上 下
3 / 10

さんつぶめ

しおりを挟む
偽物の花嫁が城を出たと報告を受けた。


「ようやくか」


ほっと息をつくと、腕の中の愛おしい存在が居心地悪そうにする。運命の人は心まで優しいのだ。あの者とはちがう。


「お前、本当に覚えていないのか」

「いきなりなんです、国王」


突然部屋に入ってきた国王に、愛しい人の肩が跳ねる。驚かせるのはやめてほしい。
それになんだ。その言い方だと、父王が幼い日の約束を知っているかのようではないか。


「いいか、三行半突きつけられたのはお前の方だぞ」

「なにを言ってるんです、父王」


国王の言葉に肩を竦める。

心優しい運命の人とちがい、あの偽りの花嫁は貴族の傲慢さが透けて見えた。きらきらしい容姿に、勝ち気な性格。
ぼんやりとしか覚えていないが、幼い頃出会った運命の人はとても素直な人だった。いまもだが。ほら、あいつとは似ても似つかない。


「お前なぁ……」


国王はオレに向けて大きく溜息をつく。
最近よく見る光景だ。なんだってみんなあいつの肩を持つんだ。それがますます気に入らない。


「忘れてるようだから言っておくがな、あのな、むかしお前を連れて行ったのは公爵の別邸だからな」

「…は?」


父王の言葉にぱかんと顎が落ちた。

公爵といえば、あの花嫁の生家にあたる。一体どういうことだ。



***
懐かしい場所に来ていた。
公爵家所有の南の別荘。
ここはいま兄夫妻が暮らしている。家督はまだ父さまにあるから、それまでの間だと兄さまが言っていた。

幼い頃、国王様といっしょにここを訪れた王子と仲良くなり、ぼくたちは将来を約束したのだ。


あの頃はよかった、と溜息が洩れる。


「兄さまたちはいつでも仲がよくてうらやましいな」

「おや、私たちにだって恋の試練は訪れるんだよ」

「うそだぁ。二人はいつでも恋の祝福があるじゃないか」

「ふふ。そう言ってもらえるのは素直にうれしいよね」


ね、リビエラ。と兄に微笑みかける麗人。翠峰さまだ。


「それで、シャスラはこれからどうするの?」

「どうもこうもないよ、王子がああだもん」


翠峰さまの言葉に、ぷんっと口を尖らせる。
正直、ぼくとの約束を忘れた挙げ句、どこの誰ともしらない人間を連れてきた王子にはがっかりだった。

10年も経てば人は変わるのだと痛感した。


幼い頃の思い出の場所でぼくはある指輪を眺めていた。

当時、王子が真っ赤な顔でぼくの指に嵌めてくれたものだ。
グリーンのガラス玉がついた安っぽいおもちゃの指輪。王子にはふさわしくない、だけど子供らしい指輪だ。


「王様に言って送り返そうかな」


そうと決まればさっそく。


「兄さまー、封筒ちょうだい…」


応接間の扉を開けたぼくは思わず声をつまらせた。


「おまえ…その、指輪…!」


兄の向かいで、ここにいるはずのない王子が大きく目を見開いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

水色と恋

和栗
BL
男子高校生の恋のお話。 登場人物は「水出透吾(みずいで とうご)」「成瀬真喜雄(なるせ まきお)」と読みます。 本編は全9話です。そのあとは1話完結の短編をつらつらと載せていきます。 ※印は性描写ありです。基本的にぬるいです。 ☆スポーツに詳しくないので大会時期とかよく分かってません。激しいツッコミや時系列のご指摘は何卒ご遠慮いただきますようお願いいたします。 こちらは愉快な仲間たちの話です。 群青色の約束 #アルファポリス https://www.alphapolis.co.jp/novel/389502078/435292725

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

愛おしいほど狂う愛

ゆうな
BL
ある二人が愛し合うお話。

【完結】遍く、歪んだ花たちに。

古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。 和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。 「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」 No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

片桐くんはただの幼馴染

ベポ田
BL
俺とアイツは同小同中ってだけなので、そのチョコは直接片桐くんに渡してあげてください。 藤白侑希 バレー部。眠そうな地味顔。知らないうちに部屋に置かれていた水槽にいつの間にか住み着いていた亀が、気付いたらいなくなっていた。 右成夕陽 バレー部。精悍な顔つきの黒髪美形。特に親しくない人の水筒から無断で茶を飲む。 片桐秀司 バスケ部。爽やかな風が吹く黒髪美形。部活生の9割は黒髪か坊主。 佐伯浩平 こーくん。キリッとした塩顔。藤白のジュニアからの先輩。藤白を先輩離れさせようと努力していたが、ちゃんと高校まで追ってきて涙ぐんだ。

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

【完結】もう一度恋に落ちる運命

grotta
BL
大学生の山岸隆之介はかつて親戚のお兄さんに淡い恋心を抱いていた。その後会えなくなり、自分の中で彼のことは過去の思い出となる。 そんなある日、偶然自宅を訪れたお兄さんに再会し…? 【大学生(α)×親戚のお兄さん(Ω)】 ※攻め視点で1話完結の短い話です。 ※続きのリクエストを頂いたので受け視点での続編を連載開始します。出来たところから順次アップしていく予定です。

処理中です...