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60・あぁ、綺麗なナイフです。

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「ひとつ確認しておきたいのですが」

「な、何?」

 リリアの瞳の奥には、私を断罪するかのような、薄暗い陰が揺らめきながら見え隠れしています。

「赤鬼は、排除すべき対象なのですよね」

「え!」

「言い方を間違えました」

 リリアは握っていた私の手を離し、中空で手首を返すと、その手には例の銀のナイフが握られていました。
 そのナイフの刃先を私に向けて、目の前にあるティーカップを、叩くでも無く、添えるようにして鳴らしました。
 澄んだ甲高い音が尾を引いて、部屋中に響き渡りました。

「赤鬼は、排除すべき対象なのです」

 リリアの言葉が、暗い影となり、私を締め付け、絡みついて来るかのような錯覚を覚えました。
 そして、リリアの私を見詰める瞳は、揺らめきを止め、ただそこには、何処までも深く落ちていきそうな、闇がありました。

「…………」

 リリアは言葉を継ぎませんが、私に向けたナイフの刃先が雄弁に語っています。

『赤鬼に惹かれているのでは?』

 何と甘っちょろい考えだったのでしょうか。

 いえ、実際にリリアは、例えリリア自身が気付かずにいたにせよ、それがどのような、男と女の『想い』なのか、強い者に対する『敬畏』なのか、あの得も言われぬ、底抜けに明るい人間的な『魅力』なのかは分かりませんが『赤鬼に惹かれていた』事には違いありません。

 そして、私もリリアと同じ……。

 しかし、リリアは私が頭から、すっぽりと抜け落としていた『排除すべき対象』で、あるという事を、しっかりと意識していたのです。

『まさかとは思いますが、その事を、お忘れになっている訳ではありませんよね?』

 そうです。
 私に向けた、リリアの刃が。

 語っていました。
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