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花標
花標・8
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結果として、オレは三日間、高熱を出して寝込むことになった。
足首から回った毒によるものらしい。逆にいままで平気でいた方がおかしい、と医者は言った。きっと蔓のことで気を張りすぎていたのだ。
熱が下がると、足首のどす黒い痣も嘘のように消えていた。
「心臓がとまるかと思ったぜ」
「オレもそうだった」
「はぁ…まあお互い様だな」
目が覚めてそこに蔓がいるのを知ったとき、嬉しくて涙が溢れた。あれは夢じゃなかったのだと。
蔓がいる喜びを噛み締めていると、突然ぐいと両頬を掴まれた。ごつんと額をぶつけて至近距離で瞳を覗き込まれる。
「それで辛夷、おまえ、オレに言わなきゃいけないことがあるだろ?」
「え?」
「三椏のことだ」
蔓の瞳にゆらりと揺れる嫉妬の色を見て、背中が総毛立つ。
三椏がなにか言ったのか…?
「見てればわかる。なんだあの近すぎる距離は」
蔓は記憶を失っている間のこともきちんと覚えていた。それはいいとして。
「おい、なに考えてる?」
「お前が思ってる通りのことだろうなぁ」
にやりといやらしく笑う蔓に逃げを打つが、あっという間に寝具に身体を押さえつけられる。いつまでも床に臥していた自分を悔やんだ。
「くそ、浮気しやがって。相応の覚悟はできてるんだよな?」
「っ、蔓は、オレのことなんて覚えてなくて、」
「それがなんだよ。オレは茉莉といて一度もそんな気にならなかったぞ」
「え、」
そうだったのか、オレはてっきり…。
驚いたオレを見て、蔓はますますこめかみに青筋を浮かべた。
「大体よぉ、例えオレが死んだって、お前はオレに操を立てるべきだろ」
自分が誰のものだかわかってんのかよ?
吐き捨てる蔓があまりにもらしくって、オレは思わず笑ってしまった。
「なに笑っていやがる」
「や、蔓だなあって」
―――安心した。
笑いながらその首に両腕を巻きつけて、滲んだ涙を擦りつける。
「まあ、お前がオレといっしょに死ぬって言ったっていうのは及第点だな」
「そうか」
「おら離れろ。抱き潰してやるよ」
「いやだ」
「ああん?」
「オレだって蔓が戻ってきたって実感したい」
ちゅ、と頬に口付けると、ぐぬ…と妙な呻き声を上げた。
「…色子衆ってのは本当ろくでもねえな」
「それも、三椏が…?」
不安に揺れる瞳で見上げたオレに、蔓はいいやと首を横に振る。
「そうなのかもなって少しは予想していた。が、気分のいいもんじゃねえな…っ!」
おらっ、と勢いよくしがみついていた腕をはがされ、拘束される。そのまま肉食獣めいた仕草で顎の先に噛みつかれる。
オレはそれを乱暴に頭を振って払いのけ、強引に唇を重ねた。
見つめ合う瞳が笑みの形に細まり、相手の存在を確かめるよう、互いの体温を掻き抱く。
そしてオレはもう離すなと泣きながら強請るのだ。
***
「あーぁ、辛夷、蔓のものに戻っちまったな」
「なんでお前手ぇ出すんだよ。オレははじめから、蔓が出てっても辛夷を監視役として側につけるつもりだったんだぜ」
「あ?据え膳だろ、あんなん。御頭だってオレの立場なら抱いてたぞ」
「ま、辛夷の足も治ったし、蔓も戻って、オレは言うことなしだがな」
「…誤魔化したな」
おわり
足首から回った毒によるものらしい。逆にいままで平気でいた方がおかしい、と医者は言った。きっと蔓のことで気を張りすぎていたのだ。
熱が下がると、足首のどす黒い痣も嘘のように消えていた。
「心臓がとまるかと思ったぜ」
「オレもそうだった」
「はぁ…まあお互い様だな」
目が覚めてそこに蔓がいるのを知ったとき、嬉しくて涙が溢れた。あれは夢じゃなかったのだと。
蔓がいる喜びを噛み締めていると、突然ぐいと両頬を掴まれた。ごつんと額をぶつけて至近距離で瞳を覗き込まれる。
「それで辛夷、おまえ、オレに言わなきゃいけないことがあるだろ?」
「え?」
「三椏のことだ」
蔓の瞳にゆらりと揺れる嫉妬の色を見て、背中が総毛立つ。
三椏がなにか言ったのか…?
「見てればわかる。なんだあの近すぎる距離は」
蔓は記憶を失っている間のこともきちんと覚えていた。それはいいとして。
「おい、なに考えてる?」
「お前が思ってる通りのことだろうなぁ」
にやりといやらしく笑う蔓に逃げを打つが、あっという間に寝具に身体を押さえつけられる。いつまでも床に臥していた自分を悔やんだ。
「くそ、浮気しやがって。相応の覚悟はできてるんだよな?」
「っ、蔓は、オレのことなんて覚えてなくて、」
「それがなんだよ。オレは茉莉といて一度もそんな気にならなかったぞ」
「え、」
そうだったのか、オレはてっきり…。
驚いたオレを見て、蔓はますますこめかみに青筋を浮かべた。
「大体よぉ、例えオレが死んだって、お前はオレに操を立てるべきだろ」
自分が誰のものだかわかってんのかよ?
吐き捨てる蔓があまりにもらしくって、オレは思わず笑ってしまった。
「なに笑っていやがる」
「や、蔓だなあって」
―――安心した。
笑いながらその首に両腕を巻きつけて、滲んだ涙を擦りつける。
「まあ、お前がオレといっしょに死ぬって言ったっていうのは及第点だな」
「そうか」
「おら離れろ。抱き潰してやるよ」
「いやだ」
「ああん?」
「オレだって蔓が戻ってきたって実感したい」
ちゅ、と頬に口付けると、ぐぬ…と妙な呻き声を上げた。
「…色子衆ってのは本当ろくでもねえな」
「それも、三椏が…?」
不安に揺れる瞳で見上げたオレに、蔓はいいやと首を横に振る。
「そうなのかもなって少しは予想していた。が、気分のいいもんじゃねえな…っ!」
おらっ、と勢いよくしがみついていた腕をはがされ、拘束される。そのまま肉食獣めいた仕草で顎の先に噛みつかれる。
オレはそれを乱暴に頭を振って払いのけ、強引に唇を重ねた。
見つめ合う瞳が笑みの形に細まり、相手の存在を確かめるよう、互いの体温を掻き抱く。
そしてオレはもう離すなと泣きながら強請るのだ。
***
「あーぁ、辛夷、蔓のものに戻っちまったな」
「なんでお前手ぇ出すんだよ。オレははじめから、蔓が出てっても辛夷を監視役として側につけるつもりだったんだぜ」
「あ?据え膳だろ、あんなん。御頭だってオレの立場なら抱いてたぞ」
「ま、辛夷の足も治ったし、蔓も戻って、オレは言うことなしだがな」
「…誤魔化したな」
おわり
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