後宮の死体は語りかける

炭田おと

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17_忠告

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「ですが、今日はもう遅いです」

 空を仰ぐと、明るかった日暮れの赤が、薄墨うすずみを混ぜたような色合いになっていた。もうすぐ、日が暮れる。

「今日はもう遅いですから、叔父上に会いに行くのは明日にしましょう」

「そうですね」

「お二人は今日、どこにお泊りになるんですか?」

「陛下のお計らいで、雲来旅館うんらいりょかんという宿に部屋を取ってもらっています」

「大通り沿いにある旅館ですね。では、私が案内します」

「いえ、殿下にそのような手間は――――」

「ちょうど街に行く予定があったので、手間ではありません。行きましょう」

 俊煕しゅんき殿下は身を翻し、歩き出す。

 戸惑いながら、私達は俊煕しゅんき殿下の後を追いかけた。


「・・・・嶺依りょうい

 仲弓ちゅうきゅうさんに話しかけられ、私は歩く速度を落とす。


「・・・・殿下はお前に興味を持っているようだが、何か言われたりしたか?」

「何か、とは?」


「・・・・寝所に呼ばれたりしなかったか?」


 その言葉に、ぎょっとする。


「まさか!」

「だが殿下は、お前のことをかなりお気に召した様子だ」

「小部族の女が、物珍しいだけだと思います。皇宮では、しとやかな女性こそ美しいという風潮があるようですから、私のようなガサツな女をあまり見たことがないのでしょう」

「・・・・お前はジェマ族の女の中でも、そうとうな珍獣枠だから、殿下がお前のことをジェマ族の女の標準だと誤解するのは、困るのだが・・・・」

 ぼそりと、仲弓ちゅうきゅうさんが呟いた。

「・・・・珍獣枠とは、面白いことをおっしゃいますね、仲弓ちゅうきゅうさん」

 私の地獄耳を侮るなと、目で威圧すると、そっと視線を外されてしまった。追求したい気持ちはあったものの、私は空咳で怒りを流して、話を戻す。


「とにかく、私と殿下の間に、何か起こることはありません。だから、ご心配なく」

「・・・・くれぐれも、俊煕しゅんき殿下には近づきすぎるなよ」

 否定したのに、それでも心配だったのか、仲弓ちゅうきゅうさんはまた忠告してきた。


「殿下が好意的でも、俺達のような者が殿下と親しくしていれば、まわりは勘繰るだろう。女として気に入られれば、利も大きいのかもしれぬが、それゆえ失敗した時の反動も大きい。力を持たない者は、大きな流れからは一定の距離を保っておくべきだ。・・・・でなければ、流れに巻き込まれたときに、身を守る術がない」

「・・・・わかってます」


 俊煕しゅんき殿下は優しく、思いやりがあり、私達のことを辺境の小部族だと見下さずに、客人として扱ってくれる。

 でも、殿下本人に特別な意図がなくても、私達と関わっていれば、まわりは勘繰ることだろう。

 必要がないのなら、適切な距離を保つべきだという、仲弓ちゅうきゅうさんの忠告には説得力があり、私は従わねばと、気持ちを引きしめた。

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