後宮の死体は語りかける

炭田おと

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8_思わぬ同行者

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「しかしながら陛下、私は男です。内廷ないていに立ち入るのは、色々と差し障りがあるかと・・・・」

 仲弓ちゅうきゅうさんが額の汗を拭きながら、そう言った。

 今回の事件の調査をするとなると、内廷ないていで働いている女性達に話を聞かなければならない。しかしながら、内廷ないていには陛下と女性達、宦官かんがんしか、立ち入ることを許されない場所なのだ。


「だから、そなたらを選んだのだ」

 陛下は満面の笑顔で、そう言った。


「・・・・どういうことでしょう?」

嶺依りょうい――――と言ったな?」

「は、はい!」

 名前を呼ばれて、背筋が伸びる。

内廷ないていに入るのがそなただけならば、問題あるまい」

 陛下が私達を選んだのは、片方が女だったからなのだろう。たとえ有事であっても、皇族である莫氏ばくし以外の男が内廷ないていに入ることは許されないが、女であれば、咎められることはない。

「私の息子が、そなたには武芸の心得があるようだと言っていた。目を輝かせてな。そなたならば一人で行動しても、危険はあるまい」

「・・・・・・・・」


 それってもしかして、五番目の皇子こうしの――――という質問が、口から出そうになったけれど、呑み込んだ。事件に関係ないことは、聞かないほうがよさそうだ。


「ある程度、話は呑み込めたか?」

「はい」

「では早速、調査に取りかかってくれ。その女の身元と、誰が殺したのかを突き止めてほしい」

「謹んで、拝命いたします」

 仲弓ちゅうきゅうさんとともに、跪き、床に指をついて叩頭こうとうする。

「うむ、頼んだぞ」


 それから、陛下は視線を動かす。


「ああ、一つ言い忘れていた。――――調査には、俊煕しゅんきも同行させる」


「・・・・え?」

俊煕しゅんき、近くへ参れ」

 聞き間違いかと思った。


 だけど広間の中に俊煕しゅんき殿下が入ってきたのが見えて、聞き間違いではないと知る。


御前おんまえに」

 俊煕しゅんき殿下は片膝をついて、拝礼する。


「そなたの望み通り、客人の手伝いを任せよう」

「感謝します、父上」

嶺依りょうい仲弓ちゅうきゅうよ。男子でも莫氏ばくしの者ならば、内廷ないていで自由に動けるゆえ、そなたらを手伝えるだろう。俊煕しゅんきと、仲良くしてやってくれ。ああ、それから、そなたらの装いのことだが」

 服装のことを言われて、自分の服を見下ろす。ジェマ族の民族衣装は、西京せいきょうでも皇宮の中でも、かなり目立っていた。

「その装いは、ここでは目立ち過ぎるだろう。場に馴染めるよう、ころもを用意させている。もちろん、気が進まぬのなら、装いを変える必要はないが・・・・」

「いいえ、お心遣い、感謝いたします、陛下」

 これから私達は、内廷ないていで聞き込みをしなければならない。相手に警戒されないためにも、装いだけでもこの場所に馴染んでおく必要があった。

「ではまず、着替えを。俊煕しゅんき、案内してやれ」

うけたまわりました」

 俊煕しゅんき殿下はまた拱手する。


「こちらへどうぞ」

 目が合うと、俊煕しゅんき殿下は笑顔を返してくれる。


 戸惑いながら、私も笑顔を返すしかなかった。


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