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27_皇太弟の行方_前編
しおりを挟むその小道は片側を田畑に、もう一方を木柵のような竹林に挟まれていた。
馬に乗り、青洲の森を目指す。穏やかな日差しの中、緩やかな小道を進んでいると、任務の最中だということを忘れてしまいそうになる。
「本当に乗馬が得意なんですね」
「狩りで、馬に乗ることがありますから。それに私は、遠乗りが好きです」
狩りをするときに、馬に乗ることもある。だから乗馬は得意だし、遠乗りで遠くの平原まで出かけ、日の出や日暮れの景色を眺めているのが、何よりも好きだった。
「私も遠乗りが好きです。景色がいい場所を知っています。今度ともに、遠乗りに行きませんか?」
「ええ、もちろ――――」
背後から突き刺さってくる仲弓さんの視線に気づいて、私は言葉を切る。
不思議そうにしている殿下には、誤魔化しの笑顔を返しておいた。
「青洲の森は、もうすぐですね」
「殿下、むやみに森の中に入ることは賛成できません」
浩成様が追いかけてきて、馬を隣に並べる。
「小さな森といっても、中はどこも似たような景色ですから、迷うこともあるでしょう。人を捜して迷子になるなど、笑い話にもなりません。ですからまずは、独秀殿下に似た男を見かけなかったか、付近の者に聞いてみましょう」
「そうだな。それがいい」
小さな森でも中に入れば、似たような景色ばかりだ。迷ってしまうことは、十分にありえるだろう。できるなら、森の中には入りたくなかった。
「この辺りで聞き込みをしましょう」
青洲の森にたどり着いた私達は、馬を下り、人の姿を探す。
「あ、あそこに人がいます」
さっそく、田んぼの中に百姓らしき男性の姿を見つけた。麻の衣を着て、農作業をしている。まだ若い百姓のようだ。
「殿下、ここでお待ちください。私が話を聞いてきます」
自ら動こうとする殿下を制して、浩成様が馬から降りた。
「すまない、伺いたいことがある」
浩成様が声をかけると、百姓は顔を上げる。
「人を捜している。昨日、この付近で身形のいい男を見なかっただろうか?」
「ど、どのような方でしょうか?」
浩成様の身形を見て、一目で位の高さを察したのか、百姓はおどおどとした態度になっていた。上目遣いで、浩成様の顔色を窺っている。
「狩りのために弓を背負い、子供と数人の供を連れていたはず」
「昨日は、私は見ていませんね。・・・・でも今日は、森に入る方々を何人も見ました」
「今日は?」
「ええ、さっきも身形がよい方々が数人、馬で森の中に入っていきました」
今日、森に入っていったということは、独秀殿下を捜しに来た屋敷の者達なのかもしれない。
「・・・・あなた方も、森に入るおつもりですか?」
怖々と、今度は百姓のほうから質問してきた。
「そのつもりだが?」
「な、ならば、ご留意ください」
「なぜだ?」
「――――村の者が何度か、森の中で狼を見ています」
ハッとする。浩成様の横顔も、険しくなっていた。
「いつから狼が出るようになった?」
「昨晩になって突然、狼を見かけるようになりました。村の者達も警戒しております」
「・・・・・・・・」
突然、とは奇妙な話だ。
――――私の頭に、ある可能性が浮かぶ。
「助かった。感謝する。・・・・これは心ばかりの礼だ」
百姓の手に小銭を握らせ、浩成様は私達のところに戻ってきた。
「獣が出没しているのなら、森に入るのは危険です。殿下、一度皇宮に戻り、兵を連れてまいりましょう」
すぐさま、浩成様が殿下に進言する。
「・・・・いや、叔父上が森に入ってから、すでに一日が過ぎている。人を呼びに戻っていたら、助けが間に合わないかもしれない」
「ですが、危険だとわかっている場所に、殿下をお連れするわけにはいきません」
殿下は腕を組み、考え込んでしまった。
「青洲の森は、獣害が少ない、安全な場所だったはずだ。なにゆえ突然、獣が現れたのか・・・・」
「――――血の匂いを嗅いだからではないでしょうか?」
私がそう言うと、殿下達の顔がさっと強ばる。
「・・・・あまり考えたくありませんが、独秀殿下の帰りが遅れているうえ、狼が出没するようになったということは・・・・」
「まさか、独秀殿下が獣に襲われたと考えているのか?」
「それもありえますが、もう一つ、可能性があります」
「もう一つの可能性?」
「貴人の狩場に選ばれる場所ですから、青洲の森は安全な場所だったのでしょう。であれば、獣は別の場所から集まってきたと考えるべきです。――――狩りの途中で何かが起こり、死者が出て、血の匂いを嗅いだ獣達が集まってきたのでは?」
みるみるうちに、殿下達の表情が緊張で固まっていく。
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