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23_ぼろぼろの凱旋
しおりを挟む私達が城門に近づくと、見張りの兵士達の動きが忙しくなり、楼閣の上の櫓に人影が集まった。
「何者だ! それ以上近づくなら、攻撃するぞ!」
遠目では誰なのかわからなかったようで、警告を受けてしまった。
「スクトゥム騎士団の団長、エンリケ・カルデロンだ! 開門してくれ!」
「カルデロン卿ですか!?」
兵士の声が明るくなる。
「妃殿下もご一緒なのですか!?」
「ああ、妃殿下も我らとともにいらっしゃる」
「団長と妃殿下がお戻りになられたぞ!」
兵士達は胸壁の上で盛り上がり、笑い声が落ちてくる。私達は門の前で、騒ぎが静まるのを待った。
「団長! 妃殿下! 無事の御帰還、我ら一同お喜び申し上げます!」
「どうも、どうも」
エンリケは笑うけれど、笑っていても疲れは隠せていない。
「妃殿下はお疲れだ! 早く休ませたい! ただちに開門せよ!」
エンリケの代わりに、アルフレド卿が声を上げる。
「はい! ただいま開門いたします!」
そして、門は開かれる。
普段通りの朝を迎えていたブランデの人々は、まず突然の開門に驚き、満身創痍の私達を怪訝そうに見やった後、荷台に乗っている化物の首に仰天する。そうして彼らの足は止まり、あっという間に、私達は人々のざわめきに取り囲まれていた。
だけど魔王の首が発する異様な気配におののいているのか、積極的に近づいてくる人はいなかった。
「カルデロン卿、その首は一体、何なのですか?」
胸壁から降りてきた兵士が、怖々と首を覗き込む。
アルフレド卿が、兵士に事情を説明してくれた。
「ま、魔王を!? それは本当ですか?」
兵士は目を丸くし、食い入るように荷台の首に見入る。
そうこうしているうちに、私達のまわりには人だかりができていた。
「人払いを頼む。今は急いで城に帰還しなければならないんだ」
「す、すみません」
兵士は我を取り戻し、民衆の前に立つ。
「道を開けろ! 魔王を倒した、勇者御一行の凱旋だ!」
兵士の言葉に、ぎょっとする。彼が民衆を煽るようなことを言ったものだから、騒ぎはさらに大きくなってしまった。
「魔王を倒した!?」
「まさかと思っていたが、荷台に乗っているあの不気味な頭は、魔王オディウムの首か!?」
「信じられない・・・・本当に魔王を討ち取ったのか?」
事態を呑み込むと、民衆の声は歓声に代わっていた。
「これはめでたい! めでたいぞ! 数百年にわたって、カーヌスを苦しめてきた魔王が、ようやく討伐されたんだ!」
「魔王を討ち取ったのは、カルデロン卿なのか?」
「おい、お前ら、近づくんじゃない!」
歓喜する民衆が押し寄せてきて、私達は押し潰されそうになる。
「うわっ・・・・!」
「ルーナティア妃殿下、こちらへ」
突き飛ばされ、倒れそうになった私を、またエンリケが支えてくれた。
この騒ぎにおののいた騎士達の顔からは、とっくに笑顔が消えているのに、民衆はそれに気づかず、下がろうとはしない。火が付いたような勢いだ。
「おい、お前達! 下がれって言ってるだろ!」
兵士が止めても、彼らの耳には入らない様子だった。
「お前が余計なことを言うから!」
「す、すみません・・・・!」
意図せず、民衆の好奇心に火をつけてしまった兵士は、この騒ぎを目の当たりにして反省したのか、慌てている。
「馬車を用意しました! お乗りください!」
「助かった!」
もう一人の兵士が仲間のフォローをするために、馬車を用意してくれた。
これでこの騒ぎを抜けられる――――と安堵したのも束の間、馬車を見て、私達は落胆する。残念ながら馬車は二人乗りで、全員が乗ることはできない。
「今借りられる馬車が、これしかなくて・・・・申し訳ありません」
「いや、構わない。エンリケ、お前がルーナティア妃殿下を城までお連れしろ。俺達も、すぐに後を追いかける」
「わかった」
私はエンリケに手を引かれ、馬車の中に駆け込んだ。
「ふう・・・・」
「お怪我はありませんか、妃殿下」
「だ、大丈夫。ありがとう」
もみくちゃにされている間に、爆発に巻き込まれたように逆立った髪型を手櫛で戻し、スカートの皺を伸ばす。
「・・・・大変な騒ぎになりましたね」
馬車が出発した後もしばらくは、窓の外に追いかけてくる人々の姿がちらついていた。御者が速度を上げてくれたようで、幸い、引き離すことができたようだ。
「なんで俺達を追いかけてくるんだか・・・・」
「そんなの、決まってるじゃない。みんな英雄の姿を、一目見たいのよ」
「英雄って・・・・まさか俺のことですか?」
エンリケは目を丸くする。私はその反応を、おかしく思った。
「他に誰がいるの?」
「魔王の討伐は、スクトゥム騎士団の団員達の力で、成し遂げたことですよ」
「そうだとしても、騎士団を指揮して、それを成功させたのはあなたよ」
「俺よりも、魔王に囚われていた姫の姿を、一目見てみたかったんじゃないでしょうか?」
「姫ぇ・・・・」
姫という響きに、脱力してしまう。
「私が、姫という言葉に相応しいと思う? ・・・・それに一応、結婚したことになってるから、もう姫なんて呼ばれる身分じゃない」
「人妻って、なんか蠱惑的な響きですよね」
「・・・・・・・・」
「す、すみません、空気を和ませようとしたんですが、失言だったようです。不謹慎でした、許してください」
馬鹿な会話をしているうちに、馬車はいつの間にか城門に到達していた。
城門を抜けたところで、私達は馬車を下りる。
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