうーっとあのボロ屋目指して一直線に駆けて行きました。あらら、君は水浴びしないのかい。

 まぁいいや、嬉々として襲いかかる熊に「不潔な人は嫌いだよ」と水をかけるのもまた一興。ボムギュはうしし、と楽しそうに笑いながら、近くの泉に足を突っ込んでおりました。水は少し冷たいですが、この後のことを思うと…身体がだんだん火照ってきて、気にならなくなりました。今日はどんな風に抱かれるのだろう…身体の芯が熱くなります。

(駄目だ駄目だ…まだ早い)
 しっかりしろ、とボムギュは自らに言い聞かせ、脱ぎ捨ててあった着物に腕を伸ばしました。風で飛んでゆかないよう低木の下に置いていましたので、それを掴んで引っ張ります…と、何かが出てきました。

「あいたっ」
「うわっ!」

 出てきたのは…見たこともないご老人でした。白い髪の毛に…白い髭。それがボムギュの目に飛び込んできました。
「ごっ、ごめんなさい、あの、大丈夫ですか」
「いやいや、こちらこそすまんのぅ」

 にこにことしておりますご老人に、ボムギュもつい笑い返してしまいます。あまりにも突然のことで、心の臓は忙しなく動いていました。

「あっ」
 たった今、自らがどのような姿であるかを思い出します。赤くなりながら、「失礼しました…すぐ服を着ますので」そう言いかけたところで、ボムギュは眉をひそめました。

「あの…失礼ですが、あなたのお召しになっているそれって」

 僕の服じゃあ…ないですか。座り込んでいるご老人の身体には、さきほどまでボムギュが着ていた着物が確かに羽織られておりました。は…て…いったい…思考の糸がプツンと切れます。

「ひっ」

 よく見ると、ご老人はそれ以外に何も身につけていませんでした。ボムギュの小さな着物をどうにか無理矢理着て、下は…

「お前さん、きれいじゃのう。思わず脱いでしもうたわ。ボムギュというのかい」
「あぁ、あぁ」

 ボムギュは震え上がりました。全くもって訳がわかりません。ご老人のそれは確かにこちらへ向いており、求愛の意志をまざまざと見せつけていたのですから。
 ご老人の正体は仙人でありました。「想い人がいるのか、そうか そうか…その興奮しておる可愛いものはそやつのことを想ってのものなんじゃな。悲しい、悲しいのぉ」と、ボムギュの心の内が手に取るようにわかるのです。仙人は水浴びをしていたボムギュに心を奪われ、彼を仙界へと連れて帰ろうとしていました。

「くっ、くるなっ、僕に近づくなっ!」
「そんなつれないことを言うでない。わしはお前さんを好いとるのじゃ…そばにいておくれ。大切にしてあげよう…」

 お花だって山のように降らせてやろう。そんな貧相な花なんぞ目でない…
 逃げようとするボムギュでしたが、あっけなく捕まり、そのまま仙界へと連れて行かれてしまいました。ボムギュはもう俗界の者ではなくなった…人々の、少年の心にさえも、ボムギュという存在は跡形もなく消え去ってしまったのでありました。
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