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月羽きらりは怒りに我を忘れていたので気づかなかったらしいが、アオイとイズミ、そして建と樹は、三人を取り囲むようにして立っていた。
「えっ……えっ。これは、その……ち、違うの!」
「なにが違うの? ……流石に恋敵を殴ろうとする女の子はちょっと、ね。俺は遠慮したいかな。ねえ、イズミ?」
「……僕はフツーにアンタのことキライだから。変な噂流そうとするなんてあり得ないし、僕が好きなのは花姉ぇ……花だから。アンタは、絶対、あり得ない」
山野兄弟に手酷く拒絶された月羽きらりは、助けを求めるように建と樹に視線を泳がせる。
「ハッキリ言って、イズミにしたことは許されないことだ。正直軽蔑している。そしてそんな女性とはおれは付き合えないし、近づいて欲しくもない。おれたちにも、かおるや山野さんにも、だ」
「――だってさ?」
「樹はなにか言うことはないのか?」
「え? めんどくさ。なんでオレが言って聞かせなきゃなんないワケ? ないわ」
月羽きらりはくるくると顔色を変えた。
青くなったかと思うと、拒絶されて白くなり、最後に樹にトドメを刺されてまた顔を赤くした。
「はあっ?! な、なんであたしがフられたみたいになってんの?!」
「いや、実際振られたんだって、アンタ」
「ありえないありえないありえない! あんたたち女の趣味悪すぎるから! さっきのセリフ聞いてたでしょ!? こんな性悪女、ありえないって!」
「俺たちからすれば、君の言動のほうが『あり得ない』って言いたいかなー……」
「はああああああああ???」
月羽きらりの顔を見て、かおるは血管が切れないか心配になった。彼女の顔は、それほどまでに赤く染まっていたのだ。
やがて月羽きらりは酸欠の金魚のように口を開閉させていたかと思うと、叫ぶように捨てゼリフを吐いた。
「ありえないありえない! こんなキャラだと思わなかった!!! こんなやつら、こっちから願い下げよ!!!」
そして月羽きらりは、嵐のように去って行った。
いや、かおるたちにとってはまさしく嵐と同義であった。
月羽きらりの背が校舎内に消えるのを見届けた六人は、だれともなしに深いため息をついたのだった。
「あー疲れたっ! 恋人のフリなんて引き受けるのはやっぱり間違いだよー!!!」
「まあ……そうだね。同意」
花は一度両腕を思い切り空へと向かって突き出して伸びをする。そんな花のセリフに、かおるは小さく頷いて応える。
「お疲れ様。ごめんね、こんなことさせちゃって」
「僕たちが謝る必要なんてないと思うんだけど。全部あの女が悪いわけだし」
「いや、イズミはちょっとはねぎらってよ?!」
「事前の打ち合わせ通りとは言え……殴られるかと思って肝が冷えた」
「あんだけ煽ったら、まあ、当然じゃないかな……」
「オレが止めたげたじゃん。――んー。文章これでいいかな」
「なにしてるの?」
「さっきの動画、学年のグループルームに投下した♪」
「――は?」
かおるの渾身の「は?」に耳ざとく花が気づいて樹たちを振り返った。
「え? なに? どうしたの?」
「え? いや……え? さっきの動画って?」
「動画?」
「そー。さっきの動画。かおると花ちゃんがオレらを渡さないって宣言しているやつね♪ あ、さっきの女は映してないから。――こういうときに既成事実作っとかねーと、いつまで経ってもオレらのものになんないでしょ?」
かおるは体から血の気が引いていく音を聞いた。
隣に立つ花も「え?」と言ったきり、なにが起こったのか理解したらしく、口を開けっ放しにしてひとことも発しなかった。
かおるは青白い顔を建に向ける。この中で比較的マトモで真面目な建ならば――。
「樹……――バラすのが早すぎないか?」
「いや、こういうのは早いほうがいいって。オレ早くかおるとイチャイチャしたいし」
「なるほど。一理ある」
かおるは心の中で「『なるほど』じゃねーよ。一理もねーよ」と突っ込んだが、それは言葉にならなかった。
花は再起動するのに時間がかかっているらしく、かおるよりおしゃべりであるにもかかわらず、先ほどからひとことも発していない。
イズミはそんな花の目の前で手を振って「こりゃだめだ」などと言っている。
アオイは「仕方ないね」と困ったように笑っているが、この状況を作り出した共犯者であることは、かおるにも察せられた。
――いつから私たちはハメられていたんだろう?
かおるはそんなことを考えながら、胸がすくような見事な青空をうつろな目で見上げるのであった。
その横ではグループルームに祝福のメッセージが次々に投下される無機質な音が鳴り響いていた……。
「えっ……えっ。これは、その……ち、違うの!」
「なにが違うの? ……流石に恋敵を殴ろうとする女の子はちょっと、ね。俺は遠慮したいかな。ねえ、イズミ?」
「……僕はフツーにアンタのことキライだから。変な噂流そうとするなんてあり得ないし、僕が好きなのは花姉ぇ……花だから。アンタは、絶対、あり得ない」
山野兄弟に手酷く拒絶された月羽きらりは、助けを求めるように建と樹に視線を泳がせる。
「ハッキリ言って、イズミにしたことは許されないことだ。正直軽蔑している。そしてそんな女性とはおれは付き合えないし、近づいて欲しくもない。おれたちにも、かおるや山野さんにも、だ」
「――だってさ?」
「樹はなにか言うことはないのか?」
「え? めんどくさ。なんでオレが言って聞かせなきゃなんないワケ? ないわ」
月羽きらりはくるくると顔色を変えた。
青くなったかと思うと、拒絶されて白くなり、最後に樹にトドメを刺されてまた顔を赤くした。
「はあっ?! な、なんであたしがフられたみたいになってんの?!」
「いや、実際振られたんだって、アンタ」
「ありえないありえないありえない! あんたたち女の趣味悪すぎるから! さっきのセリフ聞いてたでしょ!? こんな性悪女、ありえないって!」
「俺たちからすれば、君の言動のほうが『あり得ない』って言いたいかなー……」
「はああああああああ???」
月羽きらりの顔を見て、かおるは血管が切れないか心配になった。彼女の顔は、それほどまでに赤く染まっていたのだ。
やがて月羽きらりは酸欠の金魚のように口を開閉させていたかと思うと、叫ぶように捨てゼリフを吐いた。
「ありえないありえない! こんなキャラだと思わなかった!!! こんなやつら、こっちから願い下げよ!!!」
そして月羽きらりは、嵐のように去って行った。
いや、かおるたちにとってはまさしく嵐と同義であった。
月羽きらりの背が校舎内に消えるのを見届けた六人は、だれともなしに深いため息をついたのだった。
「あー疲れたっ! 恋人のフリなんて引き受けるのはやっぱり間違いだよー!!!」
「まあ……そうだね。同意」
花は一度両腕を思い切り空へと向かって突き出して伸びをする。そんな花のセリフに、かおるは小さく頷いて応える。
「お疲れ様。ごめんね、こんなことさせちゃって」
「僕たちが謝る必要なんてないと思うんだけど。全部あの女が悪いわけだし」
「いや、イズミはちょっとはねぎらってよ?!」
「事前の打ち合わせ通りとは言え……殴られるかと思って肝が冷えた」
「あんだけ煽ったら、まあ、当然じゃないかな……」
「オレが止めたげたじゃん。――んー。文章これでいいかな」
「なにしてるの?」
「さっきの動画、学年のグループルームに投下した♪」
「――は?」
かおるの渾身の「は?」に耳ざとく花が気づいて樹たちを振り返った。
「え? なに? どうしたの?」
「え? いや……え? さっきの動画って?」
「動画?」
「そー。さっきの動画。かおると花ちゃんがオレらを渡さないって宣言しているやつね♪ あ、さっきの女は映してないから。――こういうときに既成事実作っとかねーと、いつまで経ってもオレらのものになんないでしょ?」
かおるは体から血の気が引いていく音を聞いた。
隣に立つ花も「え?」と言ったきり、なにが起こったのか理解したらしく、口を開けっ放しにしてひとことも発しなかった。
かおるは青白い顔を建に向ける。この中で比較的マトモで真面目な建ならば――。
「樹……――バラすのが早すぎないか?」
「いや、こういうのは早いほうがいいって。オレ早くかおるとイチャイチャしたいし」
「なるほど。一理ある」
かおるは心の中で「『なるほど』じゃねーよ。一理もねーよ」と突っ込んだが、それは言葉にならなかった。
花は再起動するのに時間がかかっているらしく、かおるよりおしゃべりであるにもかかわらず、先ほどからひとことも発していない。
イズミはそんな花の目の前で手を振って「こりゃだめだ」などと言っている。
アオイは「仕方ないね」と困ったように笑っているが、この状況を作り出した共犯者であることは、かおるにも察せられた。
――いつから私たちはハメられていたんだろう?
かおるはそんなことを考えながら、胸がすくような見事な青空をうつろな目で見上げるのであった。
その横ではグループルームに祝福のメッセージが次々に投下される無機質な音が鳴り響いていた……。
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