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40・ひどい言い方です。
しおりを挟む「……失敗したかなぁ」
ポツリと漏らした言葉を、耳ざとく聞きつけたリリアが。
「お嬢らしくて、良いじゃないですか」
何が可笑しいのやら、リリアが俯いて、肩を揺らして言いましたが、何をもってして、私らしいのか意味が分かりません。
「褒めているのですよ。『失敗したかなぁ』などと嘆く事ないでしょう。怖くて仕方ないのに無茶をしてまで、人を傷つけたくないと思う、お嬢の優しさ……とても素敵ですよ」
リリアが私の肩に手を置いて、自分の事ように誇らしげに言いました。
まあ、褒めてくれるならば素直に喜んでおきますか。
とはいえ『派手なのは嫌いじゃない』なんて大言壮語しておきながら、いざとなったら腰抜かして、ひっくり返ってしまうのですから、我ながら情けなくなってしまい、うなだれて、不貞腐れた物言いになるのを止めることはできません。
「『優しさ』ねぇ~。そんな甘っちょろい事、言われてるようじゃ、駄目だなぁ私」
「駄目なものですか! 人の上に立つ人間にとって、欠かせない素養ですよ。しかも、それを言葉では無くて、行動で表せるという事は、とても意味のある事」
リリアの私の肩に置いた手に力が入りました。
何だか、その力が、そのまま私に伝わってきたような気がして、『優しさを行動で表す』って、正にこういう事なのかなと思ってしまいました。
「それにしたって、赤鬼を前にして、すくみあがっているのだから、嫌になる」
「すくみ上がっていた? とてもそんな風に見えませんでしたけど、もの凄い太刀筋でしたよ。一瞬剣が消えたかと思いました」
「まさか!? 剣を振ったのじゃなくて、取り落としただけよ? でも、なぜ赤鬼は避けなかったのかしら」
「避けなかった? 避け、られ、なかったの間違いですよ」
「そんなはず無いわよ」
「だって、もの凄い気迫でしたよ。私、腕を振り切られた時、気を呑まれて一瞬、動けなかったですもの、先生も顔色無しで、剣をお渡しになってしまった位ですよ。お嬢があと、半歩踏み込んでいたら、赤鬼、海老の鬼殻焼みたいに真っ二つ、あの美味しい海老を二度と食べる気なくすところでした」
リリアが、とんでもない比喩表現をしやがりました。
「怖くて、ぶっ倒れてしまった位なのよ」
「無理もないですよ。死神と赤鬼が対峙している間に飛び込むのですから。肉体的には比較にならないのを、尋常ではない精神力、気迫で抑え込んで制したのですから」
とても、そのような大それた事をしたとは思えないのですが。
それはさておき、何ですか?
『死神』って!
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