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29.声でわかるよ
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翌日、勉強をしているとスマホの着信音が鳴った。画面を見ると予期せぬ名前が表示されていて、一瞬固まる。
(なんで!?)
先生とはいつもメッセージのやり取りばかりで、電話は一度もしたことがない。
(ど、どうしよう……先生と電話なんて緊張する……)
「!」
考えている間に切れてしまったらしく、気付けば音が止まっていた。慌てて先生に電話をかける。
深呼吸をしようと息を吸った瞬間、電話口に先生が出た。
『おう、俺だ』
(あれ? 今、コール音鳴った?)
『おーい?』
「あ、はい! 七瀬です、七瀬葵です」
『くくっ……んな言わなくても七瀬にかけてるんだし。他に誰がでるんだよ』
「そっ、そうですよね」
先生の笑っている顔が目に浮かんで、恥ずかしくて顔が真っ赤になる。これが電話で良かったと、心底思う。
『それに、声でわかるよ』
「え……」
『好きな女の声だからな』
「~っ!」
さらっと女心を擽る言葉を言えてしまう所が、やっぱり大人だなと思うし女性に慣れている感じがする。
私は先生が初めての人だから、なにもかもが初めてのことだけれど、色んな人と付き合ってきた先生にとってはこの一言も幾度となく口にしてきたのかもしれない。
そう考えてしまうと、凄く嬉しいけど、凄く悔しいから素直に喜んでなんかやらない。
「そっ」
興味のない素振りで話題を変えようとしたら、声が裏返ってしまった。電話の向こうでこらえきれずに笑っているのがわかる。
(素直に喜べば良かった……)
無理はするものじゃない。
「……それはそうとどうしたんですか?」
『いや、今、忙しかったか?』
「ううん。なんで?」
『さっき、電話出なかったろ?』
「あ……れは、勉強してたから気付かなかった、の」
電話に出るのが緊張して、とは言えずに誤魔化す。
(……勉強していたのは事実だし)
『あー、だよな。邪魔しちまったな、悪い』
「だ、大丈夫! そろそろ休憩しようと思ってたし」
『無理すんなよ? なんだったらまた今度でも──』
「せっ!」
切るのは嫌だ、そう思った時には先生の言葉を遮っていて、今度はそのまま素直な気持ちを口にする。
「先生と、話したいから……切ったらダメ、です」
『ん”ん”っ』
電話越しにむせたような咳払いが聞こえた後、先生から『わかった』と一言返ってきて、この時間が続くことに安堵する。
それから何気ない話を交わして通話を楽しむ中、ふと思い立った私は『聞きたいことがある』と話を切り出した。
『どうした?』
「先生と付き合ってること、内緒にしなくちゃいけないのは分かってるんだけど……」
鈴にだけは話してもいいか、そう聞こうとして途中で口を噤む。
(よく考えたら、それって私のエゴだよね)
「やっぱり──」
『鈴村にならいいぞ』
なんでもないと言おうとして聞こえてきた意外な言葉に驚きを隠せないでいると、先生は続けてこう言った。
『隠す意味もないしな』
「え……?」
『っと、悪い。電話きたから切るな? また電話する』
詳しく聞く間もなく通話が切れてしまって、意味がないとはどういうことか考えてみるも明確な答えは思いつかず、それが分かったのは鈴に会った時だった。
(なんで!?)
先生とはいつもメッセージのやり取りばかりで、電話は一度もしたことがない。
(ど、どうしよう……先生と電話なんて緊張する……)
「!」
考えている間に切れてしまったらしく、気付けば音が止まっていた。慌てて先生に電話をかける。
深呼吸をしようと息を吸った瞬間、電話口に先生が出た。
『おう、俺だ』
(あれ? 今、コール音鳴った?)
『おーい?』
「あ、はい! 七瀬です、七瀬葵です」
『くくっ……んな言わなくても七瀬にかけてるんだし。他に誰がでるんだよ』
「そっ、そうですよね」
先生の笑っている顔が目に浮かんで、恥ずかしくて顔が真っ赤になる。これが電話で良かったと、心底思う。
『それに、声でわかるよ』
「え……」
『好きな女の声だからな』
「~っ!」
さらっと女心を擽る言葉を言えてしまう所が、やっぱり大人だなと思うし女性に慣れている感じがする。
私は先生が初めての人だから、なにもかもが初めてのことだけれど、色んな人と付き合ってきた先生にとってはこの一言も幾度となく口にしてきたのかもしれない。
そう考えてしまうと、凄く嬉しいけど、凄く悔しいから素直に喜んでなんかやらない。
「そっ」
興味のない素振りで話題を変えようとしたら、声が裏返ってしまった。電話の向こうでこらえきれずに笑っているのがわかる。
(素直に喜べば良かった……)
無理はするものじゃない。
「……それはそうとどうしたんですか?」
『いや、今、忙しかったか?』
「ううん。なんで?」
『さっき、電話出なかったろ?』
「あ……れは、勉強してたから気付かなかった、の」
電話に出るのが緊張して、とは言えずに誤魔化す。
(……勉強していたのは事実だし)
『あー、だよな。邪魔しちまったな、悪い』
「だ、大丈夫! そろそろ休憩しようと思ってたし」
『無理すんなよ? なんだったらまた今度でも──』
「せっ!」
切るのは嫌だ、そう思った時には先生の言葉を遮っていて、今度はそのまま素直な気持ちを口にする。
「先生と、話したいから……切ったらダメ、です」
『ん”ん”っ』
電話越しにむせたような咳払いが聞こえた後、先生から『わかった』と一言返ってきて、この時間が続くことに安堵する。
それから何気ない話を交わして通話を楽しむ中、ふと思い立った私は『聞きたいことがある』と話を切り出した。
『どうした?』
「先生と付き合ってること、内緒にしなくちゃいけないのは分かってるんだけど……」
鈴にだけは話してもいいか、そう聞こうとして途中で口を噤む。
(よく考えたら、それって私のエゴだよね)
「やっぱり──」
『鈴村にならいいぞ』
なんでもないと言おうとして聞こえてきた意外な言葉に驚きを隠せないでいると、先生は続けてこう言った。
『隠す意味もないしな』
「え……?」
『っと、悪い。電話きたから切るな? また電話する』
詳しく聞く間もなく通話が切れてしまって、意味がないとはどういうことか考えてみるも明確な答えは思いつかず、それが分かったのは鈴に会った時だった。
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