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第25話 獣
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辺り一面どこを見回しても緑、緑…
おまけに奇妙な形の生き物や、見たことも無い植物だらけ。
天辺もわからぬ程の巨大な木々達はいつからここにあるのだろう。その表面はほとんど苔に覆われていた。
彼らが隠しているせいで、上を見上げても空などほとんど見えない。昼間だろうと薄暗い。
そんな樹海の中を行く、影が2つ――
一人の男はとても大柄だ。肌は色黒で、頭は綺麗にハゲあがっている。
その後ろを歩くもう一人の男。前の男とまでは言わないが、彼もそれなりの体格だ。
なんだか特徴的な髪型をしている…
それは、食糧調達中のアロイとハロルドであった。
ハロルドは数ヶ月に渡る地獄のシゴキのおかげで、人並みの筋力と運動能力を手に入れたのだ。
こうして度々外に連れ出されるようになった。
今の彼を見て貧相な身体だと思う者は居ないだろう。
ただ…ご自慢のキノコ頭は髪が伸びきり、ボサボサのおかっぱ頭になっている。
本人はもう気にしていないが、以前のキノコ頭より変であった。
「ここもダメだ。こりゃあ今日も肉は無しだな。」
アロイの仕掛けておいた罠を確認しにきていたのだ。
冒険者だった現役時代に覚えたらしい。
自然物を使った罠。獲物を捕獲するための物だ。
ナイフさえあれば出来るのだとか。
「それじゃあいつもみたいに、木の実やら虫でも集めますかね。」
アロイに付いて食料調達に出たのはこれで何度目になるのだろうか。
最近はもっぱらこんな感じだ。
なんでもここ数ヶ月は『魔物に襲われる頻度も減ったが、獲物に出会う頻度も減った』のだとか。
実のところ、魔物と獲物の違いはわからない。
ここでは見たこともない生き物にしか出会わないからだ。
襲ってくる連中は魔物、食える奴らは獲物と自分たちで勝手に区別しているだけであった。
それとアロイは『ぼっちゃんが居ると不思議と襲われる頻度が増える』とも言っていた。
(僕は魔物から見ても弱そうに見えるのだろうか…)
その話を初めて聞いたとき、ハロルドは軽くショックを受けたのだった。
帰り道――――
「ぼっちゃん…!」
アロイが手を上げる仕草で、ハロルドの動きを止めた。
息を潜め、周囲を見回す…
(あぁ…またか…)
ハロルドは何となく察していた。
しばらくすると辺りの茂みからガサガサッと音が聞こえてくる。キュルキュルという微かな鳴き声も。
奴等だ…
音を聞く限り、すでに四方を囲まれている。
すぐに終わるとわかっていたが、ハロルドは一応剣を構えた。
初めてソレに遭遇したときは、それはもう大げさに狼狽えたのだが…もはや慣れたものである。
アロイはというと…
気味の悪い笑みを浮かべていた。獲物を見つけた獣の様相だ。
ゆっくりと剣に手を掛ける。
その瞬間、茂みから奴等の内の一匹が飛び出した――
――パァンッ!
それと同時に何かが弾ける音が響く――
アロイによるものだ。
目に見えぬほどの速さで、彼の巨体から放たれた一撃。
その衝撃をモロに受けた為、標的の頭部が弾けたのだ。
斬るというより叩き潰した形であった。
ソイツの残骸がゴロンと地面に転がる。
体躯は狼に近い。全身が群青色のウロコに覆われ、首まわりや尾っぽは羽毛のような毛に包まれている。
辛うじて残った頭部は蛇にそっくりだ。
仲間の末路を目の当たりにし、身の危険を感じたのだろう。複数の何かが遠くへ去って行く音がする…
「やりましたぜぼっちゃん!」
これで肉が食える、とアロイは嬉しそうだ。
しかし、ハロルドの顔は冴えない…
彼はこの生き物が苦手であった。
見た目も理由の一つだが、肉が筋張っていて硬い。
そしてなによりものすごく、臭い…
だが、貴重な食料である。贅沢は言ってられない。
対照的な様子の二人。けれども同じ足取りで帰路に着くのであった。
シアンの待つ、三人の住処へと。
おまけに奇妙な形の生き物や、見たことも無い植物だらけ。
天辺もわからぬ程の巨大な木々達はいつからここにあるのだろう。その表面はほとんど苔に覆われていた。
彼らが隠しているせいで、上を見上げても空などほとんど見えない。昼間だろうと薄暗い。
そんな樹海の中を行く、影が2つ――
一人の男はとても大柄だ。肌は色黒で、頭は綺麗にハゲあがっている。
その後ろを歩くもう一人の男。前の男とまでは言わないが、彼もそれなりの体格だ。
なんだか特徴的な髪型をしている…
それは、食糧調達中のアロイとハロルドであった。
ハロルドは数ヶ月に渡る地獄のシゴキのおかげで、人並みの筋力と運動能力を手に入れたのだ。
こうして度々外に連れ出されるようになった。
今の彼を見て貧相な身体だと思う者は居ないだろう。
ただ…ご自慢のキノコ頭は髪が伸びきり、ボサボサのおかっぱ頭になっている。
本人はもう気にしていないが、以前のキノコ頭より変であった。
「ここもダメだ。こりゃあ今日も肉は無しだな。」
アロイの仕掛けておいた罠を確認しにきていたのだ。
冒険者だった現役時代に覚えたらしい。
自然物を使った罠。獲物を捕獲するための物だ。
ナイフさえあれば出来るのだとか。
「それじゃあいつもみたいに、木の実やら虫でも集めますかね。」
アロイに付いて食料調達に出たのはこれで何度目になるのだろうか。
最近はもっぱらこんな感じだ。
なんでもここ数ヶ月は『魔物に襲われる頻度も減ったが、獲物に出会う頻度も減った』のだとか。
実のところ、魔物と獲物の違いはわからない。
ここでは見たこともない生き物にしか出会わないからだ。
襲ってくる連中は魔物、食える奴らは獲物と自分たちで勝手に区別しているだけであった。
それとアロイは『ぼっちゃんが居ると不思議と襲われる頻度が増える』とも言っていた。
(僕は魔物から見ても弱そうに見えるのだろうか…)
その話を初めて聞いたとき、ハロルドは軽くショックを受けたのだった。
帰り道――――
「ぼっちゃん…!」
アロイが手を上げる仕草で、ハロルドの動きを止めた。
息を潜め、周囲を見回す…
(あぁ…またか…)
ハロルドは何となく察していた。
しばらくすると辺りの茂みからガサガサッと音が聞こえてくる。キュルキュルという微かな鳴き声も。
奴等だ…
音を聞く限り、すでに四方を囲まれている。
すぐに終わるとわかっていたが、ハロルドは一応剣を構えた。
初めてソレに遭遇したときは、それはもう大げさに狼狽えたのだが…もはや慣れたものである。
アロイはというと…
気味の悪い笑みを浮かべていた。獲物を見つけた獣の様相だ。
ゆっくりと剣に手を掛ける。
その瞬間、茂みから奴等の内の一匹が飛び出した――
――パァンッ!
それと同時に何かが弾ける音が響く――
アロイによるものだ。
目に見えぬほどの速さで、彼の巨体から放たれた一撃。
その衝撃をモロに受けた為、標的の頭部が弾けたのだ。
斬るというより叩き潰した形であった。
ソイツの残骸がゴロンと地面に転がる。
体躯は狼に近い。全身が群青色のウロコに覆われ、首まわりや尾っぽは羽毛のような毛に包まれている。
辛うじて残った頭部は蛇にそっくりだ。
仲間の末路を目の当たりにし、身の危険を感じたのだろう。複数の何かが遠くへ去って行く音がする…
「やりましたぜぼっちゃん!」
これで肉が食える、とアロイは嬉しそうだ。
しかし、ハロルドの顔は冴えない…
彼はこの生き物が苦手であった。
見た目も理由の一つだが、肉が筋張っていて硬い。
そしてなによりものすごく、臭い…
だが、貴重な食料である。贅沢は言ってられない。
対照的な様子の二人。けれども同じ足取りで帰路に着くのであった。
シアンの待つ、三人の住処へと。
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