9 / 56
8_思わぬ同行者
しおりを挟む「しかしながら陛下、私は男です。内廷に立ち入るのは、色々と差し障りがあるかと・・・・」
仲弓さんが額の汗を拭きながら、そう言った。
今回の事件の調査をするとなると、内廷で働いている女性達に話を聞かなければならない。しかしながら、内廷には陛下と女性達、宦官しか、立ち入ることを許されない場所なのだ。
「だから、そなたらを選んだのだ」
陛下は満面の笑顔で、そう言った。
「・・・・どういうことでしょう?」
「嶺依――――と言ったな?」
「は、はい!」
名前を呼ばれて、背筋が伸びる。
「内廷に入るのがそなただけならば、問題あるまい」
陛下が私達を選んだのは、片方が女だったからなのだろう。たとえ有事であっても、皇族である莫氏以外の男が内廷に入ることは許されないが、女であれば、咎められることはない。
「私の息子が、そなたには武芸の心得があるようだと言っていた。目を輝かせてな。そなたならば一人で行動しても、危険はあるまい」
「・・・・・・・・」
それってもしかして、五番目の皇子の――――という質問が、口から出そうになったけれど、呑み込んだ。事件に関係ないことは、聞かないほうがよさそうだ。
「ある程度、話は呑み込めたか?」
「はい」
「では早速、調査に取りかかってくれ。その女の身元と、誰が殺したのかを突き止めてほしい」
「謹んで、拝命いたします」
仲弓さんとともに、跪き、床に指をついて叩頭する。
「うむ、頼んだぞ」
それから、陛下は視線を動かす。
「ああ、一つ言い忘れていた。――――調査には、俊煕も同行させる」
「・・・・え?」
「俊煕、近くへ参れ」
聞き間違いかと思った。
だけど広間の中に俊煕殿下が入ってきたのが見えて、聞き間違いではないと知る。
「御前に」
俊煕殿下は片膝をついて、拝礼する。
「そなたの望み通り、客人の手伝いを任せよう」
「感謝します、父上」
「嶺依、仲弓よ。男子でも莫氏の者ならば、内廷で自由に動けるゆえ、そなたらを手伝えるだろう。俊煕と、仲良くしてやってくれ。ああ、それから、そなたらの装いのことだが」
服装のことを言われて、自分の服を見下ろす。ジェマ族の民族衣装は、西京でも皇宮の中でも、かなり目立っていた。
「その装いは、ここでは目立ち過ぎるだろう。場に馴染めるよう、衣を用意させている。もちろん、気が進まぬのなら、装いを変える必要はないが・・・・」
「いいえ、お心遣い、感謝いたします、陛下」
これから私達は、内廷で聞き込みをしなければならない。相手に警戒されないためにも、装いだけでもこの場所に馴染んでおく必要があった。
「ではまず、着替えを。俊煕、案内してやれ」
「承りました」
俊煕殿下はまた拱手する。
「こちらへどうぞ」
目が合うと、俊煕殿下は笑顔を返してくれる。
戸惑いながら、私も笑顔を返すしかなかった。
2
お気に入りに追加
94
あなたにおすすめの小説
ぽっちゃり令嬢に王子が夢中!
百谷シカ
恋愛
伯爵令嬢イーリス・レントリヒは、王妃アレクサンドラの侍女として宮廷で働いている。
ぽっちゃりしていて特に美人でもないので、誰の寵愛も受けないかわりに敵もいない。
ところがある日、王妃付きのコックから賄いを都合してもらった際に、酒を拝借しにきた第二王子ヨハンに見初められてしまう。
「はぁ……可愛い。丸くて白くてぷにぷにしてて、食べちゃいたいよ」
芸術好きで戦争嫌いの平和主義者ヨハンは、イーリスの見た目から性格までとにかく大好き!
♡無欲なぽっちゃり令嬢が幸せを掴むシンデレラストーリー♡
====================================
(他ベリーズカフェ様・野いちご様、エブリスタ様に投稿)
【完結】婚約者候補の筈と言われても、ただの家庭教師ですから。追いかけ回さないで
との
恋愛
子爵家長女のアメリアは、家の借金返済の為ひたすら働き続け、ここ一年は公爵家の家庭教師をしている。
「息子達の婚約者になって欲しいの。
一年間、じっくり見てからどれでも好きなのを選んでちょうだい。
うちに来て、あの子達を教育・・して欲しいの」
教育?
お金の為、新しい職場に勤務すると考えれば、こんな破格の待遇は他にはあり得ない
多額の報酬に釣られ会ってみたら、居丈高な長男・女たらしの次男・引き籠りの三男
「お前・・アメリア程面白いのは他にいないと思うし」
「俺も、まだ仕返しできてないし」
「・・俺も・・立候補する。アメリアいないとつまんないし、ロージーもいなくなる」
なんだかとんでもない理由で立候補されて、タジタジのアメリア。
「お嬢様、この期に及んで見苦しい。腹括らんとかっこ悪かです」
方言丸出し最強の侍女を引き連れて、行き遅れの家庭教師アメリアが幸せを・・多分掴む・・はず。
ーーーーーー
R15指定は念の為。特にそういったシーンはありません。
どこの方言か思いっきり不明です。ご容赦下さい(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾
35話で完結しました。完結まで予約投稿済み
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。
【完結】ここって天国?いいえBLの世界に転生しました
三園 七詩
恋愛
麻衣子はBL大好きの腐りかけのオタク、ある日道路を渡っていた綺麗な猫が車に引かれそうになっているのを助けるために命を落とした。
助けたその猫はなんと神様で麻衣子を望む異世界へと転生してくれると言う…チートでも溺愛でも悪役令嬢でも望むままに…しかし麻衣子にはどれもピンと来ない…どうせならBLの世界でじっくりと生でそれを拝みたい…
神様はそんな麻衣子の願いを叶えてBLの世界へと転生させてくれた!
しかもその世界は生前、麻衣子が買ったばかりのゲームの世界にそっくりだった!
攻略対象の兄と弟を持ち、王子の婚約者のマリーとして生まれ変わった。
ゲームの世界なら王子と兄、弟やヒロイン(男)がイチャイチャするはずなのになんかおかしい…
知らず知らずのうちに攻略対象達を虜にしていくマリーだがこの世界はBLと疑わないマリーはそんな思いは露知らず…
注)BLとありますが、BL展開はほぼありません。
真実の愛がどうなろうと関係ありません。
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。
婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。
「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」
サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。
それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。
サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。
一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。
若きバラクロフ侯爵レジナルド。
「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」
フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。
「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」
互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。
その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは……
(予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる