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第36話 自分の姿

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(なんだここは…?僕は何をしていたんだっけか…)

 薄暗い…何も思い出せない…
 でも、この場所には見覚えがある。このジメジメとした感じ――心地良い。
 今はとにかく腹が減った。何か食べないと――
 下に何かが見える。あれは人間…か?
 どうやら自分は高い場所にいるようだ。
 体が重い。壁を這いずって下へと降りる。
 降りたところでその人間と鉢合わせた。

(ずいぶんおかしな髪型をした奴だな…)

 それに何かを叫んでいる。うるさい――
 気付いた時にはソイツへ襲い掛かっていた。
 同時に鋭い痛みが走る――
 何か尖った物で腹部を刺されたらしい。
 力無くその場に倒れた。
 身体が動かせない――自分はこのまま死ぬのだろう。
 薄れ行く意識の中、ソイツと目が合った。

(僕…?)

 まるで鏡でも見ているようだ。 
 そこに立っていたのは、自分の姿をした生き物…
 いや、間違いない…あれは…僕だ。

(こんなところで何してるんだお前は…)

 二人はまだ――
 僕は――何を――

「――っ!?」

 ハロルドは目を覚ました。
 やはりあの洞窟の中だ。
 夢を見ていたらしい。
 妙に生々しい夢――
 だというのに、どこか他人事のような――
 
(というか寝てる場合じゃないだろ!)

 起き上がり、辺りを見回す――
 薄暗い。

(そうだ、タイマツ…!)
 
 急いで火をつける。
 照らされる奴等の死骸――

 そして、ハロルドは安堵する。
 そこには、座り込むアロイとシアンの姿が。
 逃げた奴等が帰ってきた様子も無い。
 二人に歩み寄った。

(よかった…呼吸はある…)

 ハロルドには奴等の毒がどんなものなのか知る由もない。
 それが不安だった。
 だが、シアンはアロイの腕の中でくるまって、寝息を立てている。
 その姿を見て胸を撫で下ろした。

(呑気な奴だ…)

 彼女の寝顔を見て、ハロルドはなんだか力が抜けた。

 するとアロイがこちらに気付き、顔を上げる。
「よう。」といった様子の表情だ。

「動けそうか…?」

 ハロルドの言葉に対し、アロイはゆっくりと首を横に振った。
 そして、シアンに視線を向ける。

「嬢ちゃんも…この通り…だしな…」
「そうか…わかった。」

 ハロルドは、二人が動けるようになるのを待つつもりだった。
 その場に腰掛けようとしたのだが、アロイの言葉に動きを止める。

「ぼっちゃんには…やることがあるだろ?…俺達は大丈夫だ…」

 アロイは片手で剣を振るって見せた。 

「いや、しかし…」

 正直、本来の目的である遺品捜しは諦めていた。
 二人を置いて行くのも気が引ける。
 でも、ここまで二人を巻き込んだ以上やらないわけにもいかない。

「すぐに戻る…」

 後ろ髪を引かれる思いで、ハロルドはその場を後にした。
 タイマツで照らしながら歩みを進める。
 心当たりがあったのだ、目的の場所に。
 死んでしまった彼等、兵士や従者達の…亡骸の居場所に。
 奴等の巣の奥――

 慣れたとばかり思っていたが、それは酷いものだった…
 巣の奥に見つけたのは、壁が抉れたような横穴。
 そこに山のように積まれた残骸…
 奴等の吐き出した、獲物の骨…

(この…中に…)

 タイマツの灯りに照らされたソレを見つめ、ハロルドはしばらく動けなかった。
 その光景に、立ち尽くすしか無かった――
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