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68_仮拠点でピクニック

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 それから私達は、白煙の樹海から数キロほど離れた場所にある、修道院跡に身を寄せた。


 その修道院は、一本の古木のように、森の奥にひっそりと佇んでいた。ずっと前に修道士達がここを放棄してしまったため、今は誰も住んでいない。

 無人になって長いせいか、石造りの修道院の壁は蔦で覆われ、土台は苔生している。いずれ建物全体が緑で覆われ、森と一体化するのだろう。


「お邪魔しまーす・・・・」


 近隣の村人がいる可能性も考慮して、私は気配を窺いながら、中に踏み込んでいった。


 だけど幸い、修道院の中は無人だった。


「よかった、誰もいないみたい・・・・」

「へえー、こんな場所があったんだ。知らなかった」


 リュシアン達は観光客のように、目を輝かせている。


「よくこんな場所を知ってたな、ボス」

「小さい頃に、この辺りを散策していて、偶然見つけたの」


 この建物は幼い頃、従者と一緒にこの辺りを散策していた時に、偶然見つけた。森の一部となろうとしている修道院に神秘性を感じたから、大人になった今でも、この建物の記憶は頭の片隅に残っていたのだ。


 後になって、この小さな発見が思わぬ形で役立つことになるなんて、子供だったあの頃には、夢にも思っていなかった。


 修道院の内部は狭く、すぐに突き当りの部屋に行き着いた。奥の部屋にはベッドが並べられ、暖炉もある。



 夜を明かすならこの部屋が一番だと思い、私は身を翻して、仲間達に向きなおった。


「しばらくは、ここを宿代わりにするしかないわ。眠る準備をしましょう」

「ええ・・・・ここで寝るの・・・・?」


 埃とかびにまみれた内部の様子を見て、リュシアン達は肩を落とす。


「次の拠点を見つけるまでの辛抱よ。屋根があるだけ、まだマシでしょ?」

「それもそうだな」


 魔王城を出た直後は、野ざらしの場所で夜を過ごすことを覚悟していたから、屋根がある建物を確保できただけ、マシだった。


「寒いよー、ボス!」


 魔王城は寒いから、という理由でついてきたテルセロが、さっそく抗議してきた。


「わかってる。火を熾しましょう。暖炉があってよかったわ」


 その部屋には暖炉があり、比較的新しい薪も残っていた。最近、私達以外にも、ここをテント代わりに使った旅人がいたようだ。


「腹が減ったよー、ボス!」

「俺達、狩りに行ってくるよ!」

「う、うん・・・・」


 狩りという言葉が、自然とリュシアンの口から出てきたことに、私は少し動揺する。


(そう言えば、みんなは狩りが生業にしてたのよね・・・・)


 魔王軍の兵士と言っても、彼らはエンリケ達のような、職業軍人じゃない。普段は狩人のような暮らしをしていて、訓練の時だけ、魔王城に集まってきていた。


 亜人あじんと一目でわかる外見では、商人と取引もできないし、農業の知識もなさそうだ。狩りでしか、食料を得られなかったのだろう。


 とはいえ、彼らは健康そのもので、痩せ細っているわけじゃない。狩りでも、十分な食料を手に入れられていたのだろう。


「じゃ、食料調達は任せるわ。ついでに、枯れ木も集めてきてくれる?」

「狩りに行く奴と、枯れ木を集める奴で分けたほうがよさそうだ」

「残って、私と一緒に掃除をするという仕事もあるわよ」


 内部は埃っぽく、このままではとても眠れそうにない。眠る前に、ある程度掃除をしなければならなかった。


「えー? 掃除ぃ・・・・?」

「埃だらけの場所で、一晩をすごしたくはないでしょう? 今日、掃除をするのは、この部屋だけでいいから」

「ジャンケンで決めようぜ! みんなー、集まれ!」


 リュシアンの呼びかけで、仲間達がわらわらと彼のまわりに集まった。


「ジャンケン、ほい!」


 そしてジャンケンで、それぞれの役割が割り当てられる。



 それからは、すべてが順調に進んでいった。



 家具が少ないおかげか、分担すると、掃除にはそれほど時間がかからなかった。掃除が終わる頃には、暖炉の火のおかげで部屋も温まり、タイミングよく、獲物と枯れ枝を両手いっぱいに抱えたリュシアン達も戻ってきた。


 屋内では火事の恐れもあるので、私達は外に出て、料理に取りかかる。リュシアン達が手際よく獲物の皮を剥いで、肉を焼いてくれた。


「いっただきまーす!」


 お腹を空かせた亜人あじん達は、あっという間に料理を平らげてしまった。

 そして満足して、床につく。


「お休みなさーい!」

「お休み・・・・」


 シーツの代わりに、コートやシャツをベッドに敷いて寝床を整えると、亜人あじん達は横になり、あっという間に寝息をたてはじめた。



 魔王城を飛び出した直後は、これでよかったのかと、胸の中は不安で一杯だった。


 でも、亜人あじん達はまるで遠足のようなノリで、この時間を楽しんでいる。その様子を見ていると、私は遠足の引率をしている保母さんのような気持ちになり、いつの間にか不安は消えていた。


(これからのことを考えないと)


 とはいえ、いつまでも遠足気分ではいられない。


 呪いを解くため、何よりも私についてきてくれたリュシアン達を守るため、これからのことを考えなければならない。


 ――――一人、窓辺に佇んで、夜空を見上げながら、私はこれからすべきことに考えを巡らせた。

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