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とんでもないことになりそうです!
しおりを挟む『あっ! あんっ♡ だめっだめぇ……イっちゃうっ♡』
『アアン? これくらいでへばってんじゃねぇぞ……!』
『いやぁんっ♡ はぁっ、もっと……っ♡ んぅ♡ 好きっ、大好き……っ……んンっ……♡』
『オラっ、オラっ! このまま尻だけでイけ!』
『ああああっ♡ ほんとにイっちゃうぅっ♡ じゅぽじゅぽ、だめ……っ気持ちい……っ♡ やぁぁぁぁっ♡♡♡』
――ブチッ!
そこまで聴いて、歩夢は思わず震える手で停止ボタンを押していた。
「な、なにこれ……」
へッドホンで聴いていて、本当に良かったと思う。はじめはそれこそ良くある日常風景の描写から始まった。アニメのように映像がない分、キャラクターの台詞には説明的な言葉が多くあること以外は、さして違和感を感じることなく物語が進んでいたのだが、二人の気持ちが重なったと思われた瞬間からいきなり濡れ場がスタートした。
ずっちゅ、ずっちゅ、と耳慣れないいやらしい水音が響き始め、先ほどまで愛を囁き合っていた恋人たちが淫らな台詞を叫びながら睦み合う。主演声優たちの迫真の演技もあって、パッケージに描かれていた二人が絡み合っている情景が頭に浮かび、歩夢は顔を真っ赤に染めながら大きく頭を振った。
(BLCDって、こんなに激しいの?! ていうか、え、エッチなシーンもあるなんて聞いてない!)
実年齢よりも若く幼く見える容姿をしているが、既に成人済みの歩夢である。それなりの知識はあるつもりだったが、残念ながらそういった行為に及んだことは今まで一度もなかった。普段から性欲もあまり感じることのないタイプであるが故に、自己処理も数えるほどの経験しかなく、積極的にいわゆるアダルトコンテンツに手を出すことはなかった。
「こんなの、俺に出来るのかな……?」
ぽつりと呟いた小さな声は、そのまま他に誰もいない部屋の中で霧散した。頭では先ほど初めて聴いた男性声優の嬌声が響き続け、なんとも言えない悶々とした気持ちを抱えたまま布団を頭から被る。
その夜はいつまで経っても眠気は訪れず、歩夢がようやく眠りについたのは、辺りを新聞配達のバイクが走る頃。既に明け方近くになってからだった。
◇◇◇
次の日の朝、車で家まで迎えに来ていた小田原は、玄関から出てきた歩夢の顔を見て思い切り顔を顰めた。
「なんか目ぇ充血してるけど? 隈も酷いし、顔色もよくない」
「……なんでもないよ」
「なんでもないって……。ったく、プロなら体調管理もしっかりしろよな」
「っ、言われなくてもわかってるよ……! ちょっと遅くまで台本読んじゃっただけだってば!」
待たせていたのは自分なのに、歩夢は遅刻するよ! と運転席にいる男を急かす。時間にはまだまだ余裕があったが、渋々と歩夢から視線を外しハンドルを握った小田原は、静かにアクセルを踏んだ。自分を見つめる責めるような視線が無くなったことにホッと肩の力を抜いた瞬間、溢れそうになる欠伸を歩夢は必死で噛み殺す。
「ねぇ、今日は誰と顔合わせするんだっけ」
共演者だと言っていた筈だが、たしか名前までは聞いていなかったはず。誤魔化すようにそんな質問を投げかければ、呆れたような声色で小田原が答えを返す。
「確か……永瀬翔大だったか? お前の相手役だよ」
「なっ、永瀬翔大?! 嘘……っ」
「っ、うるせーな! 耳元でデカい声出すなよっ。知ってんのか?」
「知ってるも何も……俺の憧れてる声優の一人だよ……!」
後部座席から乗り出すようにして顔を見せる歩夢に、小田原は危ないからちゃんと座れと叱責する。歩夢はわずかに頬を染めながら、心ここにあらずな様子で再び座席に座り直した。
「昨日渡された企画書に書いてあっただろ。見てないのかよ」
「き、昨日は帰ってからすぐサンプルCDを聴いて、いろいろ考え事してたから……」
「ふーん? いろいろ、ねぇ」
たしかに帰る前に企画書だと言って渡された書類があったことは覚えているが、残念ながらそれは一度も開かれることなく今も歩夢の鞄の中にしまわれている。
まさか自分の相手役になる人が憧れの声優だとは思いもよらず、信じられない現実に悩みも不安も全て吹き飛んだ歩夢は、幸せな巡り合わせに心から感謝した。
「すごい。本当に永瀬さんと会えるんだ……」
企画書に書かれたもう一人の主役の名前を見て、歩夢は感極まった声でそう呟いた。
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