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宇野ヒナタを見て僕は、ハッキリと、彼には「勝てない」と感じた。
あからさまではないにしても、オメガと類推するにはじゅうぶんな低身長に、女性のような柔和な体の線。
くりくりとした目は子リスを思わせる愛らしさと、純粋さを恥ずかしげもなくたたえている。
「あ、八月! えー? おれ八月の席の隣なのー? 参ったなー」
「……うるさい。ヒナタ。さわいでないで早く座れ」
時期外れの新しいクラスメイトとして紹介された場で、宇野ヒナタは早くも他のクラスメイトたちをざわめかせる。
無視することはないにしても、会話を最低限の言葉で済ませようとする八月が、知らんフリをせずに宇野ヒナタの相手をしたのだ。
僕もぎょっとして最後尾列に席を持つ八月と宇野ヒナタの方を振り返った。たいていのクラスメイトが、そうしていた。
「もー相変わらず八月はそんな感じなんだから……もうちょっと愛想よくしてもいいと思うんだけど?」
「……大きなお世話だ。早く座れ」
しかも、あろうことか八月は隣の空席となっていたイスを、わざわざ後ろに引いて見せたのだ。他でもない、宇野ヒナタのために。
厭世家のケがある八月が、他人の世話を焼くような真似をするなんて――。そう広くはない教室が、一瞬だけどよっとした。
「あ、おれと八月はイトコなんです。イトコ。そんで幼馴染なんです。ごめんなさーい。久しぶりに会えてテンション上がっちゃって……あ、ホームルーム続けてくださーい」
マシンガンのようにそれだけまくし立てると、ようやく宇野ヒナタは自席に腰を下ろして、大人しくなった。
けれどもクラスメイトたちはホームルームどころじゃない。
急に現れた、神秘に包まれた八月のイトコを自称する宇野ヒナタの存在に興味津々、小声でおしゃべりを交し合っている。
担任の教師はそれをどうにかこうにか収めたが、朝のホームルームが終われば、今度はあちらこちらでひとの塊ができて、八月と宇野ヒナタの話題でもちきりになった。
もちろん当人である宇野ヒナタと、それからこれをいいキッカケとでも思った信奉者たちが、隣の席に座る八月に声をかけるべく人垣をなした。
「おれ、ちょっと前の学校で事件に巻き込まれちゃってさー。母ちゃんがそれで心配だって言うから転入して今は八月の家に居候してるんだ。うんそう。一つ屋根の下~ってやつ? ハハ、でもそう言っても別におじさんたちもいるしね~」
宇野ヒナタは直截な物言いが爽やかな印象の少年だった。
物言いにためらいがないが、底意地の悪さは感じられない。
明快でパッと明るい性格だが、逆にそれが見た目の可憐さとはアンバランスで、「俺が」守ってやらねばというような庇護欲をかき立てる感じだ。こういうのもギャップ萌え、というのだろうか?
人垣を形成するクラスメイトたちは宇野ヒナタに興味津々だった。けれどもだれも、さすがに彼の性別について問い質す者はいなかった。
けれどもみんな、なんとなくわかっていた。
宇野ヒナタはオメガだ。
「前の学校での事件」とやらも、きっとオメガ性にまつわるものなのだろうと、この場にいるだれもが邪推をしていた。
そうでなければ夏休みに入る前の奇妙な時期にわざわざ転校して、従兄の実家にまで引っ越して居候する理由がわからない。
だからみんな、宇野ヒナタはオメガだと邪推して、決めつけていた。
「イタッ」
「……あんまりべらべらしゃべるな」
「え~? いいじゃん。おれ、こっちに友達いないしさー。あ、それとも嫉妬? 嫉妬しちゃった? ――ってまた叩いたあ!」
際限なく話し続ける宇野ヒナタに、個人情報を垂れ流しすぎだとでも感じたのか、隣の八月からストップがかかる。
その所作ひとつひとつを見ても、ふたりは親しい間柄だというのがわかる。
八月は僕にはあんまり触れない。……外では。宇野ヒナタのように気安く触れてはくれない。
じわじわと、焦燥感のようなものが僕の体の下から上ってくるようだった。
けれども僕には、最後の砦があった。
宇野ヒナタよりもずっとずっと八月のことに詳しいんだという自負を守る、最後の砦が。
僕と八月は友達だ。けれど、普通の友達とはちょっと違う。
僕は八月にその身をゆだねることがしばしばあった。
つまり、僕と八月はセックスフレンドでもあったのだ。
初めて出会ってからわりとすぐ、僕たちはそういう関係になった。
小説の原稿を読んで欲しいからという理由で、僕は武家屋敷に似た広大な邸宅を持つ長峰家に足を踏み入れた。
そこから、なにがどうなってそうなったのか、僕の記憶は曖昧だ。
誘ってきたのは八月からだったことは、覚えている。
「ふうん。雪宗ってあんまり毛が濃くないな……」
「そ、そんなこといちいち言わなくていいよっ」
「ちんこは皮被ってる。……なあ、セックスしたことある?」
「あ、あるわけないじゃん……」
当時、僕たちは中学一年生も終わりの頃という時期に身を置いていた。
ちょっと前まで小学生だったのだ。だからそんな経験――つまりセックスの――なんてあるハズないと僕は主張したかった。
けれども八月の美貌と体格ならば、既に経験を済ませていてもおかしくはないなと思い直す。
八月の身長は中学一年生にして一七〇センチを超えていた。ただ、胸板の厚さなんかはまだまだ中学生らしかったけど。
手だって僕のようにぷくぷくした感じが残った手ではなく、骨ばった、男の手をしていた。
そんな僕とは違う手が、僕の両脚をつかんで大きく股を開かせている――。
その光景だけで、僕は恥ずかしさで失神してしまいそうだった。
一方で、心臓は切なく鼓動を打ち、期待に胸は膨らむ。
そして素直なのは僕の股間にぶら下がっているものも同じだった。
……が、結論から言ってしまうと、このとき僕は処女卒業とはならなかった。
八月の付け焼刃の準備のお陰で、コンドームを被せた彼の指は三本までは入ったが、それ以上は僕には痛くて無理だったのだ。
けれども、その「拡張」作業の中に、僕は痛み以外のもどかしい感覚も見出していた。
それが快楽なのだと知るのは、何度か「拡張」作業を繰り返してからだ。
苦しくて苦しくて仕方ない一方で、肛門を拡げられ、直腸に指を差し込まれる感覚は、もどかしい快楽を僕にもたらした。
「はあ、はあ……はぅっ……ううー……」
既に八月への恋心を自覚していた僕は、彼が施す拡張作業に耐えた。
何度も何度も時間をかけて僕の肛門は八月の指を飲み込み、コンドームのゴム膜越しに彼の長い指を締め上げた。
「八月はなんでこんなことしたいの? 僕でいいの?」
そう言いたいのを何度か我慢した。
もし八月から「気まぐれ」とか「雪宗だったら黙ってくれそうだから」なんて、ロマンチックさの欠片もない言葉が返ってきたら、僕はきっと落ち込むだろうから。
だから僕は黙って八月の拡張作業に耐えた。
そうすると不思議なことに段々と肛門に指を入れる行為で、オナニーができるようになった。アナニーってやつだ。
もちろんペニスをしごかないと到底イけない程度の快楽しか、肛門からは得られなかったけれども。
しかしなんにせよ前進した。
いつか八月に抱かれるオメガはこんな気分なのかなと考えると、なんだか盛り上がった。興奮した。
八月の指を僕の肛門が飲み込む。その、異物感がやがて明確な快楽に変わったころ、僕は八月と念願のセックスをした。
「あ~……ちょっとキツイかもな。食いちぎられそう……」
僕のアナルバージンを捧げた八月のペニスは、僕のものより立派だった。
皮を被っていない亀頭は赤黒くて、竿部分には太い血管がグロテスクなほどに浮かんでいる。
そんな八月のペニスが、彼の手で開発された僕の肛門に、ゆっくり、ずぶずぶと埋まっていく様は、それだけで僕に興奮をもたらした。
「でも……そのうち柔らかくなるかも……」
「ん、そうだな」
僕は八月「専用」になるよ。そんな気持ちと期待を込めて言えば、寝そべった僕の体の上で八月は薄く笑った。
八月とのセックスは、ひとことで言うとスゴかった。
僕はあられもない、今までに聞いたことのない、切ない高い声を出して背を仰け反らせた。
八月のアルファペニスが僕の直腸を容赦なく突き上げるたびに、僕はほとんど悲鳴に近い嬌声を上げ続けた。
初めは探るような腰運びで優しかった八月も、そのうちに余裕がなくなったのかほとんど無言のまま、僕を乱暴に犯した。でも、それは全然イヤじゃなかった。
このときばかりは八月の世界を独占できているような気がしたから。
体を揺さぶるように八月のペニスが暴れるので、僕のまなじりには生理的な涙が浮かび、いつしか彼の姿もぼんやりとしか見えなくなってしまった。
僕は八月から離れないように、必死で脚を彼の腰に絡めた。
僕の腰は八月の乱暴なピストンを受けて、ベッドの上で何度も跳ねた。
けれども八月に頑張ってしがみついていたお陰か、彼のペニスが僕の中からすっぽ抜けるようなことはなかった。
そして僕は気がつけばもう何度も射精していた。たぶん、終わりの方はドライでイッていた気がする。
それくらい、八月との初めてのセックスは激しいものだった。
「んっ?! あ、ひゃぅっ、あぅ、あ、なに……? なんかおおきくなって……?!」
「……ん? ああ、すまん。忘れてた」
「ひぇ……なに、これ……」
「亀頭球だ」
「きと……え? ――あ、あうっ、おおきくなってる……!」
話には聞いていた。アルファにはペニスの根本近くに亀頭球というのがあるのだと。
八月の射精が近くなると、亀頭球が大きくなって、僕の肛門をふさいでしまったのだ。
僕には八月の精子を受け止める器官を持たないのに、彼の亀頭球は妊娠の確率を上げるべく、健気に嵩を増して行った。
そこからがスゴかった。
「ん、ひ、あつっ……今、出てる、よね……? 八月の精液……。いっぱい……」
「ああ。たぶん抜けるまで最低でも一〇分はかかる」
「え? 一〇分もかかるの?」
僕の直腸内で、ビクビクと八月のペニスが跳ねているのがわかった。
そしてその鈴口からは勢い良く精液がほとばしっているのだろうということも。
ビューッビューッとお腹の中から音が聞こえてきそうな勢いで、僕は八月の容赦のないアルファらしい射精を受け止めるハメになったのだった。
けれどもこれは、正直に言ってかなり興奮した。まるでオメガにでもなれたような気になれたから。
そして長いあいだ結合状態を保ったままだとすることがない。だから八月は僕の中に容赦のない射精をしながら、僕のペニスを弄び始めた。
そういうわけで八月の射精が終わるまでのあいだに、性感を覚えたばかりの僕は、二度もイかされてしまった。
無様なことに僕は二度の射精が終わる頃には疲労困憊で、その後はぼんやりとした意識を保っていたものの、気がつけば寝落ちしてしまっていたのだった。
僕と八月の初体験はそんな感じで若干ぐだぐだなまま、終わった。
そして思春期の有り余る性衝動のままに体を重ねること、もはや数え切れず……。
僕と八月は友達だけれど恋人ではない。だから、この関係を正確に言い表すならば「セックスフレンド」になるのだ。
「セックス『だけの』フレンド」じゃなくて、「セックス『もする』フレンド」と言った方がより正確だろうか。
僕はそれを不満に思ったことはなかった。
だって、セックスを抜きにしても、八月との関係はあまりにも恵まれすぎているから。
だから、今まで不満なんて抱いたことはなかった。
そう、今までは……。
あからさまではないにしても、オメガと類推するにはじゅうぶんな低身長に、女性のような柔和な体の線。
くりくりとした目は子リスを思わせる愛らしさと、純粋さを恥ずかしげもなくたたえている。
「あ、八月! えー? おれ八月の席の隣なのー? 参ったなー」
「……うるさい。ヒナタ。さわいでないで早く座れ」
時期外れの新しいクラスメイトとして紹介された場で、宇野ヒナタは早くも他のクラスメイトたちをざわめかせる。
無視することはないにしても、会話を最低限の言葉で済ませようとする八月が、知らんフリをせずに宇野ヒナタの相手をしたのだ。
僕もぎょっとして最後尾列に席を持つ八月と宇野ヒナタの方を振り返った。たいていのクラスメイトが、そうしていた。
「もー相変わらず八月はそんな感じなんだから……もうちょっと愛想よくしてもいいと思うんだけど?」
「……大きなお世話だ。早く座れ」
しかも、あろうことか八月は隣の空席となっていたイスを、わざわざ後ろに引いて見せたのだ。他でもない、宇野ヒナタのために。
厭世家のケがある八月が、他人の世話を焼くような真似をするなんて――。そう広くはない教室が、一瞬だけどよっとした。
「あ、おれと八月はイトコなんです。イトコ。そんで幼馴染なんです。ごめんなさーい。久しぶりに会えてテンション上がっちゃって……あ、ホームルーム続けてくださーい」
マシンガンのようにそれだけまくし立てると、ようやく宇野ヒナタは自席に腰を下ろして、大人しくなった。
けれどもクラスメイトたちはホームルームどころじゃない。
急に現れた、神秘に包まれた八月のイトコを自称する宇野ヒナタの存在に興味津々、小声でおしゃべりを交し合っている。
担任の教師はそれをどうにかこうにか収めたが、朝のホームルームが終われば、今度はあちらこちらでひとの塊ができて、八月と宇野ヒナタの話題でもちきりになった。
もちろん当人である宇野ヒナタと、それからこれをいいキッカケとでも思った信奉者たちが、隣の席に座る八月に声をかけるべく人垣をなした。
「おれ、ちょっと前の学校で事件に巻き込まれちゃってさー。母ちゃんがそれで心配だって言うから転入して今は八月の家に居候してるんだ。うんそう。一つ屋根の下~ってやつ? ハハ、でもそう言っても別におじさんたちもいるしね~」
宇野ヒナタは直截な物言いが爽やかな印象の少年だった。
物言いにためらいがないが、底意地の悪さは感じられない。
明快でパッと明るい性格だが、逆にそれが見た目の可憐さとはアンバランスで、「俺が」守ってやらねばというような庇護欲をかき立てる感じだ。こういうのもギャップ萌え、というのだろうか?
人垣を形成するクラスメイトたちは宇野ヒナタに興味津々だった。けれどもだれも、さすがに彼の性別について問い質す者はいなかった。
けれどもみんな、なんとなくわかっていた。
宇野ヒナタはオメガだ。
「前の学校での事件」とやらも、きっとオメガ性にまつわるものなのだろうと、この場にいるだれもが邪推をしていた。
そうでなければ夏休みに入る前の奇妙な時期にわざわざ転校して、従兄の実家にまで引っ越して居候する理由がわからない。
だからみんな、宇野ヒナタはオメガだと邪推して、決めつけていた。
「イタッ」
「……あんまりべらべらしゃべるな」
「え~? いいじゃん。おれ、こっちに友達いないしさー。あ、それとも嫉妬? 嫉妬しちゃった? ――ってまた叩いたあ!」
際限なく話し続ける宇野ヒナタに、個人情報を垂れ流しすぎだとでも感じたのか、隣の八月からストップがかかる。
その所作ひとつひとつを見ても、ふたりは親しい間柄だというのがわかる。
八月は僕にはあんまり触れない。……外では。宇野ヒナタのように気安く触れてはくれない。
じわじわと、焦燥感のようなものが僕の体の下から上ってくるようだった。
けれども僕には、最後の砦があった。
宇野ヒナタよりもずっとずっと八月のことに詳しいんだという自負を守る、最後の砦が。
僕と八月は友達だ。けれど、普通の友達とはちょっと違う。
僕は八月にその身をゆだねることがしばしばあった。
つまり、僕と八月はセックスフレンドでもあったのだ。
初めて出会ってからわりとすぐ、僕たちはそういう関係になった。
小説の原稿を読んで欲しいからという理由で、僕は武家屋敷に似た広大な邸宅を持つ長峰家に足を踏み入れた。
そこから、なにがどうなってそうなったのか、僕の記憶は曖昧だ。
誘ってきたのは八月からだったことは、覚えている。
「ふうん。雪宗ってあんまり毛が濃くないな……」
「そ、そんなこといちいち言わなくていいよっ」
「ちんこは皮被ってる。……なあ、セックスしたことある?」
「あ、あるわけないじゃん……」
当時、僕たちは中学一年生も終わりの頃という時期に身を置いていた。
ちょっと前まで小学生だったのだ。だからそんな経験――つまりセックスの――なんてあるハズないと僕は主張したかった。
けれども八月の美貌と体格ならば、既に経験を済ませていてもおかしくはないなと思い直す。
八月の身長は中学一年生にして一七〇センチを超えていた。ただ、胸板の厚さなんかはまだまだ中学生らしかったけど。
手だって僕のようにぷくぷくした感じが残った手ではなく、骨ばった、男の手をしていた。
そんな僕とは違う手が、僕の両脚をつかんで大きく股を開かせている――。
その光景だけで、僕は恥ずかしさで失神してしまいそうだった。
一方で、心臓は切なく鼓動を打ち、期待に胸は膨らむ。
そして素直なのは僕の股間にぶら下がっているものも同じだった。
……が、結論から言ってしまうと、このとき僕は処女卒業とはならなかった。
八月の付け焼刃の準備のお陰で、コンドームを被せた彼の指は三本までは入ったが、それ以上は僕には痛くて無理だったのだ。
けれども、その「拡張」作業の中に、僕は痛み以外のもどかしい感覚も見出していた。
それが快楽なのだと知るのは、何度か「拡張」作業を繰り返してからだ。
苦しくて苦しくて仕方ない一方で、肛門を拡げられ、直腸に指を差し込まれる感覚は、もどかしい快楽を僕にもたらした。
「はあ、はあ……はぅっ……ううー……」
既に八月への恋心を自覚していた僕は、彼が施す拡張作業に耐えた。
何度も何度も時間をかけて僕の肛門は八月の指を飲み込み、コンドームのゴム膜越しに彼の長い指を締め上げた。
「八月はなんでこんなことしたいの? 僕でいいの?」
そう言いたいのを何度か我慢した。
もし八月から「気まぐれ」とか「雪宗だったら黙ってくれそうだから」なんて、ロマンチックさの欠片もない言葉が返ってきたら、僕はきっと落ち込むだろうから。
だから僕は黙って八月の拡張作業に耐えた。
そうすると不思議なことに段々と肛門に指を入れる行為で、オナニーができるようになった。アナニーってやつだ。
もちろんペニスをしごかないと到底イけない程度の快楽しか、肛門からは得られなかったけれども。
しかしなんにせよ前進した。
いつか八月に抱かれるオメガはこんな気分なのかなと考えると、なんだか盛り上がった。興奮した。
八月の指を僕の肛門が飲み込む。その、異物感がやがて明確な快楽に変わったころ、僕は八月と念願のセックスをした。
「あ~……ちょっとキツイかもな。食いちぎられそう……」
僕のアナルバージンを捧げた八月のペニスは、僕のものより立派だった。
皮を被っていない亀頭は赤黒くて、竿部分には太い血管がグロテスクなほどに浮かんでいる。
そんな八月のペニスが、彼の手で開発された僕の肛門に、ゆっくり、ずぶずぶと埋まっていく様は、それだけで僕に興奮をもたらした。
「でも……そのうち柔らかくなるかも……」
「ん、そうだな」
僕は八月「専用」になるよ。そんな気持ちと期待を込めて言えば、寝そべった僕の体の上で八月は薄く笑った。
八月とのセックスは、ひとことで言うとスゴかった。
僕はあられもない、今までに聞いたことのない、切ない高い声を出して背を仰け反らせた。
八月のアルファペニスが僕の直腸を容赦なく突き上げるたびに、僕はほとんど悲鳴に近い嬌声を上げ続けた。
初めは探るような腰運びで優しかった八月も、そのうちに余裕がなくなったのかほとんど無言のまま、僕を乱暴に犯した。でも、それは全然イヤじゃなかった。
このときばかりは八月の世界を独占できているような気がしたから。
体を揺さぶるように八月のペニスが暴れるので、僕のまなじりには生理的な涙が浮かび、いつしか彼の姿もぼんやりとしか見えなくなってしまった。
僕は八月から離れないように、必死で脚を彼の腰に絡めた。
僕の腰は八月の乱暴なピストンを受けて、ベッドの上で何度も跳ねた。
けれども八月に頑張ってしがみついていたお陰か、彼のペニスが僕の中からすっぽ抜けるようなことはなかった。
そして僕は気がつけばもう何度も射精していた。たぶん、終わりの方はドライでイッていた気がする。
それくらい、八月との初めてのセックスは激しいものだった。
「んっ?! あ、ひゃぅっ、あぅ、あ、なに……? なんかおおきくなって……?!」
「……ん? ああ、すまん。忘れてた」
「ひぇ……なに、これ……」
「亀頭球だ」
「きと……え? ――あ、あうっ、おおきくなってる……!」
話には聞いていた。アルファにはペニスの根本近くに亀頭球というのがあるのだと。
八月の射精が近くなると、亀頭球が大きくなって、僕の肛門をふさいでしまったのだ。
僕には八月の精子を受け止める器官を持たないのに、彼の亀頭球は妊娠の確率を上げるべく、健気に嵩を増して行った。
そこからがスゴかった。
「ん、ひ、あつっ……今、出てる、よね……? 八月の精液……。いっぱい……」
「ああ。たぶん抜けるまで最低でも一〇分はかかる」
「え? 一〇分もかかるの?」
僕の直腸内で、ビクビクと八月のペニスが跳ねているのがわかった。
そしてその鈴口からは勢い良く精液がほとばしっているのだろうということも。
ビューッビューッとお腹の中から音が聞こえてきそうな勢いで、僕は八月の容赦のないアルファらしい射精を受け止めるハメになったのだった。
けれどもこれは、正直に言ってかなり興奮した。まるでオメガにでもなれたような気になれたから。
そして長いあいだ結合状態を保ったままだとすることがない。だから八月は僕の中に容赦のない射精をしながら、僕のペニスを弄び始めた。
そういうわけで八月の射精が終わるまでのあいだに、性感を覚えたばかりの僕は、二度もイかされてしまった。
無様なことに僕は二度の射精が終わる頃には疲労困憊で、その後はぼんやりとした意識を保っていたものの、気がつけば寝落ちしてしまっていたのだった。
僕と八月の初体験はそんな感じで若干ぐだぐだなまま、終わった。
そして思春期の有り余る性衝動のままに体を重ねること、もはや数え切れず……。
僕と八月は友達だけれど恋人ではない。だから、この関係を正確に言い表すならば「セックスフレンド」になるのだ。
「セックス『だけの』フレンド」じゃなくて、「セックス『もする』フレンド」と言った方がより正確だろうか。
僕はそれを不満に思ったことはなかった。
だって、セックスを抜きにしても、八月との関係はあまりにも恵まれすぎているから。
だから、今まで不満なんて抱いたことはなかった。
そう、今までは……。
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