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突然すぎて付いていけないです!

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「着いたぞ。ここだ」

 歩夢が声を発するよりも先に小田原が声をあげ、意識が窓の外の景色へと向いた。
 到着したのは都心に近いところにある高層マンション。立地にしても外観にしても高級感が漂っており、一人暮らしの経験がない歩夢であっても、気軽に「ここに住もう」と言って住める場所ではないのだろう……という事だけは想像できた。

「良い所に住んでるね?」
「まぁな。それなりに稼がせてもらってるもんで」

 謙遜するでもなく、あっさりと認めるところがなんとも小田原らしいと思った。

 決められた駐車スペースで車を停めて、そのままエレベーターに向かう。自分から誘いをかけたようなものなのだが、これからすることを考えると、歩夢の口数は自然と減っていた。普段は事ある毎に、からかい混じりの軽口を叩いてくる小田原が、不気味なまでに口を噤んでいるのも原因の一つかも知れない。

(な、なんか、今更緊張してきた、かも……)

 勢いで練習相手になってくれ! なんて言ってみたものの実際にこうして、相手のプライベートに足を踏み込む状態になって初めて、自分がとんでもない提案をしていることに気付き始める。歩夢が一人でぐるぐると思考を巡らせていても、エレベーターは無情なまでに機械的に二人を目的の場所へと運んでしまう。淀みなく進む小田原の背を追いかけて、恐らく小田原宅なのだろう扉の前までたどり着く。
 カチャカチャと鍵を開く音が、異様に大きく響いているような気がした。「ん」と顎でしゃくって、中に入れと促す小田原に、歩夢はカチコチになった身体を必死に動かして扉をくぐる。

「ほとんど来客なんてないからな、スリッパなんて高尚なものは用意してないぞ。そのまま正面にある扉の先がリビングだから」
「う、うん。わかった……」

 日々のルーティンなのだろうか。玄関に置かれたトレイの上に鍵を置くと、小田原はその場で腕時計を外していた。歩夢がその姿をじっと見つめていると、それに気付いた小田原がさっさと行けとばかりに手を振って追い払うような仕草を見せる。
 家主より先にリビングに足を踏み入れることに気後れしたが、それ以上待っていたところで小田原の機嫌を損ねるだけだろうと判断した歩夢は、ゆっくりと廊下を進むと扉に手をかけた。

(何もない……)

 廊下から差し込む光で室内の様子が薄っすらと伺える。成人男性の一人暮らしとは、こういうものなのだろうか。薄型テレビに、ローテーブルとソファ。観葉植物や娯楽に繋がるようなものは見える範囲で何もなく、モノトーンでまとまった部屋はまるでモデルハウスのようで生活感があまり感じられなかった。
 合理性のみを追及したようなシンプルな部屋に呆気に取られ、廊下とリビングを繋ぐ道を塞ぐように棒立ちになったままでいると、後ろから追いついてきた小田原に声をかけられた。

「歩夢」
「あっ、ごめ……ンっ、」

 名前を呼ばれてハッと意識を取り戻した歩夢は、邪魔だっただろうかと身体を端に寄せるように動くが、その腕を思いがけず強く引き寄せられ、気付いた時には唇を奪われていた。

 がぶり、と喰いつくように覆われて、気付いた時には唇を割って侵入してきた熱い舌に、己のそれを絡み取られる。突然の行為に驚いて思わず身を捩れば、逃げないようにきつく腰を抱きこまれてしまった。
 女子大生に襲い掛かられた時も、セクハラまがいの行為で迫られた時も、頑ななまでにあらゆる貞操を死守してきた歩夢にとって、先日の小田原と交わした口づけが初めての経験だった。初めからフルスロットルの行為は、気持ち悪いだなんて感じる間もない程、強烈なまでの快感を歩夢にぶつけてきた。
 ただただ、小田原に与えられる快感に溺れそうになりながら、必死で息継ぎを繰り返す。

 するりと流れるように臀部を撫でられて、歩夢の身体がビクンッと跳ねた。

「っん、ま、まって……先に、お風呂とか……っ」
「どうせ汚れる。そんなの後でいいだろ」
「えぇっ……?! で、でも……ぁっ、ぅぅんッ♡」

 まだ何の反応も示していない歩夢の性器に、筋肉で引き締まった太ももを擦りつけて悪戯に刺激する。ここまで大人しく付いてきたくせに、土壇場になって何かと理由を付けては逃げようとする歩夢の姿に、小田原は唇の端を引き上げる。

「ミオとレイジもセックス前に風呂なんて入ってないだろ。変なとこ気にする前に、気持ちいいことに集中」
「でも……ぁ、まって、……っん」

 戸惑うように背けられた小さな顔の、顎を掬い取る。顔を真っ赤にさせながら、あうあうと口を開閉させる様にふっと小さく息を吐くと、小田原は再び顔を寄せていった。



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