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37_きらびやかな宴_後編
しおりを挟む食膳に置かれていた盃を、口に運ぶ。
涼冷えの冷酒を一口飲むと、喉がすっと冷えて、心地いい。
「・・・・しかし今回のことを、私達はどう考えればいいのでしょうか?」
盃を食膳に戻して、私は呟くように問いかけた。
「独秀殿下は、犯人ではないようです。その上、命を狙われるなんて・・・・」
皇太弟が、帝位を奪うために皇帝陛下の命を狙うならば、まだわかる。
だが、今回は逆だ。
「父上は関与していません。叔父上が襲われたことを聞いて、父上はたいへん驚き、叔父上の身を案じていらっしゃいました」
「ええ、私も陛下の関与はないと思っています」
陛下が自分の地位を盤石にするため、独秀殿下を目障りに思っていたのなら、今まで、暗殺の機会は多くあったはずだ。なのに今さら、暗殺を企てたりしないだろう。
「刺客を捕らえ、自白させられなかったのが、痛手です」
「陛下はどのようにお考えなのでしょう」
「父上には、心当たりはないようです。代わりに大臣が、商売敵の仕業ではないかと言っていました」
「商売敵?」
「最近叔父上は、磁器の販売に力を入れていたそうです。その件で商売敵から命を狙われたのでは、と考えているようですが・・・・私はどうにも、腑に落ちません」
「ええ、私も納得できません。・・・・それに、困ったことになりました。独秀殿下が何も知らないとなると、今後、どこを調べればいいのやら・・・・」
「叔父上が無実だとするならば、やはり、曹貴妃様が怪しいのではないでしょうか?」
殿下は、陛下の隣にいる曹貴妃様を見た。
「私も最初は、曹貴妃様が怪しいと思っていましたが、そちらの推測も、どうも腑に落ちません。子を産むことに協力するほど、翠蘭さんのことを思いやっていたのに、殺すほどの罰を与えるでしょうか?」
「確かに・・・・」
「殿下。俺も自分なりに考えてみたんですが」
そこで仲弓さんが、会話に入ってくる。
「―――――曹貴妃様が翠蘭を殺したのは、子を奪うため、とは考えられませんか?」
「子を?」
「ええ。内廷の女性の望みは、陛下のお子を授かることです。曹貴妃様も、ずっと皇子を授かることを望んでおられたことでしょう。ですが、なかなか子を授からないこともあります。それで――――」
そこから先は言いにくかったのか、仲弓さんは言い淀んでしまう。
「曹貴妃様が翠蘭さんのお子を、自分が産んだ皇子に仕立て上げたのでは、とおっしゃりたいんですか?」
「嶺依、声が大きい!」
仲弓さんは、唇の前に指を立てる。
「声を落とせ。たとえ推測だとしても、こんな話を誰かに聞かれたら・・・・!」
「大丈夫、誰も聞いていませんよ」
私達のまわりにいる人達は、すっかり酩酊している。おまけにこの騒ぎだ、小声で話しているから、誰かに聞かれる心配はないだろう。
「俺の推測は、どうでしょうか、殿下」
「面白い推測だと思いますが、それはないでしょう。曹貴妃様の出産には、貴妃とお子の命を守るため、大勢の宮人と医官が立ち会いました。その状況では、翠蘭の子を自分の子だと偽るのは不可能です」
「そ、そうですか・・・・」
渾身の推理が外れてしまい、仲弓さんは項垂れてしまう。
「あ、あの、殿下。念のために言っておきたいのですが、俺には曹貴妃様を中傷するつもりはまったくありません。どうか、誤解なさいませんよう――――」
殿下はにこりと笑う。
「ご安心ください。仲弓殿に悪意がないことは、存じております」
「そ、そうですか・・・・」
「気が小さいですね、仲弓さん」
「う、うるさい! 誰もがお前のように、豪胆じゃないんだ」
「しかし、惜しいですね。もし貴妃の出産が密かに行われていたのであれば、今の推理で、翠蘭が殺されたことにも、子の行方にも、合理的な答えを当てはめることができます」
「ですが実際は、曹貴妃様が翠蘭さんの子を、自分の子だと偽ることは不可能――――でも状況から見て、一番怪しいのはやはり、曹貴妃様です。仮に曹貴妃様が翠蘭さんを殺したのだとしたら――――動機は何だったのでしょうか?」
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