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そのあと、一八禁エロ乙女ゲームの世界とは認められない――認めたくない――かおるの抵抗は続いたが、花が知らないはずの双子とのエピソードを暴露されては信じざるを得なかった。
どうやらそのエピソードは『ダブル・ラブ』の中で回想シーンとして出てくるものらしい。さすがの花も一字一句同じ言葉は覚えてはいなかったものの、大筋は一致していた。
花が知り得る手掛かりすらない、かおると双子の話――。
かおるはさすがに観念して、花の「この世界は乙女ゲームの世界に似ている」という言葉をひとまず受け入れることにした。
しかしあくまで「似ている世界」だ。花も言っていたが、「山野花」というキャラクターには「異世界転生者」などという設定は存在しなかった。だからあくまでここは「乙女ゲームに似ている世界」であって、「乙女ゲームそのものの世界」ではない。
かおると花はそう考えることでどうにか正気を保とうとした。
花が記憶しているシナリオ通りにこのまま進めば、かのふたりとのエロシーンに突入してしまうだなんてことは、かおるたちには受け入れがたいことであったからだ。
貞操の危機に加えて、かおると花には逆ハーレム――男ふたりだけを侍らせてハーレムと呼ぶのかは置いておいて――を築く気はなかった。
「荷が重すぎる……」
「だよね」
女性が少なくなりつつある社会において、男性の価値は暴落気味だ。しかしアオイとイズミ、そして建と樹の兄弟は、そんな希少な女のほうから寄ってくるイケメン。
女性――つまり、かおると花――が近くにいるからその扱いもそれなりに心得ているし、彼らはそろいもそろって文武両道。性格にはやや難点もあるが、あばたもえくぼというように、むしろそういうところがいい――なんていう人もいる。かおると花には、理解できないが。
いずれにせよ二次元のイケメン相手であれば、臆面もなく「好き」だのなんだのと言い合えるかおると花も、三次元が相手では腰が引けてしまう。
知人友人として親しくするのはいいのだが、恋人にしたいとは思えない。
――そんな相手と一八禁な展開になる? 無理無理!!!
というような具合であった。
たとえ相手が今現在こちらに好意を持っている態度を隠さないでいても、ふたりにはそれに応えるだけの度胸はなかった。
「じゃあ……回避するしかないよね?」
かおるの言葉に花は力強く頷いた。
なにを回避すると言わないまでも、既にふたりはわかりあっていた。
ただでさえ現在の二組の過保護ぶりにはかおるも花も辟易しているのだ。それがエスカレートして溺愛……そしてエロ展開……などということは絶対に避けたかった。
「でも、具体的にどうすれば?」
「そこなんだよねえ……」
溺愛エロ展開……そんな展開は回避したいふたりであったが、さっそく行き詰ってしまう。
「あのふたりと離れるのは現実的じゃないよね。登下校とかどうするんだって話になるし」
男女比が崩壊しつつあり、女性が希少化しつつある。それがかおるたちの生きる世界。
そんな世界なので女性のひとり歩きなど安全面から言語道断、といった風潮があるのだ。
ひとりで出歩くのは男を募集している証――とまでは行かないまでも、近い扱いを受けてしまう。
かおると花の場合はアオイとイズミ、建と樹それぞれがいつも張りついているのだから、それを遠ざければなおさら先述した展開を呼び寄せてしまうことは想像に難くなかった。
「あー、元の世界だったら登下校くらい女子ひとりでも大丈夫だったのにな~」
花のそんなぼやきを聞いて、かおるは本当にこの親友が元異世界人なんだ、と思った。
幼い頃から外出する際は大体父親がついて回ったし、建と樹と知り合ってからは、親にはこのふたりと一緒にいなさいというようなことを厳命されてきた。
建と樹はイヤな顔をするどころか妙にノリ気で、今でもかおるの保護者を気取っているフシがある。
かおるのほうは、それがときどきイヤになるが、ひとりで出歩くなんて今までにしたことがないし、散々危ないと言われていることをできるほどのお転婆さも持ち合わせてはいなかった。
「……ひとまず、心の準備はできたから……あとは流されなければいいよね?」
「あとは強制力、みたいなものがないことを祈るくらいかな」
「ああ、その可能性もあった……」
結局、ふたりと距離を置くという選択肢が現実的ではないことも相まって、かおると花は無難な結論に着地する。
「とにかく! あのふたりには流されない! 以上!」
花が力強く拳を作ったところで、扉をノックする音が聞こえた。
自分たちだけの世界に入っていたかおると花は、それにおどろいて飛び上がりそうになる。
ややあって扉を開けたのは、渦中の人物のひとりであり、花の義兄であるアオイであった。
「ごめんね。話し込んでいるみたいだったから持ってくるのが遅れて……。邪魔じゃなかったかな?」
「い、いえ! 気を遣わせてしまってすいません。大丈夫です」
「そ、そう! 今ちょうど話し終わったところだから! ごめんねアオイ兄さん」
かおると花は内心で冷や汗をかきまくっていた。
そしてアオイの顔を見て、かおるは思わず「この人が花と……」と下世話な想像をしてしまいそうになる。あわてて思考をかき消して、アオイからはわずかに視線を外した。
それでもどうしても花の言った「一八禁エロ乙女ゲー」という単語が忘れられず、とにかく頭の中をごちゃごちゃさせて、その想像を散らそうと必死になる。
翻って花もそんな想像をしてしまうのだろうかとかおるは考える。もしそうであったら、なんだかものすごく、いたたまれない。
――わたしと建と樹が?
どうしてもそう思ってしまって、背筋が寒くなるやら、気恥ずかしさに熱くなるやら大忙しだ。
アオイが去ったあとも微妙な空気は残って、かおると花はしばらく無言でリンゴジュースを飲んだのであった。
どうやらそのエピソードは『ダブル・ラブ』の中で回想シーンとして出てくるものらしい。さすがの花も一字一句同じ言葉は覚えてはいなかったものの、大筋は一致していた。
花が知り得る手掛かりすらない、かおると双子の話――。
かおるはさすがに観念して、花の「この世界は乙女ゲームの世界に似ている」という言葉をひとまず受け入れることにした。
しかしあくまで「似ている世界」だ。花も言っていたが、「山野花」というキャラクターには「異世界転生者」などという設定は存在しなかった。だからあくまでここは「乙女ゲームに似ている世界」であって、「乙女ゲームそのものの世界」ではない。
かおると花はそう考えることでどうにか正気を保とうとした。
花が記憶しているシナリオ通りにこのまま進めば、かのふたりとのエロシーンに突入してしまうだなんてことは、かおるたちには受け入れがたいことであったからだ。
貞操の危機に加えて、かおると花には逆ハーレム――男ふたりだけを侍らせてハーレムと呼ぶのかは置いておいて――を築く気はなかった。
「荷が重すぎる……」
「だよね」
女性が少なくなりつつある社会において、男性の価値は暴落気味だ。しかしアオイとイズミ、そして建と樹の兄弟は、そんな希少な女のほうから寄ってくるイケメン。
女性――つまり、かおると花――が近くにいるからその扱いもそれなりに心得ているし、彼らはそろいもそろって文武両道。性格にはやや難点もあるが、あばたもえくぼというように、むしろそういうところがいい――なんていう人もいる。かおると花には、理解できないが。
いずれにせよ二次元のイケメン相手であれば、臆面もなく「好き」だのなんだのと言い合えるかおると花も、三次元が相手では腰が引けてしまう。
知人友人として親しくするのはいいのだが、恋人にしたいとは思えない。
――そんな相手と一八禁な展開になる? 無理無理!!!
というような具合であった。
たとえ相手が今現在こちらに好意を持っている態度を隠さないでいても、ふたりにはそれに応えるだけの度胸はなかった。
「じゃあ……回避するしかないよね?」
かおるの言葉に花は力強く頷いた。
なにを回避すると言わないまでも、既にふたりはわかりあっていた。
ただでさえ現在の二組の過保護ぶりにはかおるも花も辟易しているのだ。それがエスカレートして溺愛……そしてエロ展開……などということは絶対に避けたかった。
「でも、具体的にどうすれば?」
「そこなんだよねえ……」
溺愛エロ展開……そんな展開は回避したいふたりであったが、さっそく行き詰ってしまう。
「あのふたりと離れるのは現実的じゃないよね。登下校とかどうするんだって話になるし」
男女比が崩壊しつつあり、女性が希少化しつつある。それがかおるたちの生きる世界。
そんな世界なので女性のひとり歩きなど安全面から言語道断、といった風潮があるのだ。
ひとりで出歩くのは男を募集している証――とまでは行かないまでも、近い扱いを受けてしまう。
かおると花の場合はアオイとイズミ、建と樹それぞれがいつも張りついているのだから、それを遠ざければなおさら先述した展開を呼び寄せてしまうことは想像に難くなかった。
「あー、元の世界だったら登下校くらい女子ひとりでも大丈夫だったのにな~」
花のそんなぼやきを聞いて、かおるは本当にこの親友が元異世界人なんだ、と思った。
幼い頃から外出する際は大体父親がついて回ったし、建と樹と知り合ってからは、親にはこのふたりと一緒にいなさいというようなことを厳命されてきた。
建と樹はイヤな顔をするどころか妙にノリ気で、今でもかおるの保護者を気取っているフシがある。
かおるのほうは、それがときどきイヤになるが、ひとりで出歩くなんて今までにしたことがないし、散々危ないと言われていることをできるほどのお転婆さも持ち合わせてはいなかった。
「……ひとまず、心の準備はできたから……あとは流されなければいいよね?」
「あとは強制力、みたいなものがないことを祈るくらいかな」
「ああ、その可能性もあった……」
結局、ふたりと距離を置くという選択肢が現実的ではないことも相まって、かおると花は無難な結論に着地する。
「とにかく! あのふたりには流されない! 以上!」
花が力強く拳を作ったところで、扉をノックする音が聞こえた。
自分たちだけの世界に入っていたかおると花は、それにおどろいて飛び上がりそうになる。
ややあって扉を開けたのは、渦中の人物のひとりであり、花の義兄であるアオイであった。
「ごめんね。話し込んでいるみたいだったから持ってくるのが遅れて……。邪魔じゃなかったかな?」
「い、いえ! 気を遣わせてしまってすいません。大丈夫です」
「そ、そう! 今ちょうど話し終わったところだから! ごめんねアオイ兄さん」
かおると花は内心で冷や汗をかきまくっていた。
そしてアオイの顔を見て、かおるは思わず「この人が花と……」と下世話な想像をしてしまいそうになる。あわてて思考をかき消して、アオイからはわずかに視線を外した。
それでもどうしても花の言った「一八禁エロ乙女ゲー」という単語が忘れられず、とにかく頭の中をごちゃごちゃさせて、その想像を散らそうと必死になる。
翻って花もそんな想像をしてしまうのだろうかとかおるは考える。もしそうであったら、なんだかものすごく、いたたまれない。
――わたしと建と樹が?
どうしてもそう思ってしまって、背筋が寒くなるやら、気恥ずかしさに熱くなるやら大忙しだ。
アオイが去ったあとも微妙な空気は残って、かおると花はしばらく無言でリンゴジュースを飲んだのであった。
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