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32.好都合な文化祭実行委員
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「じゃあ、1時間目のホームルームの議題はこれね。プリント配ってくれる?」
担任の弥生先生から配られたプリントには『文化祭実行委員について』と書いてあった。
「プリントは行き渡った? 見てもらったら分かるように10月中旬に文化祭があります」
文化祭──在校生だけで開催される限定公開日と、外部参加が可能な一般公開日の二日に分けて行われる。1、2年生が主となって企画するクラスごとの出し物や出店、ステージのイベントなどがあり毎年結構な賑わいをみせている。
私達3年生は受験が控えているため参加は自由となっており、希望者を募って3年生全体で一つの企画を行うことがほとんどだ。
「3年生は各クラスから一人、実行委員を選出しなければいけないので、それを決めたいと思います」
(実行委員かぁ)
プリントに視線を落とし、文字を目で追う。3年生は準備期間中の放課後見回りと、当日の来客対応が担当のようだ。
(みんなやりたがらないだろうなぁ)
文化祭まで一ヶ月半、毎日ではないといえ貴重な勉強時間を割いてまで積極的にやろうとする人はいないだろう。
(確かに勉強も大事だけど、今年で最後だし......)
一方で私は、準備期間中の学校が一体化したかのような、あの雰囲気が結構好きで、実行委員をやるか迷っていた。
(……っえ!?)
責任者の欄に『倉田亮介』と、先生の名前が記載されているのを見つけて。
(先生、実行委員なの? そんなこと一言もいってなかったのに)
ふと、朝のことが頭を過ぎる。
『根岸先生が来られたらそのように伝えてください』
先生の横に根岸先生の名前もあるから、あの時この話をしていたのかもしれない。
(どうしよう)
同じ実行委員なら、仲良く会話をしていたとしても不自然ではないし、なにより授業以外でたくさん会える。先生と学校内で会うことを悩んでいた私にとって、まさに好都合。
(やりたい……!)
「大体やる事は分かったと思うので、一応聞くけど、やりたい人いる?」
教室内が静まり返る。弥生先生の問いかけに、誰も手を挙げなかったのは想像通りだ。
(やりたい……けど)
ただ、この空気感の中、立候補して変に思われないか心配で、中々言い出せない。
「やっぱりそうなるよね」
と、弥生先生もこの状況を見越していたのか、教室の隅に置いてあった箱を徐に手に取る。
(あれは……席替えに使ってるクジ引きの箱!)
クジ引きで決めることになってしまったら、余程の運がない限り当たることはない。
「いないようだから、今回はクジ──」
「せ、先生!」
早く言わないと、そう思って声を上げると思いのほか大きな声が出てしまい、クラス中の視線が自分に向けられる。
先生と話していても変に思われないようにと実行委員へ立候補するのに、立候補すること自体が変に思われるのなら、私の行動はあまり意味がないのかもしれない。
「七瀬さんどうしたの?」
自分でも何が正しいのかよく分からなくなってきたけれど、もう後には引けない。
深く息を吐いて口にする。
「実行委員、やりたいです!」
私の言葉を聞いた弥生先生が、両手を合わせて笑みを浮かべる。
「あら本当? じゃあ、実行委員は七瀬さんにお願いするわね。今日の放課後に委員会もあるようだからプリントよく見ておいてね」
「はい、わかりました」
「えーと、文化祭については終わったから……次は三者懇談について──」
私へと向いていた視線も議題が変わると共に感じなくなり、ほっとする。
(思い切ったことしちゃったけど……これで先生と一緒にいられるし、文化祭の思い出を少しでも作れたらいいな)
先生と一緒にいたい。ただ、それだけだったのに。
私のこの選択が、まさかあんなことになるなんて知る由もなかった。
担任の弥生先生から配られたプリントには『文化祭実行委員について』と書いてあった。
「プリントは行き渡った? 見てもらったら分かるように10月中旬に文化祭があります」
文化祭──在校生だけで開催される限定公開日と、外部参加が可能な一般公開日の二日に分けて行われる。1、2年生が主となって企画するクラスごとの出し物や出店、ステージのイベントなどがあり毎年結構な賑わいをみせている。
私達3年生は受験が控えているため参加は自由となっており、希望者を募って3年生全体で一つの企画を行うことがほとんどだ。
「3年生は各クラスから一人、実行委員を選出しなければいけないので、それを決めたいと思います」
(実行委員かぁ)
プリントに視線を落とし、文字を目で追う。3年生は準備期間中の放課後見回りと、当日の来客対応が担当のようだ。
(みんなやりたがらないだろうなぁ)
文化祭まで一ヶ月半、毎日ではないといえ貴重な勉強時間を割いてまで積極的にやろうとする人はいないだろう。
(確かに勉強も大事だけど、今年で最後だし......)
一方で私は、準備期間中の学校が一体化したかのような、あの雰囲気が結構好きで、実行委員をやるか迷っていた。
(……っえ!?)
責任者の欄に『倉田亮介』と、先生の名前が記載されているのを見つけて。
(先生、実行委員なの? そんなこと一言もいってなかったのに)
ふと、朝のことが頭を過ぎる。
『根岸先生が来られたらそのように伝えてください』
先生の横に根岸先生の名前もあるから、あの時この話をしていたのかもしれない。
(どうしよう)
同じ実行委員なら、仲良く会話をしていたとしても不自然ではないし、なにより授業以外でたくさん会える。先生と学校内で会うことを悩んでいた私にとって、まさに好都合。
(やりたい……!)
「大体やる事は分かったと思うので、一応聞くけど、やりたい人いる?」
教室内が静まり返る。弥生先生の問いかけに、誰も手を挙げなかったのは想像通りだ。
(やりたい……けど)
ただ、この空気感の中、立候補して変に思われないか心配で、中々言い出せない。
「やっぱりそうなるよね」
と、弥生先生もこの状況を見越していたのか、教室の隅に置いてあった箱を徐に手に取る。
(あれは……席替えに使ってるクジ引きの箱!)
クジ引きで決めることになってしまったら、余程の運がない限り当たることはない。
「いないようだから、今回はクジ──」
「せ、先生!」
早く言わないと、そう思って声を上げると思いのほか大きな声が出てしまい、クラス中の視線が自分に向けられる。
先生と話していても変に思われないようにと実行委員へ立候補するのに、立候補すること自体が変に思われるのなら、私の行動はあまり意味がないのかもしれない。
「七瀬さんどうしたの?」
自分でも何が正しいのかよく分からなくなってきたけれど、もう後には引けない。
深く息を吐いて口にする。
「実行委員、やりたいです!」
私の言葉を聞いた弥生先生が、両手を合わせて笑みを浮かべる。
「あら本当? じゃあ、実行委員は七瀬さんにお願いするわね。今日の放課後に委員会もあるようだからプリントよく見ておいてね」
「はい、わかりました」
「えーと、文化祭については終わったから……次は三者懇談について──」
私へと向いていた視線も議題が変わると共に感じなくなり、ほっとする。
(思い切ったことしちゃったけど……これで先生と一緒にいられるし、文化祭の思い出を少しでも作れたらいいな)
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