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46_誤算だらけの奇襲劇
しおりを挟む「みな、聞け! 奇襲だ!」
それからほどなくして、奇襲を知らせる声が耳に飛び込んできた。
「奇襲!? どこの軍だ!」
「魔物だ! 突然出てきて、もうすぐそこまで迫ってる!」
ベルを鳴らしながら、奇襲を知らせるため、一人の近衛兵が慌ただしく群衆の中を突っ切っていく。
次々と森から飛び出してきた魔王軍の兵士達は、剣や槍、斧を携え、雄叫びを上げながら、村内に駆け込んでくる。
「本当だ! 魔物が出てきたぞ!」
その光景を目にして、人々は顔色を変えた。狙い通り、近衛騎兵第三連隊と村人の双方を、我に返らせることができたようだ。
この村は、森の中の、円形脱毛症のような開けた場所にある。だから、亜人達は藪や木立の中に潜み、合図を見た瞬間に、四方からいっせいに村内に駆け込むことができた。
全方位から襲いかかられ、エセキアスと近衛騎兵第三連隊は、村の中心部に追いやられていった。
村人は、近衛兵達が守ってくれるだろう――――私はそう考えていた。
――――だけど次の瞬間、自分の作戦の甘さを思い知らされる。
「ひぃぃ・・・・!」
近衛兵達は村人を守るどころか、突進してくる魔王軍を目にするなり、情けない悲鳴を上げながら逃げ出したのだ。
「・・・・・・・・え?」
彼らの行動に、私も目が点になり、しばらくの間思考力が働かなかった。
「逃げろ、逃げろ!」
しかも彼らは、私を守ろうともしてくれなかった。
さっきまで彼らは、私が動かないように、私を取り囲んでいた。
それが亜人を見るなり、潮が引くようにさっと私から離れていったのだ。
「って、ちょっと!」
私は逃げていく近衛兵の一人に、つかみかかる。
「どうして、あなた達が逃げてるのよ! ちゃんと村の人達を守って!」
「ひ、妃殿下・・・・!」
近衛兵は泣きそうになりながら、口をもごもごさせる。
「で、ですが、わ、私達の役目は陛下をお守りすることで――――」
「国民を守ることだって、あなた達の役目でしょう!?」
「へ、陛下はこの村の者達は、カーヌスの国民ではないとおっしゃいました!」
「ああ言えばこう言う!」
実戦経験がなく、不意打ちに弱いことは知っていた。――――でもまさか、騎士でありながら役目を放棄して、逃げだすなんて。
(グスルム達は!? 民兵はどこへ行ったの!?)
騎士達の動きに気を取られているうちに、グスルム達の姿を見失っていた。非道な連中だけれど、彼らのほうが実戦経験がある。
わずかな期待を寄せて、私はグスルム達の姿を捜す。
だけど民家を遮蔽物にして、こそこそと森へ逃げていくグスルム達の後ろ姿を見つけ、期待は打ち砕かれた。
「あなた達もなの!?」
村人相手に、たいそうな演説を披露していた時の強者感は、脱兎のようなその後姿にはない。さっきの演説力は、彼らが弱者だと思っている人達の前でしか発揮できないものだったようだ。
「妃殿下、こちらへ!」
こういうときだけは口達者な近衛兵の代わりに、アルフレド卿が私を、エセキアスがいる村の中央へ誘導してくれた。
エセキアス達は、民家の中に逃げ込んでいた。
民家は狭いのに、重武装の騎士が考えなしに雪崩れ込んだせいで、動きづらかった。男達がひしめき合っているせいで十分なスペースを確保できず、これでは逆に、エセキアスを守りにくいだろう。
「陛下、ここでは戦いにくいです。外に出ましょう!」
私ですら気づいたことだ、アルフレド卿も難点に気づき、すぐさまエセキアスに進言していた。
「うるさい! 外は危険なんだ、俺は絶対にここから動かないぞ!」
「この状態では、逆に危険です。魔物が入り込んだら、陛下を守れません」
「お前達が魔物の侵入を許さなければいいだけの話だ! ここでグチグチ言ってないで、さっさと魔物を追い払ってこい!」
またしても、エセキアスは聞く耳を持たない。
「・・・・仕方ない。ベルナルド!」
「はい!」
アルフレド卿に呼ばれ、スクトゥム騎士団の騎士が駆け付ける。
「家の外に盾兵を配置しろ。誰も、この家に近づけてはならない」
「了解しました! 盾兵、並べ!」
エルミニオ卿の号令に従い、盾兵が民家のまわりに集まってきた。彼らは盾で、民家のまわりに兵を築いていく。
――――指揮官としての判断力に欠ける国王を、それでも守らなければならないのだから、アルフレド卿達には本当に同情する。今までどれほど、苦労してきたのだろうか。
「妃殿下、陛下のおそばにいてください」
「わ、わかりました」
壁の隙間から、逃げ惑う村人達の悲鳴が聞こえてきた。その声を聞いて、私はいてもたってもいられなくなる。
「アルフレド卿、私達は大丈夫です。ですから今は、村人達の避難をお願いします」
亜人達には、村人は襲わないように言ってある。
だけど亜人達が村人を避けたとしても、この混乱状態では、予想外のことが発生してしまう恐れがある。
そうなれば、村人達も安全とは言えない。
「しかし――――」
「私達は本当に大丈夫です。魔物の狙いは国軍のようですから、村人は森に逃がしたほうがいいでしょう」
「・・・・ええ、そうですね」
グスルム達が放った火が、他の家にも燃え移ってしまったせいで、村はもう、安全な場所ではなくなってしまっていた。
ならば村人達は、森の中に逃がしたほうが安全なはず。
「・・・・わかりました。すぐに戻りますから、妃殿下は陛下から離れないでください」
「ええ」
アルフレド卿は外に出ていく。
その後姿は他の近衛兵達にまぎれ、見えなくなってしまう。
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