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第35話 バケモノ
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それからも奴等とハロルドの戦いは続いていた…いや、戦いと呼べる物でもない。
ただの、醜い殺し合い――――
ハロルドに毒が効かないと見るや、バケモノの内の何匹かは逃げ出した。
奴等には獲物と真っ向から対峙できるような身体能力など無い。
動きはノロく、目立った“武器”も無い。
必要無いからだ。
せいぜい細い手足を振り回し、爪で引っかくか、噛み付く程度か。
相手に毒さえ浴びせれば、それだけで決着は着くのだから。
傷を負わせてきた相手はその返り血で、その毒で、勝手に動きを止める。
群れに危険が及ぶと察知した場合には、群れの内の数匹に自らの命を捧げさせる。
そうやって毒を浴びせるのだ。
動けなくなった獲物を弄ることしか知らない。
それしか知らないのだ。それ以外能が無い。
だからこそ逃げた。
しかし、逃げたといっても少数である。
すぐそこに、動けない獲物が二匹もいるのだ。みすみす逃すはずも無い。
目の前の人間の事は無視だと言わんばかりに、バケモノ共がシアンとアロイに襲い掛かった――
そして、ハロルドもそれを黙って見過ごすわけが無い。
自らの身体を盾にし、二人を庇う。
――ブシッ
飛び散ったのはハロルドの血だ。
わざと自分に喰い付かせ、奴等の動きを止める。
その隙に、ソイツの体に刃を突き立てる。
ドヂュッ!――――
今度は奴等の血が飛び散った。
ソイツが動かなくなるまで、何度も突き刺す――
その後も大口を開けながら、次々と迫ってくる奴等に自ら飛び込む。
気にする事は無い。肉を抉られようと、傷は治るのだ…
身体に喰い付かせ、刃を突き立てる…
何度も…何度も…何度も――――
奇しくもそれは、ハロルドがこれまで幾度と無く見てきた光景に似ていた。
奴等に喰われてしまう夢…毎晩うなされたあの悪夢に。
あれほど怯えていたというのに、今は何も感じない。
二人を守るにはどうすればいいのか、奴等をどうやって殺せばいいのか、それしか頭に無かった。
「寄ルなァアアアアアッッ!!!!!!」
二人から遠ざけようと、ほとんど奇声に近い声を上げながら、剣を振り回す――
その様相は、もはや人間ではない。
瞳をギラつかせ、血に濡れた、一匹の獣。
いくら毒を浴びようと意にも介さず、どんな傷を受けようと怯む事が無い――
バケモノ達はたじろいだ。
次に殺されるのは自分かもしれない――と。
奴等には最早、彼こそ“バケモノ”に見えていた。
それは、奴等が他の生き物に対して初めて抱いた『恐怖』なのだ。
早々に逃げ出してしまった最初の数匹の判断は正しかった。
そこから始まったのは、目を背けたくなるような凄惨なものであった――
奴等の動きが弱まったと見るや、ハロルドは近くに居た一匹に飛び掛かる。
お返しだと言わんばかりにメッタ刺し、肉を抉り、引きちぎる。
二度と立ち向かう気など起きないように…徹底的に…
逃げ出す奴等の事など構いもしない、それが狙いなのだから。
ハロルドは、当の昔に限界を越えていた。
傷は治るが、血は失われる。
力も無限に使えるわけじゃない。
それに、痛いものは痛い。
我慢強い性格でもない。忍耐力も無い。
一人のちっぽけな人間だ。
今の彼はただの気力だけで立ち上がり、闘っていた。
それでも襲い掛かって来る奴は居る。
奴等も生き残ろうと必死なのだ。
どちらかが先に動かなくなるまで続く…
それは、ただの醜い殺し合い――――
◇◇◇◇◇◇
シアンの剣は便利なものである。
切れ味もさることながら、いくら奴等の骨を斬り付けてしまおうと刃こぼれ一つしない。
ハロルドがそのことに気付いたのは、動くバケモノ共が居なくなった後の事だ。
彼の周りには、奴等の死骸が無数に転がっていた――――
視界が揺れる、頭もハッキリしない。
腕も上がらないし、足に力が入らない。
ここで倒れるわけにはいかないというのに…
逃げた奴等がいつ戻ってくるかもわからない。
動けない二人を置いて自分まで気を失えば、その時こそ終わりだ。
三人とも喰われてお仕舞いだ。
それに、本来の目的がまだ残っている。従者達の遺品を捜すという目的が…
ハロルドは必死で耐えていた。
しかし、彼の意識はだんだん遠くなる――
そうしてとうとうハロルドは、ドサッ――と地面に横たわると、眠るように意識を喪った――――
ただの、醜い殺し合い――――
ハロルドに毒が効かないと見るや、バケモノの内の何匹かは逃げ出した。
奴等には獲物と真っ向から対峙できるような身体能力など無い。
動きはノロく、目立った“武器”も無い。
必要無いからだ。
せいぜい細い手足を振り回し、爪で引っかくか、噛み付く程度か。
相手に毒さえ浴びせれば、それだけで決着は着くのだから。
傷を負わせてきた相手はその返り血で、その毒で、勝手に動きを止める。
群れに危険が及ぶと察知した場合には、群れの内の数匹に自らの命を捧げさせる。
そうやって毒を浴びせるのだ。
動けなくなった獲物を弄ることしか知らない。
それしか知らないのだ。それ以外能が無い。
だからこそ逃げた。
しかし、逃げたといっても少数である。
すぐそこに、動けない獲物が二匹もいるのだ。みすみす逃すはずも無い。
目の前の人間の事は無視だと言わんばかりに、バケモノ共がシアンとアロイに襲い掛かった――
そして、ハロルドもそれを黙って見過ごすわけが無い。
自らの身体を盾にし、二人を庇う。
――ブシッ
飛び散ったのはハロルドの血だ。
わざと自分に喰い付かせ、奴等の動きを止める。
その隙に、ソイツの体に刃を突き立てる。
ドヂュッ!――――
今度は奴等の血が飛び散った。
ソイツが動かなくなるまで、何度も突き刺す――
その後も大口を開けながら、次々と迫ってくる奴等に自ら飛び込む。
気にする事は無い。肉を抉られようと、傷は治るのだ…
身体に喰い付かせ、刃を突き立てる…
何度も…何度も…何度も――――
奇しくもそれは、ハロルドがこれまで幾度と無く見てきた光景に似ていた。
奴等に喰われてしまう夢…毎晩うなされたあの悪夢に。
あれほど怯えていたというのに、今は何も感じない。
二人を守るにはどうすればいいのか、奴等をどうやって殺せばいいのか、それしか頭に無かった。
「寄ルなァアアアアアッッ!!!!!!」
二人から遠ざけようと、ほとんど奇声に近い声を上げながら、剣を振り回す――
その様相は、もはや人間ではない。
瞳をギラつかせ、血に濡れた、一匹の獣。
いくら毒を浴びようと意にも介さず、どんな傷を受けようと怯む事が無い――
バケモノ達はたじろいだ。
次に殺されるのは自分かもしれない――と。
奴等には最早、彼こそ“バケモノ”に見えていた。
それは、奴等が他の生き物に対して初めて抱いた『恐怖』なのだ。
早々に逃げ出してしまった最初の数匹の判断は正しかった。
そこから始まったのは、目を背けたくなるような凄惨なものであった――
奴等の動きが弱まったと見るや、ハロルドは近くに居た一匹に飛び掛かる。
お返しだと言わんばかりにメッタ刺し、肉を抉り、引きちぎる。
二度と立ち向かう気など起きないように…徹底的に…
逃げ出す奴等の事など構いもしない、それが狙いなのだから。
ハロルドは、当の昔に限界を越えていた。
傷は治るが、血は失われる。
力も無限に使えるわけじゃない。
それに、痛いものは痛い。
我慢強い性格でもない。忍耐力も無い。
一人のちっぽけな人間だ。
今の彼はただの気力だけで立ち上がり、闘っていた。
それでも襲い掛かって来る奴は居る。
奴等も生き残ろうと必死なのだ。
どちらかが先に動かなくなるまで続く…
それは、ただの醜い殺し合い――――
◇◇◇◇◇◇
シアンの剣は便利なものである。
切れ味もさることながら、いくら奴等の骨を斬り付けてしまおうと刃こぼれ一つしない。
ハロルドがそのことに気付いたのは、動くバケモノ共が居なくなった後の事だ。
彼の周りには、奴等の死骸が無数に転がっていた――――
視界が揺れる、頭もハッキリしない。
腕も上がらないし、足に力が入らない。
ここで倒れるわけにはいかないというのに…
逃げた奴等がいつ戻ってくるかもわからない。
動けない二人を置いて自分まで気を失えば、その時こそ終わりだ。
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それに、本来の目的がまだ残っている。従者達の遺品を捜すという目的が…
ハロルドは必死で耐えていた。
しかし、彼の意識はだんだん遠くなる――
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